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「天皇の信仰」は神道なのか、仏教なのか

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■神道の信仰が背景にあるようには思えない

ここで、「天皇の信仰」と言ったとき、多くの人たちは、あるいは、ほとんどの人たちは、それは神道の信仰であると考えるであろう。

実際、皇居には、宮中三殿(きゅうちゅうさんでん)が設けられ、皇室の祖とされる皇祖神(こうそしん)、天照大神(あまてらすおおみかみ)をはじめさまざまな神々が祀(まつ)られている。そして天皇は、宮中三殿で祭祀(さいし)が行われる際には、神々を祀る祭司(さいし)の役割を果たしてきた。そうである以上、天皇の信仰は神道である。そのように考えるのは自然である。

しかし、天皇の言動をもとに考えるならば、とくに象徴としての行為については、神道の信仰が背景にあるようには思えない。むしろそこには仏教の信仰がかかわっている。長年日本の宗教について研究してきた筆者には、どうしてもそのように思えるのだ。

仏教には、人々を救済するための「菩薩行(ぼさつぎょう)」という考え方がある。被災地や戦地を、ときに危険な目にあいつつも訪れる行為は、この菩薩行と結びつけて考えた方が理解がしやすいのではないだろうか。

■代々天皇の信仰の中心にあったのは仏教

もちろん、これまで天皇が、自らの信仰は仏教であると公言したことはない。それをほのめかしたこともない。宮中祭祀(きゅうちゅうさいし)にかんしては、昭和天皇(在位1926~89年)も相当に熱心であったと言われ、その点は現在の天皇も受け継いでいる。神を祀るということを怠らない。それは、2代にわたる天皇が強く心掛けてきたことである。

だが、天皇と仏教との関係は深い。その関係がいかなるものかは、本書においてこれから明らかになっていくはずだが、明治に入るまで、天皇の信仰の中心にあったのは仏教にほかならない。神道もそこにはかかわっていたが、かかわり方は仏教と神道では相当に違った。

それも、神道と仏教とでは、その宗教としての性格に大きな違いがあるからである。神道が外面的で形式的な部分が強いのに対して、仏教は、それを信仰する人間の内面に深くかかわっている。内面にかかわるということは、その人物の行動を強く規定するということである。

■いったい日本人は何を信じてきたのか

天皇の象徴としての行為に対して、保守的な立場の人間たちが積極的な評価を行わず、むしろ否定する傾向が強いのも、そうした人間たちのなかには、仏教を外来の宗教としてその価値を否定する考え方があるからではないだろうか。保守的な天皇観の背景には、江戸時代に生み出された、仏教を排斥しようとする国学や復古神道の考え方がある。

今回、そのことがはからずも露呈したと言えるわけだが、そこには、日本における宗教の歴史、それと密接に関係した天皇の歴史、そして、この両者の関係を根本から変えた日本近代の歴史の本質的な部分がかかわっている。

その実態を明らかにするためには、天皇の信仰がいかなるものかを見ていかなければならない。そうした信仰が天皇のなかに生き続けていなかったとしたならば、果たして現在の天皇は、日本国の象徴、日本国民統合の象徴として活動を続けることができたであろうか。その疑問さえ浮かんでくるのだ。

さらに言えば、天皇の信仰を問うということは、日本人全体の信仰を問うということにもつながってくる。天皇の信仰は決して個人的なものではなく、公的な性格を持たざるを得ない。国民が支持するような信仰でなければ、それを保ち続けることは難しいはずだ。

いったい日本人は何を信じてきたのか。天皇の信仰を問うということは、その問題にも通じていくのである。

(宗教学者・文筆家 島田 裕巳)

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