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相模原事件の植松聖被告に接見するたび、社会が全く対応できていない現実に慄然とする

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 相模原事件で突きつけられたいろいろな問題に、この社会は何も対応できていない、と先に書いたが、それはひとつには、植松被告が、措置入院や障害者差別など、これまでタブーとされてきた領域に踏み込んでしまったためでもある。津久井やまゆり園、警察、そして精神科医と三者がそれぞれの判断のもとに対応して措置入院がなされたのだが、そもそもそれは犯罪予防なのか、精神的な治療なのか位置づけも曖昧なまま、阿吽(あうん)の呼吸で事が運ばれていった感が強い。社会的議論も十分とは言い難い現実のまま、植松被告に対する措置がとられ、結果的にその過程で彼は、治療によって自分の考えを撤回するどころか、具体的に犯行への決意を固めていった。

 退院後も植松被告は生活保護申請のために行政に接触したりするし、友人に自分の考えを披歴するなどしていくのだが、彼が犯行に突っ走るのをためらわせるようなきっかけは全く与えられなかった。

 12月7日の接見の時に、植松被告が突然居住まいを正すように改まって、私の考えを述べても良いでしょうか、と言ってから話始めた内容についても書いておこう。私がネットに彼とのやりとりを書いていることは植松被告も知っていて気にするので、私はプリントしたものを彼に送っているのだが、座間事件に絡めて私がこう書いたことを彼は意識し、改めてきちんと議論しようと考えたらしい。私が書いたのはこうだった。

《世間からは誤解されている面もあるのだが、彼は安楽死すべき命とそうでない命を区別しているのだが、死や命について考えていないわけではない。ただ、尊重すべき命とそうでないと彼が考える、ふたつの命をどんなふうにして線引きできるのか。そこをめぐって私とはもう3カ月間、議論し対立したままだ。

 一応は健常者とされる我々だって、いつ交通事故で障害者になるかわからないし、年齢を経て認知症になるかわからない。そもそも障害者を否定している植松被告自身、精神障害者ではないかと世間からは思われている。彼は精神鑑定で「障害」という言葉を自分につけられたことを気にして、そうでないと言っているのだが、障害者と自分とが画然と異なるわけでなくいつでも変わり得る地続きの存在であることを理解しようとしない。ただ、命の重さという点に関しては、少なくとも自分が重大な行為を行い、死刑になるかもしれないことくらいは理解している。》

 その問題はもう植松被告とは何度も議論してきたことなのだが、彼はその時、こんなふうに説明した。

 「自分は心失者とそうでない障害者との線引きはできると思っています。判断の基準は意思疎通できるかどうかです。例えば自分の名前と住所を言えるかどうか、です」

 犠牲になった19人のうち何人かは植松被告が施設職員として接したことのある人だった。そのうちの遺族が植松被告の主張に反論して、本人とは意思疎通もあったと言っていることについても、植松被告は具体的に反論しているのだが、この問題については今後も議論を続けようと思う。

 公判前整理手続きは少しずつ進んでいるようだが、裁判がいつ開かれるか全く予定は見えないようだ。予想以上に裁判が遅くなる可能性を指摘する声も大きくなりつつある。私が何度も書いているように、相模原事件は、障害者とこの社会の関係をめぐっても、これまでタブーとされてきちんとした議論がなされなかった領域に踏み込んでいる。それゆえに議論は簡単に進まず風化の一途をたどっているのだが、私はむしろそのことこそ深刻ではないかと、植松被告と接触するつど感じている。

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