- 2017年12月02日 11:15
「浮気」で慰謝料を取られるとは限らない
弁護士 中里 和伸 弁護士 野口 英一郎
タレントや政治家らの「不倫」が次々と取り沙汰されている。しても、されても、行きつく先は修羅場だろう。では、そうした修羅場では、いくらのカネが動くのか。最新「慰謝料事情」について、東京暁法律事務所の中里和伸弁護士と野口英一郎弁護士に聞いた――。■裁判官によって真逆の判断もある
今では、妻が夫の浮気相手に慰謝料を請求することは珍しくありませんが、戦後間もなくまでは、不貞相手に対して慰謝料を求める原告は、夫が圧倒的に多いものでした。この流れを大きく変えたともいえるのが、1962年の、夫の浮気相手に30万円の慰謝料を妻へ支払うよう命じた裁判例です。国家公務員の初任給が1万5700円の時代ですから、現在の貨幣価値に換算して300万~400万円になります。この判決は新聞記事にもなり、『妻が夫の愛人に対して行った慰謝料請求が認められた例は珍しい』と書かれています。
不倫の裁判では、同じようなケースでも裁判官によって真逆の判断をされる場合もあります。例えば3年前、夫と不貞行為を行ったクラブママに対して慰謝料請求を求めた裁判が話題になりましたが、東京地裁は「枕営業」にすぎないとして「不倫」とは認めませんでした。
しかし、過去の同種の複数の裁判例では「不倫」にあたる判断を示しています。ほかにも「大好き」等と愛情表現を含めたメールが不法行為にあたるかが争われた複数の裁判でも、裁判所の判断は分かれています。
不倫は民法に抵触する行為で、慰謝料請求は民法709条「不法行為」に基づく請求として行われます。不倫の相手を既婚者と知って肉体関係を持てば、その2人は共同で配偶者への賠償責任を負うのが一般的です。しかし、慰謝料の額については判例によってさまざまです。事故態様などを類型化したうえでの判断が示されている交通事故の損害賠償請求訴訟とは異なり、不倫に関してはそのような統一したルールがありません。
慰謝料は、精神的苦痛という形のないものを金銭に見積もるだけにその算定は難しく、被害者の精神的苦痛の程度、発覚後の離婚の有無、年齢や婚姻期間、子どもの有無や不貞行為の前後の夫婦関係、浮気の期間などを総合的に加味して決まります。
■離婚原因が不倫だと慰謝料は増額される
判決に至る不倫の慰謝料は、100万~300万円が多くなっています。昔は不倫をした夫なり妻なりの収入や資産の多寡が慰謝料の額に影響しましたが、最近ではその点はほとんど考慮されていません。
夫婦が離婚に至り、その原因が不倫によるものだとすると慰謝料に大きな影響を与えます。一般に、離婚した場合のほうが高くなり、離婚しなかった場合に比べ金額が2倍ほど違うこともあります。逆に婚姻は継続したまま、浮気相手だけに慰謝料請求を求める例も少なくありません。ただ、「報復」のために裁判所を使うのはおかしいという考え方もあります。
ほかにも慰謝料が増額されるケースとして、婚姻関係や不貞行為が長期間であったり、小さい子どもがいる場合などがあります。特に不倫発覚後、「もう付き合いはやめます。この人と二度と会いません」と誓約書まで書いたのに、その後も関係を続けた場合は、増額の幅が大きいです。
芸能人など有名人は、裁判にしたくないために示談にすることが多いようですが、そうなると慰謝料は高くなる傾向にあるようです。傍聴人のいる公開の場で、夫婦関係や不倫の経緯、性行為の回数・頻度、メールの内容等といった赤裸々な事実が明らかにされることを恐れて裁判を避けるのでしょう。
裁判では、性行為が認定されなくても不倫と認められるケースも見受けられます。例えば、日本を代表するオペラ歌手は糖尿病により性的不能だったため、相手の女性との間に性交がなかったと認められました。しかし、女性宅をたびたび訪問し、下着姿で抱き合ったり、女性の手がオペラ歌手の身体に触れることもありました。この裁判例ではセックスがなくても、妻が家庭生活を平和に維持する権利を侵害したとして慰謝料150万円を認めています。このケースでは夫婦関係の破綻は免れ、オペラ歌手が妻に発覚した時点で、慰謝料500万円を支払っていることもあって、150万円の支払いは必要ないとされました。
■慰謝料の請求は3年間で「時効」
配偶者が浮気したからといって必ずしも慰謝料が取れるとは限りません。例えば、夫婦関係がすでに破綻しきっていた場合などです。また、浮気相手に対しても、不法行為にあたらないとされて、慰謝料が認められなかった裁判例もあります。例えば、相手が独身者であることを信じて疑わなかった場合がこれにあたります。不倫に対する慰謝料請求は、損害および加害者を知ったときから3年間で「時効」となり、それ以降は請求することができなくなります。
『判例による不貞慰謝料請求の実務』や続編の同『主張・立証編』の執筆をしてわかったのは、不倫の認定や慰謝料が個々の裁判官の考えで変わりうることです。日本の裁判官は特に真面目な人が多く、不貞行為の経験がある人は非常に少ないでしょう。不倫関係に陥る当事者の心理や動機等を本当に理解したうえでの判決なのか疑問に思う裁判例もあります。不倫が裁判に至るまでもめると、その結果は、担当した裁判官の価値観等に大きく左右されることが往々にしてあるのです。
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▼慰謝料の金額はさまざまな事情や状況で決まる[慰謝料の金額を左右する主な項目と理由]
・婚姻期間
婚姻期間が長いほど、慰謝料は高額になりがち
・浮気発覚前の婚姻生活の状況
家庭が円満であった場合、浮気相手が家庭を崩壊させたと判断され、慰謝料が増額される場合が多い
・浮気の期間
長年にわたり繰り返されていた場合のほうが高額になりがち
・婚姻関係継続の有無
浮気が原因で夫婦が離婚に至った場合はかなりの増額になる
・浮気の主導者
積極的だったのが浮気相手であれば、慰謝料は増額される場合もある
・不倫関係解消の約束反故
不倫関係を解消し、2度としないと約束をしたのに再び浮気した場合は悪質と判断されて増額される
・夫婦間の子どもの有無
子どもがいる場合は婚姻関係破綻の影響、精神的ショックが大きいため増額要素になる
・浮気相手の認識、意図
浮気相手が、夫(妻)が既婚者であることを知っていたか否か。また、家庭を壊すつもりだったかどうかも増額の要素となる
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弁護士 中里和伸東京暁法律事務所。東京簡易裁判所民事調停委員。著書に『判例による不貞慰謝料請求の実務』などがある。 弁護士 野口英一郎
東京暁法律事務所。中里氏との共著に『判例による不貞慰謝料請求の実務 主張・立証編』がある。
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(弁護士 中里 和伸、弁護士 野口 英一郎 構成=吉田茂人)
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