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変革を語る人ほど紋切り型

今週もまた遅延しまくる糞JRで出勤せざるを得なかったわけですが、電車の中で見かけたマイナビの広告が実に狂気じみていました。もしかしたら売れない俳優とかエキストラの人々なのかも知れませんが、同じ服装に同じ髪型で同じ表情で同じポーズをしている就活生の顔写真で埋め尽くされていたのです。参考までに広告用のバナーを下に貼り付けておきますけれど、現物はもっと過激でこれをエスカレートさせた代物が掲げられていました。あまりにもひどいと思ったものですが、流石に他の人も同様に感じたのか局所的に話題となることもあったようです。

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参考、こんな日本に誰がした? シューカツ生は「クローン人間」か

まぁ、マイナビの広告がキモイ件については概ね世間でも理解されているので掘り下げて語ることは避けようと思います。もし仮に、定められたリクルートスタイルとは異なる格好をしてきた人が周りを出し抜いて就職を決めるようであれば状況は変わるのでしょうけれど、結局のところ選考に勝ち抜くのは同じ格好をした人ばかりなのですから、こうなるのはどうしようもありません。超・買い手市場が続く限り、主導権は常に採用する側にあります。採用する側は同じような学生しか選ばないのですから、学生側はクローン人間ごっこを続けるしかなさそうです。

首相、一体改革への決意強調=中間層支援へ安全網確立(時事通信)
野田佳彦首相は4日午後、京都市で開かれた国際労働機関(ILO)アジア太平洋地域会議で演説し、「少子高齢化のもとでも持続可能な社会保障制度を確立させ、この地域全体のモデルとしていきたい」と述べ、消費税率引き上げを含む社会保障と税の一体改革を取りまとめる決意を強調した。 首相はわが国の社会保障制度について「高度成長期の日本の『分厚い中間層』を支えてきた」と指摘。しかし、世界中で「社会の二極化」「格差社会」が進んだ結果、その中間層が危機に直面しているとの現状認識を示した。 その上で、格差拡大の一因とされるグローバル化に言及。「新興諸国で急速に育ちつつある新たな中間層は大きな市場を生み出す原動力」とし、中間層支援に向け、雇用面などでのセーフティーネットの確立が重要と訴えた。
さて、今日の本論はこちらです。「中間層支援へ安全網確立」といえば聞こえはいいですけれど、じゃぁ中間層の破壊を続けてきたこれまでの「改革」への総括はないのかとツッコミたくもなります。それよりもまず野田の現状認識に疑問を感じるところで、曰く「高度成長期の日本の『分厚い中間層』を支えてきた」そうですが、ならば高度成長期に現役世代だった人々の中には十分な年金を受け取ることができず、生活保護受給者増大の要因となっていることを野田はどう説明してくれるのでしょう。実際のところ日本の高度経済成長に伴う雇用機会の増大こそが貧弱な社会保障制度を補ってきたわけです。企業が雇用を維持している限りは安心できた、だけど職を失ったら転落一直線、それが日本の社会保障制度なのですから。

見かけ上は法人税率が低く見える国でも、実は社会保障費の事業者負担が大きく実質的な企業負担が重い国というのも少なくありません。一方で日本は実効税率という名の「額面」こそアメリカと同等で高い部類に入るものの、社会保障費の事業者負担は労使折半と軽めです。企業に社会保障費負担を求めない一方で、代替として雇用維持を暗黙裏に求めてきたのが昔年の日本式だったのかも知れません。実際、高度成長期は企業が雇用を維持してきたために社会保障の出番が少なくて済んだ、社会保障の不備が表沙汰になることが少なかったと言えます。しかるに景気悪化と諸々の「改革」を経て企業が雇用を維持しなくなった結果として社会保障制度の欠陥が露わになってきた、それが現在なのではないでしょうか。

企業に雇用維持を求める、というのも解決策の一つではあります。日本では、それで何とかやってきた実績もあるだけに一概には否定もできません。しかし将来的なことを考えれば、企業にしかるべく課税し、社会保障及びその財源を充実させる道を探ることは避けては通れないでしょう。にもかかわらず、「社会保障と税の一体改革」の中で出てくるのは社会保障の財源として逆進課税(消費税)を宛てようとするものであり、あろう事か逆進課税に一本化しようとする案まで出てくる始末、むしろ企業負担を軽くする方向に向かっているわけです。逆進課税に走るなら、その分だけ企業側に雇用の維持や最低賃金の倍増を求めないと整合性は取れないのですが……

「世界中で『社会の二極化』『格差社会』が進んだ」「格差拡大の一因とされるグローバル化」と、記者によって要約された部分ではありますけれど、この辺もまた大いに首をかしげるところです。本当に「世界中で」「クローバル化」によって格差拡大が進んだのでしょうか。小泉政権下で格差拡大が指摘され始めたときのことを思い出してください。日本の格差がOECD諸国中の下位に属するまで拡大したこともさることながら、日本の場合は格差が拡大するペースが群を抜いて速かったこともまた少なからず指摘されていたはずです。世界経済が成長を続ける中、一人だけ経済停滞を続けた、いわばグローバル化に取り残された日本こそが最も格差拡大の急速に進んだ国であったことは強く意識されるべきです。

世界の潮流に反して経済成長を止めた日本で格差が縮小に向かっているのならいざ知らず、そうでないならば野田は現状認識を改める必要があるでしょう。誤った現状認識に基づいて誤った対策がとられるようなことがあってはたまりません。「少子高齢化のもとでも持続可能な社会保障制度を確立させ、この地域全体のモデルとしていきたい」とのことですけれど、むしろ経済政策に関しては中国や韓国などの新興国をモデルにするかのごとき改革が続く日本です。どうにも私には、これまでの紋切り型の使い古された改革ごっこを止めて、近年の改革路線から180度方針を改めるべき時であるように思われてなりません。

少子化時代でも対応可能な社会保障制度って何でしょうか。それは少なくとも、税負担の逆進化(消費税増税)であるとは考えにくいところです。少子化時代の問題点としては、人口に占める高齢者の比率が増大して現役世代の負担が大きくなると言われています。ただ、この「現役世代」が子供だった頃のことを考えてみましょう。少子化時代の子供たちは当然ながら数が少ないわけで、必然的に教育リソースも集中投下されて育った世代です。子だくさんの時代にはあり得なかったものを、色々と与えられてきました。少子化が進んだからこそ、個室を与えられ、全世代よりは少人数での教育も受け、塾にも通うことができ、ようやく半分くらいは大学にまで進めるようになったところもあるはずです。

子だくさんの時代、子だくさんの社会では残念ながら一人一人の子供に割けるリソースは限られてきます。10人近くも子供がいるような家庭であったなら、よほどの富裕層でもない限り子供が高等教育を受ける機会は非常に小さなものとなってしまうわけです。そして義務教育に目を移しても、子供の数が多ければ1クラス50人みたいな形の授業にならざるを得ない、教員によるきめ細かい指導を望むのは難しくなることでしょう。この時代の子供が高等教育を受けて、稼げる仕事に就くのもまた難しくなります。ただ人口の多い世代であるが故に、高齢者を支える負担を分担できていた、それが年金制度を設計した当時の実情だったのではないでしょうか。

そして現在、高齢者を支える経済的な負担を分担するには子供世代の人数が少なくなりすぎたと考えられているのですが、一方で子供の教育機会は概ね順調に増加しています。ですから、高等教育がそのまま高収入に結びつく限り、一人あたりが支えるべき高齢者の数が増えたとしても対応は可能と言えます。しかるに企業側が大卒を欲しがる一方で、教育水準の高さを生かして高付加価値産業へのシフトを進めているかと言えば、全くそんなことはないのが実態です。むしろ新興国と競い合うべく賃金の抑制(安価な労働力の確保)にばかり頭が回っている、行政もそれを支援すべくズルズルと規制緩和を続けてきたわけです。これでは、将来的な破綻は避けられません。野田はこの過ちに気づいているのでしょうか?

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