- 2017年12月03日 11:15
続編ほど客が増えるアメコミ映画の気楽さ
1/2編集者/ライター 稲田 豊史
かつて映画業界には「続編は興行収入が8掛けになる」という経験則がありました。ところが、最近人気のアメコミ映画は続編になるほど興収が増える傾向にあります。なにが変わったのか。初登場1位となった映画『ジャスティス・リーグ』から、ライターの稲田豊史さんが考察します――。
[画像をブログで見る]
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC『ジャスティス・リーグ』
■製作国:アメリカ/配給:ワーナー・ブラザース映画/公開:2017年11月23日
■2017年11月25日~10月26日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)
■冒頭から「スーパーマンが死んでいる」
バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマンといったアメコミ(アメリカンコミック)のスーパーヒーローたちが集結してド派手なアクションを繰り広げる『ジャスティス・リーグ』が、初登場第1位に輝きました。本作はタイトルに「2」とか「3」といったナンバリングは振られていませんが、れっきとした続編です。
映画が始まると、スーパーマンが何らかの事情で死を遂げており、アメリカ中が追悼ムードである状況がいきなり描かれます。事情を知らない人はついていけませんが、それもそのはず。本作は、16年に公開された『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』の直接的な続編なのです。
もっと言えば、『バットマンvsスーパーマン』も、13年に公開されたスーパーマン単体主演の映画『マン・オブ・スティール』の続編。つまり『ジャスティス・リーグ』の物語をちゃんと理解するには、2本の映画を事前に観ておく必要があるわけです。
ただ、それでも理解度は80%ほど。あと20%は、今年8月に公開された『ワンダーウーマン』という映画を観ておかなければなりません。これでやっと、『ジャスティス・リーグ』に登場するダイアナという女性が古代女剣士の格好で戦っている理由や、本編に登場する異世界がなんなのかがわかります。本編内では一切説明されません。
■ドラえもんとオバQが同じ作品に出る
続編であることをはっきり明示しないのはともかく、別の作品のヒロインが出張出演するなんて……と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。これは「クロスオーバー」と呼ばれる、昨今のハリウッド映画界でおなじみの手法なのです。
クロスオーバーとは、別々の作品の登場人物が同一世界観上に存在している状態のこと。ドラえもんとオバケのQ太郎とエスパー魔美が同じ1本の映画に出たり、『ドラえもん』に魔美がゲスト出演したりするようなものです。
直近の映画業界においてこの手法を成功させたのは、アメリカのコミック出版社であるマーベル社です。同社はマーベル・スタジオという映画会社を通じて、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、スパイダーマンといった自社原作のヒーローたちを次々と映画化。意図的に互いの作品にゲスト出演させ、ときには一同に会する作品も製作してヒットを連発しました。2008年から始まったこの同一世界観のことを、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」と呼びます。
そのスキームの成功を見て「うちも!」と乗り出したのが、『ジャスティス・リーグ』の原作元であるDCコミックス社。彼らはMCUに対抗(?)して、「DCエクステンデッド・ユニバース(DCU)」と銘打ちました。日本と違い、作品の著作権が著者個人ではなく出版社に帰することの多いアメリカならではの手法といえるでしょう。
DCUは2013年に始まったので作品数はまだ5本ですが、MCUは現時点でなんと17本。先々に公開が控えている作品もたくさんあります。今後、冒頭で触れたように「なんでスーパーマンが死んでるの?」と戸惑う観客が増えていくことのは必至。なのになぜ、クロスオーバー作品は製作され続けるのでしょうか。
■「続編は8掛け」という経験則が……
筆者が短期間だけ映画業界に籍を置いていた90年代、ある先輩から「続編は前作の8掛け」と教わりました。ストーリーが継続している続編は、前作を見ていなければ観客がついていけない。であれば、作を重ねるごとに興収は少しずつ落ちていくものだ、という意味です。分冊百科の読者が巻を重ねるごとに「脱落」していくようなものです。
[画像をブログで見る]
『ジャスティス・リーグ』の宣伝ポスター
実際、その法則は2001年に第1作が公開された「ハリー・ポッター」シリーズにも当てはまります。ハリポタは2011年までの間に全部で8作品が製作されましたが、国内興収の変遷は1作目から順に203億円→173億円→135億円→110億円→94億円→80億円→68.6億円→96.7億円。最終作は長いシリーズの結末を描くということもあって回復しましたが、漸減傾向であることに間違いはないでしょう。日本映画の続編ものも、だいたいこんな感じだと思います。
ところが、クロスオーバー作品からは、異なる傾向が見て取れます。以下はMCUの主なシリーズの興収変遷ですが、明らかに3作とも作を追うごとに興収が上がっています。
●「アイアンマン」シリーズ
08『アイアンマン』*データなしだが10億円以下と推察される
10『アイアンマン2』12.0億円
13『アイアンマン3』25.7億円●「キャプテン・アメリカ」シリーズ
11『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』3.1億円
14『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』7.0億円
16『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』26.3億円●「マイティ・ソー」シリーズ
11『マイティ・ソー』5.0億円
14『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』6.4億円
17『マイティ・ソー バトルロイヤル』*公開中※タイトル前の数字は公開年。興収は日本映画製作者連盟の発表値などを参考とした(本文中の興収も同様)
これらのシリーズの間を縫うように、各ヒーローが集結して「お祭り」状態となる作品が、12年に『アベンジャーズ』(興収36.1億円)、15年に『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(32.1億円)として公開されました。いずれも大ヒットの部類に入ります。
それにしても、なぜ「8掛けルール」が通用しないのでしょうか。
- PRESIDENT Online
- プレジデント社の新メディアサイト。