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「広告」というのはひとつのテクノロジーなのだと思う

 それは、よきにつけ、悪しきにつけ。

 当たり前のように広告の仕事をしてきて、それなりに広告の方法論を身につけて、広告という文化圏の中で息をして、広告というものの考え方にどっぷり浸かってきたけれど、その「広告」というやつは、「広告」というやつの外部から見れば、かなり異質なものの考え方のような気がします。

 所詮はビジネスではあるから、いろんな組織のごたごたに従うしかないこともありますし、それが現場のリアリズムかもしれませんが、本来的には、広告とは、そんなごたごたさえ排除するものの考え方のような気がします。だからといって、つくり手がいちばん尊重されるかというと、組織のごたごたさえ原理的には排除されるのと同様に、つくり手のプライドや自我さえ排除される、そんなものの考え方。ある意味で、きわめて悪魔的な考え方なのかもしれません。

 つまり、なによりも尊重されるべきは、広告。そして、広告によってかたちづくられるブランド。

 デザインより、コピーより、広告、そしてブランド。広告やブランドという命題の前では、デザインやコピーは、ブランドをつくる、あるいはブランドのメッセージを伝える手段である広告の、単なる一要素に過ぎません。

 元電通関西のCR局長である堀井博次さんは、こう言っています。

 「広告を芸術に利用するんやない。芸術を広告に利用するんや。」

 芸術に、自己表現とか、デザインとか、コピーとか、いろんな言葉を入れるとわかりやすいかもしれません。そして、また、広告は、広告クリエイターのキャリア形成の過程で、デザイナーやコピーライターの自意識を存分に利用しながら、と同時に、その自意識を、その都度、広告の名のもとに叩き潰しながら、広告至上主義者たちを創り出していきます。

 その過程で、ある者は、広告という冠を自ら外し、広告という呪縛から逃れ、冠なしのクリエイターとして生きるでしょう。しかし、それができなかった、あるいは、あえてしなかったものは、同じクリエイターでも、冠なしのクリエイターとは、まったく逆の倫理観をもって生きることになります。ほとんど宿命的に。

 広告というのは、それ、そのもの自体が、ひとつのテクノロジーなのだと思います。そのテクノロジーは、これまで、功罪あれど、経済や産業、文化の発展を支えてた、近現代の主要なテクノロジーのひとつのように思いますし、なんの因果か、私は、そのテクノロジーに取り付かれてしまっているのだろう、とは思います。

 それは、でも、やはりテクノロジーであるがゆえに、普遍的な考え方ではないことは事実なのでしょう。その内部では、その倫理は当たり前であっても、その外部では、異質なものの考え方ではあるのでしょうね。で、広告がテクノロジーであるがゆえに、そのシステムを貫く倫理に忠実な者にしか、広告がもたらす果実を手にできないだろうけれど、その外部にあるものが、その倫理に従えないことは、なんとなく分かるような気がします。

 今、自分が何をやりたいのか。何よりも、それがいちばん尊重されるべき。そういう文化圏に、私はたぶんいないんだろうと思います。今、広告のために、ブランドのために、何をやるべきなのか。そういう倫理の中にいます。そのことは、当たり前のように思っていたけれど、きっと、異質な考え方なのでしょう。

 と同時に、異質であるからこそ、テクノロジーをつかさどるテクノロジストとしての価値を持ち得るのだし、とも思います。そしてまた、きっと、そういう視点を持たない限り、広告クリエイターなんて職種は、これからは、中途半端なクリエイターとしての価値しか持ち得ないだろうとも思うし、たぶん、時代は、そんな中途半端さは必要としないでしょう。

 それにしても、厳しい時代に生きているものだなあ、と思います。たかが広告クリエイターが、夜中にブログでこんなことを書く時代。ほんとは、そんなことは体でわかっていて、夢とか希望とかを書くほうがいいんでしょうけど、やっぱり、時代が書かせるんでしょうね。

 まあ、なんとかなるさ、みたいな根拠のない自信みたいなものも、なくはないですけどね。どっちにしても、この5年でしょうね。根拠ないけど、たぶん、5年。広告をとりまくまわりの風景は、きっとガラッと変わる。そんな気がします。

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