- 2017年11月28日 19:01
【読書感想】テトリス・エフェクト―世界を惑わせたゲーム
2/2より進んだハードウェアを使っているにもかかわらず、ゲラシモフが主導してコーディングしたIBM版のテトリスは、当時西側のPCや家庭用ビデオゲーム機で実現できたレベルのコンピューターグラフィクスにはおよばなかった。とはいえ最終的には、エレクトロニカ60版のようなアスキーアートを使ったモノクロの画面よりもずっと魅力的な視覚的効果を多少は実現することに成功した。これをあと押ししたのはゲームに追加された新しい要素で、それはあとから追加されたもののなかで最も重要で、数十年が過ぎたいまでも、テトリスを特徴づける最大の要素でありつづけている。
修正とテストの作業を数週間つづけたあとで、ゲラシモフがテトリミノのピースを色で塗り分けるという画期的なアイデアを実装したのだ。現在でもテトリスは、そのブランド展開や公式ルールにおいて、各ピースをその形だけでなく色でも区別している。そのため目の良いプレイヤーは、ピースを形で認識する前に、色を感じ取るだけでそれが7種類のうちどのピースで、どこに移動させるべきかを瞬時に判断できるほどだ。
ゲラシモフが当初開発したバージョンでは、現在のバージョンよりも暗く地味な(そしてよりロシア風の)色が使用されていた。4つの正方形が一列に配置されたピースは乾いた血のような暗い赤、煩わしいZ形のピースは荒れたモスクワの空のような暗い青緑、といった具合である。それとは対照的に、現在の公式版で使用されている明るいオレンジやライムグリーンといった色は、多くのプレイヤーから好評を得ている。
単に「ピースを色分けする」というだけの工夫だけれど、これが、『テトリス』のゲーム性や見た目に与えた影響は大きかったのです。
こういうのって、すぐ思いつきそうで、なかなか発想できないんですよね。
色分けしたら、ゲーム性が変わってしまうのではないか、と躊躇する可能性もありますし
『テトリス』は、パジトノフさん抜きては、もちろん完成しなかったのですが、パジトノフさんひとりの力では、今の形にはならなかった。
『テトリス』というのは、いろんな要素と偶然とタイミングが絶妙に重なり合ってできあがった「奇跡のゲーム」でもあるのです。
アレクセイ・パジトノフさんは、その後もさまざなまゲームを世に出していますが、使っているコンピュータも開発環境もずっと良くなったはずなのに、少なくともセールス的には『テトリス』を超えるゲームを作れてはいないのです。
『テトリス』も、あの時代に誕生し、モノクロのゲームボーイというハードとの相性が抜群によかった、というのもありますよね。
この本では、「『テトリス』は誰のものなのか?」「このゲームのファミコン版、ゲームボーイ版の権利を、任天堂はどのようにして手に入れたのか」というのが、任天堂の「特使」として派遣されたヘンク・ロジャースさんを一方の主人公に、当時はまだ西側にとって未知の世界だったソ連の情景を交えつつ描かれています。
契約のしかたや、法律や家庭用ゲームのことに無知だったソ連の政府機関の人々から、このゲームの権利をなるべく安く買い叩こうとする人たちと、後発ながら、このゲームの可能性と携帯用ゲーム機との相性に注目し、相手を尊重する姿勢をみせながら、見事な「逆転」をしていくヘンク・ロジャースと任天堂。
僕が日本人で、どうしても任天堂側に立ちたくなるので、そういう見方をしてしまうのだけれど、任天堂のやりかたは、かなり強引ではありました。
個人的には、この交渉の結果、セガのメガドライブ版『テトリス』がお蔵入りになってしまったことは残念です。
アメリカでも、テンゲン版の『テトリス』が、裁判の結果、販売差し止めになったのです。
ちなみにこのテンゲン版は、完成度が高く、遊んだ人からは高く評価されているのだとか。
判決はただちに効力を発揮した。テンゲンのテトリスが発売されてから4週間もたたないうちにすべて店頭から撤去された。残りの在庫は倉庫内で塩漬けになり、公式に日の目を見ることはなかった。そのカートリッジがどのような運命をたどったのかについては、現在も謎のままである。
その結末として最も有力な説が、ブルドーザーで埋められたというものだ。この悲惨な運命が売れ残ったゲームに降りかかったのは、これがはじめてではなかった。その数年前、のちにアタリゲームズとテンゲンに分かれる前のアタリ社が、映画「E.T.」とタイアップして製作したゲームの何万本もの売れ残りを、ニューメキシコ州にある埋め立て地に廃棄していた。その正確な場所については何十年ものあいだ憶測の域を出なかったが、2014年にアラモゴードで実施された発掘作業で、失われたE.T.ゲームの一部が発見された。
しかし1989年6月22日までに、テンゲンのテトリスは約10万本出荷され、その多くが現在も巷に存在しており、オークションサイトなどを通してコレクターたちのあいだで取引されている。ゲーム内容に優れたテンゲン版が失われてしまうことを恐れたファンたちのなかには、レンタル店でそれを借り、返さずに持ちつづける人も現れた。延滞金をいくら支払うことになろうとも、カートリッジがなくならないように手元に置いておこうとしたのである。
近未来、人類が滅亡した地球で、宇宙人が、埋められていたテンゲン版『テトリス』のカートリッジを大量に発見し、「これは何だ?」と色めきたつ……なんだかそんな想像もしてしまいます。
いまでも、スマートフォンに『テトリス』をダウンロードしている、という人は、たくさんいるはずです(僕もそうです)。
『テトリス』のおかげで、人生が変わった人たちの「その後」も含めて、大変興味深い本でした。

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