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北朝鮮が11月29日発射した火星15型ミサイルの分析 - 西村金一

 北朝鮮は11月29日、火星15型ミサイル(ICBM)を平壌の郊外から発射した。ミサイル飛翔到達高度は4,475km、飛翔時間は53分だった。これまでの火星14型(7月28日発射)は、到達高度約3,700km、飛翔時間は約47分が最高であった。北朝鮮は、この能力を大幅に向上させてきた。つまり本格的な新型ICBMを完成させたことになる。そして、米国の全ての都市にミサイルを撃ち込むことが可能になったことを証明した。北朝鮮のミサイル開発は新たな段階に入り、国際社会にとって大きな脅威になったと言える。

 北朝鮮は9月3日6回目の核実験に成功し、その威力は160ktに達し、水爆の可能性も否定できないと防衛省が発表した。核兵器については、少なくともブースト型核分裂爆弾には完全に成功したと評価できる。つまり、この実験の成功は、極めて近いうちに小型化が可能であることを意味している。また、火星15型ミサイル弾頭部が大型化されたので、来年中には、「小型化した核爆弾を搭載することができる」と私は見ている。

 ただ、北朝鮮の脅威に驚いてばかりいてはいけない。過去を振り返って見ると、北朝鮮が核危機により瀬戸際外交を最初に行った1990年半ばというのは、北朝鮮に数百万という餓死者がでた時期とも重なっていた。北朝鮮は1994年の米朝枠組み合意により、日本や韓国から膨大な支援を得ることによって、深刻な経済危機を乗り越えた。もし、あの時、現在と同様に圧力を強めていれば、金一族による体制は崩壊していたかもしれないのだ。

 現在、北朝鮮の核・ミサイル開発のスピードが速い。早くしなければならないのには、理由がある。米国に核兵器の脅威を見せつけ、米国から攻撃を受けないための抑止力である。これとは別に、最初の核危機の時と同じように、金正恩体制や北朝鮮国内の不安定(危機に近い)さにある。後者についても考慮に入れて、この危機を読み解かねばならないだろう。したがって、早々に話し合いを行い、核凍結の合意を決め、経済支援を行うことによって、金正恩体制を延命させることは、絶対にあってはならない。

 以下、飛躍的に性能が向上している火星15型ミサイルの技術分析について解説する。

1.ミサイル本体

 ・ 火星14型と比較すると、ミサイルの全長が19.5-19.8mから21mに、1段ロケットの部分では直径が1.7-1.9mから2.0mに、第2段ロケットの部分が約1.4mから2.0mに大型化した。

 ・ 第1段ロケットエンジンは、大型メインエンジンが2つある。火星12型、火星14型にあったような補助エンジンはない。

 大型のエンジンが2個になり第1段ロケットの推力が増加した、第2段ロケットも大型化したことにより搭載燃料も増加したと考えられる。この二つの理由により、飛翔到達高度及び飛翔時間が増大したものと推測できる。火星14型は1万キロの飛翔距離であった。今回の大型化したミサイルの飛翔高度および距離から推測すると、通常軌道による飛翔距離は1万3千キロ以上であると評価してよい。米国シンクタンクの情報にも同様の分析結果がある。

 今年の3月に実験したエンジンだと考えられるが、ロシア製かどうかは、今後分析する必要がある。

 エンジン噴射口から出る火炎も、これまでのものより太くて長い。その理由は、メインエンジンが2つになったこと、メインエンジンの性能が向上した結果であろう。

 ・ 弾頭部分が大きくなった。大きい容積と重い重量の爆弾、核弾頭を搭載できる。更に、多弾頭(子弾3個)を搭載できるだろう。

2.搭載車両及び発射装置

・ 火星14型と比較すると、車輪が8軸から9軸になり、その分、車両の長さが長くなっている。更に、重量が重くなったので、車輪を増やしたのだろう。特に、第2段ロケットや弾頭部が大型化したことにより、重心がかなり前にきたことを考慮したものになった。

・ 長い重いミサイル本体を立ち上げ支えるために、油圧軸が1本から2本に増加したと見ている。

・ 発射台の下に、木材(あるいは茶色の鉄の枠組み)でつくられた固定台(枠組み)が設置されていた。大型化したミサイルの起立と発射を安定するためであったのだろう。発射装置が完全に完成していないので、即席で製造したものだろう。

・ 移動時の写真には、道路の端と車両のタイヤが移動する経路に石灰で書かれた白い線が見える。夜間の車両移動のため、操縦を間違えて道路の外にはみ出すこと、あるいは車両がセンターを外しコンクリートが少ない簡易道路が壊れて、ミサイルが転倒することを防いだのではないか。

 上記の固定台と併せて、なんともレベルが低い部分も見え隠れしている。

3.ミサイル発射と飛翔

・ 発射2分11秒後に、閃光が見えた。ミサイルの上昇速度を秒速3kmだとして、経過時間131秒を掛け算すると、飛翔高度393kmの位置で閃光が光ったものと推測できる。つまり、無重力の高度約400kmで第1段ロケットを切り離し、第2段ロケットのエンジンが点火したものと推測できる。

・ ミサイル落下と同時刻の午前4時10分頃、新潟市で北西の空に光る物体が落ちていく様子がドライブレコーダーに記録されていた(TBSひるおび12月1日放送)。二つの光る物体は、数秒の時間差があって落下した。これは、弾頭を支える部分から切り離された多弾頭の子弾が先に落下して、次に弾頭を支える部分が落下したのではないかと考えられる。

  最初の閃光は、かなり低い位置まで落下していた。弾頭が大気圏再突入の際に燃え尽きないように、弾頭部の先端に取り付けられているノーズコーンの性能が向上、あるいは成功した可能性もある。今後注目すべき事項である。

・ 事前発射兆候について、ソウルの軍事関係筋によると、「11月27日に、テレメトリー信号が発信されていた」ことを明らかにした。テレメトリー信号は、ミサイルが発射されてから飛翔中にミサイルの弾頭部から発信されて、地上や航空機がその信号を受信する。その信号には、ミサイルの飛翔状態のデータが含まれると言われている。北朝鮮は、発射前に、テレメトリー信号の発信が正常に行われるのか確認したものと考えられる。北朝鮮が、今後も実験する場合には、この信号を発信するであろう。この情報が、発射が近づいたことを表わす兆候になる。但し、戦争状態では、テレメトリー信号が発信されることはないから、戦争時にミサイル発射を事前に察知することは、極めて難しくなる。

4.将来予測

 北朝鮮は、今後ともミサイル技術の開発に猛進するであろう。特に、通常の角度(45度の角度)で発射し、通常の軌道で飛翔し、日本とハワイの中間の海域に、多弾頭を落下させる実験を行う可能性がある。最悪なのは、今回開発したミサイルに、核爆弾を搭載して、太平洋に落下させる実験を行うことだ。

西村 金一(にしむら きんいち)
1952年、佐賀県生まれ。陸上自衛隊少年工科学校生徒入隊、法政大学文学部地理学科卒業、自衛隊幹部候補生学校修了、幹部学校指揮幕僚課程(33期CGS)修了。
防衛省情報分析官、防衛研究所研究員を経て、第12師団第2部長、少年工科学校総務部長、幹部学校戦略教官等として勤務。定年退官後、三菱総合研究所国際政策研究グループ専門研究員、ディフェンス・リサーチ・センター研究委員、現在は軍事・情報戦略研究所所長。
著書『北朝鮮の実態』―金正恩体制下の軍事戦略と国家のゆくえ―(原書房)、共著『自衛隊は尖閣諸島をどう戦うか』(祥伝社)がある他、メディアへの出演多数。

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