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続編ほど客が増えるアメコミ映画の気楽さ

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■終わりのないリゾート地のドライブ

実は、ハリポタとMCUには大きな違いがあります。ハリポタはストーリーが一本道ですが、MCUは並行して何本も道を走らせているのです。

ハリポタの目的は「目的地に行くこと=物語を完結まで付き合うこと」ですが、MCUの目的は「いろいろな道のドライブを楽しむこと=その世界観に浸ること」――とも言い換えられるでしょう。

たしかにクロスオーバー作品は、他に観ていない作品があると、物語を完全には理解できません。しかし90年代半ば以降、ほころびのない物語を完全に理解・把握することだけが作品鑑賞の態度ではなくなりました。その好例が、95~96年にTVシリーズが放映された『新世紀エヴァンゲリオン』ではないでしょうか。

同作は作品内で数多くの謎が提示されましたが、すべてが明らかにならないまま、物語を終えました。2007年からは劇場版でリブート作品が公開されていますが、謎が解かれるどころか、新たな謎が浮上すらしています。にもかかわらず、「エヴァ」はたくさんのファンを生み出しました。

なぜこの状態がOKなのかと言えば、観客は物語の結末だけを求めているわけではなく、世界観を愛(め)でること自体を目的としているからです。

これは東浩紀さんが2001年に『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)で提唱した「データベース消費」に他なりません。かつてはサブカルチャーの分野にのみ適用されていた消費の形態が、娯楽として最も裾野の広い「世界展開するハリウッド映画」に適用されたのが、10年代なのです。少なくとも昨今のクロスオーバー作品は、そういう客層によって支えられています。

それゆえMCUはいつまでたっても終わりが見えません。敵が現れ、倒したと思ったら黒幕がいることをラストで匂わせ、次回作に持ち越す。それを延々と10年近くも続けています。目的地を設定せず、広大なリゾート島の周囲を、オープンカーでずっとドライブしているイメージです。

■クロスオーバー作品は「OS」

ハリポタ的なシリーズは作を重ねるごとに尻すぼみになりますが、クロスオーバー作品はむしろ逆。たとえるなら、新しく登場したOSが年月を経てどんどんバージョンアップしていくようなものでしょうか。

最初はユーザーが少ないものの、キャズムを超えたところでユーザーは一気に増加トレンドに転じ、対応アプリはどんどん増え、各社から搭載端末がこぞって発売されるようになります。OSを中心としたエコシステムが広大に構築され、ビジネスチャンスが増大するわけです。

同じようにクロスオーバー作品群も、作品数が増えれば増えるほど、作品同士の連携によって露出機会が増え、シリーズ間の観客の行き来が頻繁になります。観客は観ていない作品に対する興味を喚起され、レンタルや配信で追っかけ視聴します。製作側としては、知名度の低い役者が知名度の高い役者に引っ張られてブレイクさせられるメリットも享受できる。さまざまな経済活動が活性化して、「みんなが幸せ」になるのです。

クロスオーバーとは、一見して「一見さんお断り」の囲い込みに見えて(その側面は確かにあるでしょうが)、一方で「経済機会の拡大」にも大きく寄与する、とてもよくできたシステムなのです。

■10年代後半、薄まる政治テイスト

このように、ここ数年でスキームを確立したクロスオーバーモデルですが、ここ2、3年はある傾向に気づきます。それは、10年代前半までの作品に比べて最近の作品は、「現実の政治」に対する批評的アプローチが薄まったということです。

アメコミ映画の醍醐味のひとつに、現実のアメリカ国内政治を想起させる組織論や「国家vsヒーロー」といった政治的対立を、うまくエンターテインメントに織り込み、ついでにアメリカ人の自尊心や誇りを問う――という側面があります。

MCUで言えば、『アイアンマン』3作(08年、10年、13年)も、『キャプテン・アメリカ』の最初の2作(11年、14年)も、そうでした。お祭り映画ゆえにやや能天気な作風を志向する『アベンジャーズ』の1作目(12年)も、「核抑止力」的な主題を脚本に織り込んでいたのです。

しかし2015年の『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』あたりを境に、物語が帯びる政治テイストは薄まります。深刻さが減退し、明るいトーンの作品が増えていったのです。

新規シリーズである『アントマン』(15年)、『スパイダーマン:ホームカミング』(17年)は明るいコメディタッチですし、『ドクター・ストレンジ』(17年)も深刻ではありますが、現実の政治というよりはSFファンタジーに振った世界観です。前2作がかなり政治臭く、批評的評価も高かった『キャプテン・アメリカ』ですら、16年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』では政治テイストが薄れました。

■敵の造形はまるで子供向け戦隊ヒーローもの

DCUにも、その傾向が見られます。

『マン・オブ・スティール』(13年)は、異星人の王族がクーデターに遭い、生き延びた赤子(スーパーマン)が成長して故国の敵と戦いながら、いわば“移民”としてアメリカに受け入れられる話。『バットマンvsスーパーマン』(16年)は、法治国家アメリカという舞台で、2人のアメリカ人たるバットマンとスーパーマンが異なる正義論をぶつけあう話でした。

ところがその続編である今回の『ジャスティス・リーグ』では、現実の政治的背景や組織論や国家との対立などは描かれず、単純な勧善懲悪が展開します。敵の造形はまるで子供向け戦隊ヒーローもののそれような「宇宙から来た悪い侵略者」の典型で、主人公たちが「正義とはなんぞや」と悩んだりすることもありません。

この8月公開の『ワンダーウーマン』も政治色は薄めでした。ややフェミニズムの色はありますが、基本的には明るく元気な快活アクション。程度の差こそあれ、MCUもDCUも、リアリズムよりはファンタスティックにかじを切っている気がしてならないのです。

■『シン・ゴジラ』の政治テイスト

もし政治テイストの脱臭がハリウッドのトレンドだとしたら、その理由はなんでしょうか。

マーベル社やDCコミックス社のように、世界市場を相手にビジネスを展開する場合、鑑賞にあたってアメリカ国内の政治リテラシーを必要とする内容は、他国で理解されにくいからなのか。

あるいは、トランプの大統領就任などに代表されるよう、現実の政治変革があまりにもドラスティックすぎるため、下手に政治テイストを取り入れて現実との齟齬が目立つことを危惧しているのか。

はたまた、「アメリカ人の自尊心」をあまり前面に出すと国際市場で受けが悪いと踏んでいるのか……。

そんななか、日本ではとても巧みに政治を特撮エンターテインメントに組み込み、かつ「日本人の自尊心」を刺激する日本映画が、昨年大ヒットしました。『シン・ゴジラ』です。興収は82.5億円。ここ10年でもっともヒットしたアメコミ映画である『アベンジャーズ』(36.1億円)の実に2倍以上です。

■自国民の自尊心を鼓舞する方向に?

『シン・ゴジラ』は、ゴジラ襲来を東日本大震災に比した国家的有事に見立てた作品です。政府の対応策のまずさ、東京都心が放射能汚染した場合のリスク、有事での日米安保条約の運用など、さまざまな政治的問題を作劇に組み込んでいました。その上で、官僚たちの奮闘によって危機を脱する状況を感動的に描き、「この国はまだやれる」「危機が日本を成長させている」といったセリフによって、多くの現代日本人の承認欲求を満たしたのです。

政治テイストを脱臭する方向にかじを切り始めたハリウッド特撮と、政治テイストを徹底的に入れ込むことによってヒットした日本の『シン・ゴジラ』。非常に対照的です。

『シン・ゴジラ』がMCUやDCUのようにシリーズ化・クロスオーバー化するかどうかは知る由もありませんが、もし国内で続編を作り、「GODZILLA」として国際マーケットに持っていくなら、政治テイストは薄めるのが得策でしょう。

逆に国際マーケットなど意に介さず潔くガラパゴスを決め込むなら、よりいっそう自国民の自尊心を鼓舞する方向にかじを切るべきではないでしょうか。それこそ、かつてのハリウッド映画がそうしていたように。

(編集者/ライター 稲田 豊史)

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