定年後の楽園の見つけ方 ―海外移住成功のヒント (新潮新書)
- 作者: 太田尚樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/10/13
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 太田尚樹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2017/10/20
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内容紹介
人生の最後には、楽園が待っていた――。老後といえば暗い話ばかりが聞こえてくる昨今だが、本書で紹介するのは、しがらみから離れ、海外で第2の人生を謳歌する人々の物語。フィリピンで17歳の花嫁と結ばれた元銀行マン、マレーシアの浜辺で暮らす元大学教授夫妻、地中海に住みついた元テレビマン……。きっかけは、何も試さないで老後を迎えることへの軽い疑問だった。「豊かな定年後」のためのヒントがここに。
定年後に海外、とくに東南アジアに移住して、のんびり暮らしたい、あちらでは、物価も安いから、日本にいるより、相対的に「豊かな暮らし」もできるはず……
10年くらい前に、そういう老後の過ごし方がけっこう話題になりました。
困窮している日本の高齢者の話を聞くたびに、「国外脱出」もひとつの手なのかな、とも思うのです。
僕の場合は、一から人間関係をつくりなおすのも、海外の文化に慣れるのもめんどくさいし……ということで、現時点ではそういう人生設計は立てていません。
実際にやってみた人たちが「現地の習慣にどうしても合わなかった」とか、「やはり、知り合いや家族がいる日本がいい」と日本に帰ってきたり、店で知り合った女性を追ってフィリピンに来てみたら、なんのかんのと理由をつけて所持金をほとんど使い果たし、日本に帰ることすらできなくなってしまった、なんて話も聞きますし。
正直、「海外移住を薦める、宣伝記事」みたいなもの以外では、あまり成功例を知る機会って、なかったんですよね。
この本では、著者自身が直に接した「海外で老後を過ごしている日本人」の、さまざまな生きざまが紹介されています。
だが、ボホール島を訪ねる機会がないまま月日がたち、野田さん(仮名・63歳)に再会したのは、3年がたった2016年春のことだった。
よく見ると、髪に白いものが少し増えてはいたが、むしろ以前より元気で顔色もつやつやしている。わたしがびっくり仰天したのは、アイリーンのほうだった。
まだ表情にどこか幼い面影を残しているものの、彼女の胸には子猿が吸いついたように、赤子がしっかり抱かれていたからである。よく見ると、優しげな彼女の視線と赤ん坊の反応からは、母子の一体感が伝わってくるし、アイリーンには母親の匂いが漂っている。子供は生後半年になるアイコという名の女の子だという。
わたしの表情に気がついた野田さんは、照れ笑いした。「こういうことになりました。世の中、まわりをみると我慢して生きている人が多すぎますね。ま、それをやめた結果です」
野田さんのドラマのような話がつづいた。日本にいる奥さんとは、それまで手紙で連絡を取り合っていたが、2年ほど前から関係がギクシャクしはじめた。原因は結婚した娘さんが出戻ってきていっしょに住むようになり、奥さんの母親も娘も、奥さんがフィリピンに住むことに猛反対しだしたことだった。もともと野田さんと義母は折り合いが悪かった。
それからしばらくして、離婚届までタグビラランに郵送されてきたので、野田さんはアイリーンに後のことを頼んで、いったん帰国する。「家族でだいぶ話し合ったのですが、女3人の絆が固くて……。それでわたしも決断しました」
結局、大きな家屋敷はそっくり奥さんに渡して預貯金は折半。そのかわり、年金はすべて野田さんのものになった。
野田さんは、このアイリーンという女の子とデキてしまって、ここに至る、という話なのです。
大学に行くつもりだったというアイリーンの学業も、中断することになりました。
この顛末を読むと、人間にとって「幸せ」とか「他人からの評価」って、何なんだろうな、って思うんですよ。
住み込みで家の手伝いをさせるかわりに、学費を援助してほしい、と地元の神父さんから頼まれた15歳の女の子・アイリーンを、紆余曲折の末に、数年後、「妻」にしてしまう人の話を読んで、僕は「なんだかなあ……」って苦々しい気持ちになりました。
もしかしたら、先方としても「そういうのも織り込み済み」での紹介だったのかもしれませんが、それにしても、ねえ。
ただ、僕自身も年を取ってきて痛感するのは、「人間の死の後に残るものが『無』であるのなら、(犯罪にならない程度で)自分の欲望のままにふるまったほうが、人生を楽しんだことになるのでは」ということなんですよね。
死んでから(あるいは、遠く離れた日本で)何を言われようが、どうせ自分にとっては「無」だしな、と割り切れれば、今、ここで楽しければ、それで良いじゃないか。
周囲から蔑まれる(内心では羨ましがられることもあるでしょうけど)、とか、経済格差を利用して若い女性と結ばれるなんてみっともない、というような自意識を外してしまえば、本人としては、「とりあえず今は幸せ」なはずです。
それで、なんらかのしっぺ返しが来る、かどうかはわからない。
年齢とともに、きれいに枯れていく、というのは、案外難しいのかもしれません。
そこには、そういうチャンスがあり、嫌がる相手を無理やり、というわけじゃない。
お金目当てであっても、お互いの利害が一致すれば、それはそれで、悪いこととは言いきれない。
まあ、現地の若い男性には、反感を持たれるでしょうけど。
そして、日本も、いつまでも「経済力で東南アジアの国々を上回り続けられる」とは限りません。