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はしだのりひこの死で思い出した番組「イムジン河〜2001」- 田中秋夫

共同通信社

先ごろ72歳で亡くなった、はしだのりひこさんで思い出すことがあった。

私が開局直後のFM NACK5の編成責任者だった頃、積極的に各種の番組コンクールに出品し、結果としていくつもの賞を頂くことが出来た。

その作品の一つが、ドキュメンタリー番組「イムジン河~2001」だった。

ラジオドキュメンタリー「イムジン河~2001」

この番組は平成13年度の「日本民間放送連盟賞」のラジオ教養部門の最優秀賞を受賞した。

作品は1970年頃、はしださんもメンバーに加わっていたザ・フォーク・クルセダースがコンサートで歌っていた「イムジン河」を題材に取り上げ、この歌の数奇な運命をたどっている。

「イムジン河」は団塊世代を中心に、広く知られた歌で、朝鮮半島の南北国境を流れるイムジン河をモチーフに、民族の分断の悲しみを歌ったものだった。

番組はNACK5の金曜夜に放送している坂崎幸之助の「K,sトランスミッション」のスペシャル版という形式をとり、番組の構成は70年代からの盟友で現在は音楽評論家・ノンフィクション作家としても活躍する田家秀樹だった。

番組の前半で元フォークルのメンバーだった北山修や、作詞者の松山猛、さらに当時のレコード会社・東芝EMI(現ユニバーサルミュージック)の担当プロデューサーからこの歌が生まれたいきさつ、突然レコード会社による「発売禁止」「要注意歌謡曲」指定になった経緯を取材している。

後半では、その後北朝鮮と韓国の複雑な南北間の経緯を経て、韓国でも歌われることになり、さらに30年後の日本でも再び発売され、放送されるようになった背景等を関係者から取材し、構成したものだった。

この番組は冒頭の賞を受賞したのに留まらず、その後、井筒和幸監督の映画「パッチギ」が生まれるヒントになったという。さらに番組出演者の坂崎幸之助と北山修、そして、今は亡き加藤和彦の3人によるフォークル再結成という大きな成果まで生みだした。

在日韓国人の女子大生も衝撃

私が講師を務めていた日大藝術学部放送学科の学生たちにこの作品を聞いてもらい、感想を書いてもらったことがあった。彼らは、当然ながら「ザ・フォーク・クルセダース」の存在については、ほぼ全員が知らなかったが、「イムジン河」の歌については「聞いたことがある」との反応が多かった。そして、学生全員が感想として「このドキュメンタリー作品に感動した」と書いていた。

特に強く反応していたのは、学生の1人、在日韓国人の女子学生だった。

彼女は感想で「イムジン河の歌詞で『誰が祖国を二つに分けてしまったの』という部分に衝撃をうけました」と書き、「番組中、ライブでフォークルが『隣の国について無関心でいることはやめて下さい・・・』という言葉がありましたが、胸をうたれました。日本人の方がこのように思っているのに、在日韓国人の私が関心を持っていなかったなと感じました」と記していた。

今、「尖閣諸島」「竹島」「北方領土」等、日本を取り巻く国際情勢は、国境問題をめぐって揺れている。その結果、日本で「国土防衛」「国防軍」が声高に叫ばれ、在特会によるヘイトスピーチデモで「在日帰れ」と白昼堂々と叫ばれている。きな臭さを感じるのは私だけだろうか?

「イムジン河2001」の番組後半で松山猛氏は次のように語っていた。

「地理的な意味ではなくイムジン河は『人と人との間に横たわっている冷たい河』かもしれない。理想論にすぎないかもしれないが、ちょっと立場を変えてみると、解決出来る問題のように思いたいし、そちらの方向に人間は歩んでいくべきだ。ということをあの曲から感じてほしい」。

田中秋夫プロフィル
1940年生まれ。一般社団法人放送人の会・理事。元FM NACK5常務取締役。 1964年、文化放送にアナウンサーとして入局、その後、制作部に。「セイ!ヤング」や「ミスDJリクエストパレード」など深夜番組の開発に尽力し、ラジオ界での名物ディレクターとして知られる。1990年にFM NACK5に編成・制作の責任者として転籍。ラジオ番組のコンクールでは「浦和ロック伝説」「イムジン河2001」「中津川フォークジャンボリー」等で日本民間放送連盟賞受賞。

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