- 2017年12月06日 12:40
エンディング・ノートにはまず、遺産相続の話をきちんと書くべき。中流でこつこつ貯めてきた家庭ほど、実は後に揉めることが多い - 「賢人論。」第48回富家孝氏(中編)
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医師兼ジャーナリスト・富家孝氏を招いた「賢人論。」第48回。当事者としての知見を武器に、医療という“聖域”に斬り込む痛烈な著書を数々記してきた氏が、終末期医療の観点から、パンク寸前の医療費について所見を述べる。中編では、上手に老いていくための心構えと、そして終末期への備えについて訊いた。
取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人
老いに抗うのでなく、上手に老いるべし
みんなの介護 前編「医療費を垂れ流すだけの延命治療を見直し、子供や若者、治る患者のためにもっと予算を回すべき」では、延命治療をはじめ終末期に関するお話を伺いました。「終活」や「エンディング・ノート」など、自分の最期を考えることへの関心も最近高くなってきていますが、残される家族には、具体的にどのようなことを書き残せばいいのでしょうか。
富家 世俗的で申し訳ないですが、まずは「お金」のことをきちんと書いておくことが大事ですね。長男にいくら、次男にいくらやるとか、今自分が住んでいる家は誰にあげる、とか。それさえきちんとしていれば、遺族が揉めることはなくなりますからね。
遺産相続というと、何億円単位の大金持ちの家を想像するかもしれません。でも、一般的な家庭にも決して無関係な話ではないんですよ。むしろ、中流家庭でコツコツ数千万円を貯めてきた、というところの方が、遺産を巡って揉めることが一番多いんですよね。
みんなの介護 「書き遺すほどの資産はないし…」などと思わず、資産整理は誰もが考えておくべきことなのですね。
富家 それから、前編「医療費を垂れ流すだけの延命治療を見直し、子供や若者、治る患者のためにもっと予算を回すべき」でも触れましたが、希望の死に方を書いておくこと。書き遺していないと、尊厳死協会にでも入っていない限り、本人がどういう最期を迎えたかったのか誰にもわかりませんよね。そういうケースは非常に多いです。すると、家族の方としては「できる限りの延命治療をしてください」とお願いするほかなくなってしまいますから。
もうひとつ、終末期の話以前に必要なのは、“老い”についての正しい知識を教えていくこと。60歳代、70歳代になっても案外「若いときとは身体が違う」という当たり前のことさえわかっていない人が多い。例えば、多くの高齢者がかかる「変形性膝関節症」は、何も特別な病気ではありません。加齢によってごく自然に起こる身体の変化なのに、あたふたしてしまうんですよね。
みんなの介護 小中学生でいう「保健体育」の授業のように、高齢者が自分の身体のことを学ぶ場が必要なのかもしれませんね。
富家 もう若くないのに、昔と同じ負荷をかけて一生懸命ランニングしている人も多いですが、年齢に応じた運動量というものを理解しないと。身体を鍛えて良いのは40歳くらいまでの話。その後は「身体を労る」ということを覚えていかなければいけないですよ。
「運動」と聞くとどうしても汗だくになるような激しいものをイメージしてしまいますが、ちょっと近所を散歩するとか、肩を回すとか、そういうことでもいいわけですからね。過度な運動はむしろ逆効果です。
一方、よく言われる“食事”に関しては、あまり健康とは関係ない気がしますけれどね。もちろん「1日にタラコを1本食べる」とまでいくと、さすがにそれは塩分の摂りすぎでしょうということになりますが。すべての病気は、突き詰めれば老いから来るもの。無理に抗おうとするのではなく、どう付き合っていくかを学ぶ方が大切だと思いますね。

70歳代半ばは、老いのひとつの節目
みんなの介護 “アンチエイジング”や“美魔女”などの言葉も流行ったように、“若さ”だけが脚光を浴びがちな昨今。「上手に歳を取る」ということには意外と目が向けられていないようです。
富家 100歳を超えて大往生した方や「生涯現役」で高齢まで働く人たちを、メディアは美しい話として飾り立て、褒め称えることが多いですよね。もちろん、高齢まで生きているというのは大変なことですし、立派だと思うのですが、一方では、自分の引き際をきちんと決めておくのも大切。老いとともに病気は増えていくことですし、自分から若い人に席を譲っていかないと。
みんなの介護 75歳以上は「後期高齢者」と呼ばれます。やはりその時期はひとつの節目でしょうか?
富家 そうですね。男性の平均寿命は約81歳、女性は約87歳ですが、だいたい、70歳代半ばから後半にかけて病気が出てきて、それから5年ほどで亡くなる、という方がたくさんいらっしゃいます。最近だと、大橋巨泉さんや永六輔さんの最期もそんな感じでしたね。
私たち医師には定年がありませんから、70歳を超えて働いている方もいますが、それでも80歳近くになるとさすがに病気が増えてきて引退へ、というパターンが多い。その75歳~80歳というひとつの潮目を超えた方は90歳、100歳と長生きするわけですが。
みんなの介護 医師などを除いた一般的な職業では、定年は65歳。平均寿命は80歳余りですから、差し引き、老後は20年ほど。大変長い期間ですね。
富家 私が小学生だった1953年には、男性の平均寿命は61.8歳でした。その頃の定年は55歳。大学を出て30年働いた後、10年もせずに亡くなっていたんです。ところが今は、会社の役員などにならない限りは65歳で仕事がおしまい。そこから老後20年というのは、ある意味きついですよね。



