- 2017年12月01日 09:15
"日本で製造業は成り立たない"というウソ 現場の強さを経営が理解していない
2/2■欧州企業にはできて、なぜ日本企業にはできないのか
【安井】神戸製鋼所の不正は、顧客との契約で約束した品質保証について偽装したというものでした。神戸製鋼によると、それが原因で安全性に問題があった事例はない、ということですが、それならば顧客が求める品質が過剰品質だったのではないかと思いますが。
【藤本】先ほどの検査の場合と同様の論理で、そういった仮説は成り立つ可能性はあります。たとえば欧州の部品・材料企業の多くは、日本でなら客先の細かい仕様に合わせて特注品として作り分けるようなものでも、標準品として客先に提示し、製品性能にうるさいはずの高級品メーカーにそれを売り切ることに長けていますが、それが理由で製品の機能が低下しているという話はあまり聞きません。
設計品質にこだわる日本の完成品企業は、細かい仕様の違いにこだわる傾向がありますが、こうした欧州企業の例なども参考にして、この際、最終顧客の観点から見て過剰仕様のものが混じっていないか、再点検をすべきかもしれません。
■「日本の製造業はもう成り立たない」という大誤解
【安井】神戸製鋼が顧客である素材の供給先に「品質が高すぎませんか。これで十分では」と話せば良かったのではないかと思います。自動車メーカーと国交省の対話も必要ですが、顧客との対話も不十分だったのではないかと思ってしまいます。
【藤本】監督官庁、顧客、もちろん社内の現場と経営陣の対話、コミュニケーションの重要性は今後ますます必要です。良い現場は現場の生き残りのために、ものづくり能力構築の努力をずっと続けています。円高や新興国の台頭で「日本の製造業はもう成り立たない。国内工場は閉鎖して海外展開するしかない」と、実践的にも理論的にも誤った言説が広がった時期においても、物的生産性を2年で3倍、5年で5倍など大幅に伸ばし、その多くが結局は存続しました。それにも関わらず経営陣が、実は競争力を増していた現場の実態をちゃんと把握できず、結果として国内の高生産性工場を閉鎖するというような、今から考えると誤った経営判断を下した会社も残念ながらありました。
現場のダイナミックな能力構築のロジックを十分に理解せず、誤った判断を下す経営が横行すれば、日本の製造業にはとても悪い影響を与えます。私は日本の特徴として「強い現場に弱い経営」と言うことが多いのですが、「強い現場に強い経営」になってもらわなければ、良い現場が浮かばれません。もっとも近年は、そうした「強い現場に強い経営」を実現している頼もしい日本企業の例も増えていると感じます。欧米の目覚ましい成功企業例だけではなく、われわれはそうした身近な日本企業の成功例からも学ぶべきでしょう。
■地方ではコスト競争力の高い優良現場が増えている
【安井】今回の不正問題で「製造現場は弱くなっている」という根拠のない言説が広まり、経営陣が間違った判断をするととても深刻な事態になりますね。
【藤本】ものづくり現場の強弱の議論は、そうした根拠の薄い思い付きではなく、データと現場観察にもとづいて冷静に行われるべきものです。世界の主要先進国で、GDPの20%前後の製造業比率を持っているのはドイツと日本ぐらいであること、一時期赤字化していた貿易収支が輸出の好調で再び黒字化してきていること、地方を回ればコスト競争力を回復しつつあると語る国内優良現場が増えていること、むしろ人手が足りず仕事をこなすのが大変だという現場が今や多いことなど、実態調査、データ、理論を重ね合わせることによって、現場の現状に関しては、おのずと「慎重な楽観論」が見えてくると思います。
また今回は、皮肉にも、過去の経営陣の時代に発生していながら潜在していた品質問題を、現経営陣が結果として顕在化させたケースも混じっている可能性があります。むろん現経営陣はその責任を免れませんが、問題が顕在化したこと自体は、隠蔽の継続に比べれば社会的にベターなことです。これを契機に日本のものづくりの産業・企業・現場の将来について、現場の実態を踏まえ、かつ論理的にもぶれの無い、まともな議論が進むことを期待しています。
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藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)
東京大学大学院経済学研究科教授。1955年生まれ。東京大学経済学部卒業。三菱総合研究所を経て、ハーバード大学ビジネススクール博士課程修了(D.B.A)。現在、東京大学大学院経済学研究科教授、東京大学ものづくり経営研究センター長。専攻は、技術管理論・生産管理論。著書に『現場から見上げる企業戦略論』(角川新書)などがある。
安井 孝之(やすい・たかゆき)
Gemba Lab代表、フリー記者、元朝日新聞編集委員。1957年生まれ。早稲田大学理工学部卒業、東京工業大学大学院修了。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京経済部次長を経て、2005年編集委員。17年Gemba Lab株式会社を設立、フリー記者に。日本記者クラブ企画委員。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。----------
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