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「食育」にみる日本とシンガポールの決定的違い

■糖尿病が蔓延するシンガポールで始まった食育

シンガポールでは2017年度予算の目玉の一つとして、国民の9人に1人、60歳以上の10人に3人が糖尿病を患う国民病撲滅のためのキャンペーンを実施中です。

40歳以上では通常100ドル(約8,300円)以上する健康診断を400円程度で提供するなどの補助、ウォーキングなど運動習慣を身につけるためのキャンペーンや、公園に大人向けの運動器具を設置するなどの施策もありますが、最も力を入れているのが食生活改善キャンペーン。

糖尿病防止の食生活改善の最大の目標は、いかに糖分の摂取を減らすかということで、テレビ番組をはじめとするメディアで炭酸飲料や菓子に含まれる糖分量の啓蒙活動をするほか、玄米や野菜、赤身肉などの摂取を増やすための工夫など、何を食べて糖尿病を予防するか盛んに宣伝しています。いわばシンガポール版「食育」というところです。

■日本とシンガポールの食育の違い

日本でも「食育」という言葉は以前から聞いていましたが、実際にどんなことが行われているのか今一つよくわかりませんでした。ところが、最近この本を読んで、日本の食育の実態がシンガポールとあまりにもかけ離れていることがわかりました。

著者の佐光さんは、日本の食育推進の一環として国をあげて始まったのが朝ご飯キャンペーンだと言います。

「早寝早起き朝ご飯」全国協議会のウェブサイトには、当然のことながら、コーンフレークに牛乳をかけたり、トースト1枚にコーヒーといった写真は1枚も登場しない。「骨太納豆和え」「アスパラガスの味噌汁」(もちろん煮干しで出汁をとる)といったレシピが提案されている。「麺つゆ親子丼」に「ビビンバ」といった、ある程度の調理時間をとって作ることが求められる食品を朝から作って食べることが、健康によく、子どもの健全な発育に重要だといった論旨なのだ。文部科学省に至っては、朝ご飯を食べている子供は成績がよいといったデータまで提示している。

実際に同協議会の「小学生のための早寝早起き朝ごはんガイド(保護者・指導者向け)」という冊子をダウンロードして読んでみましたが、和食、洋食とも「ホップ」がご飯にふりかけをかけたりパンにジャムやチーズを載せたりしたもの、「ステップ」が味噌汁やサラダをつける、「ジャンプ」がヨーグルトや果物、目玉焼きやソテーなどさらに一品を足すといった具合で、ステップアップしていく(=さらに手間をかける)ように指導されています。

また、農林水産省の「おうちで和食」というサイトでは、著者が指摘している通り、出汁を昆布と鰹節から取ると子どもの偏食克服になるとか、エビちゃんが登場する子どもと一緒に作る和食メニューなどが登場しますが、作っているのはすべて女性と女児で、「母親が家族の健康を考えて家で丁寧な食事を作るのが当然」という価値観が前面に押し出されています。

いっぽうシンガポールのサイトでは、どのような食品をどのくらい食べたらよいか、という解説の他、ホーカーと呼ばれるシンガポール市民が頻繁に食事をする屋台で、どのようなメニューを選べばいいかという項目もありますが、「母親が食事作りによって家族の健康管理をする」というテーマはどこを探してもみつかりません。

■「子供に手をかける」の違い

この夏、久しぶりにある友人とゆっくり過ごしていろいろな話をしたのですが、子育ての話になったときに彼女から「もうちょっと子どもに手をかけたら?」と言われて非常にショックを受けました。

昨年までは日本とシンガポールを毎月往復する仕事をしていましたので、子供と一緒に過ごす時間こそ少なかったものの、シンガポールにいるときは毎晩夕食を作って家族で食卓を囲み、週末は家族3人でほとんどの時間を過ごします。特に今年になって学校で落ちこぼれていることが決定的になってからは、休み中は毎日数時間、ふだんの週は2~3回、学童に早めに迎えに行って子供と一緒に勉強をしています。

私と同じく彼女もずっと働いていますが、子供は小学校からお受験をして私立の学校に通わせ、塾や家庭教師などをつけています。彼女と私の違いは、子どもの教育にどれだけお金を使っているかという点と、毎朝5時起きして作るというお弁当作りしか見当たりません。

教育に関してはシンガポールでは国民は公立学校にしか入れませんし、うちの子供はADHDのため塾や家庭教師をつけても成果が期待できないどころか、「うちでは教えられない」と断られることも多々あったため、やむなく私や夫が勉強をみています。ですので、教育に手をかけることはこれ以上できませんが、お弁当作りでいえば、確かに5時起きでお弁当作りなど考えたこともありませんし、他のシンガポール人の子どもと同じく、朝食や昼食は学校の食堂や学童の給食を食べさせています。ここに大きな違いがあるのではないかと思いました。

■圧倒的な人気を誇る亜希さんのお弁当

それで思い出したのが、元野球選手清原さんの元妻でモデルの亜希さんのインスタグラムです。

亜希さんは離婚後、2人の子供を引き取ってモデルの仕事をされていますが、インスタグラムのフォロワーは12万7千人と非常に高い人気を誇ります。

人気の秘密は、もちろん亜希さんのモデルとしてのセンスや自然体のライフスタイルにもありますが、投稿の約半分を占めるのが料理。その中でも一番多いのが、幼稚舎から慶応に通う2人の息子のために作っているお弁当の写真です。どちらがフォロワーの興味をより引いているかは一目瞭然で、ファッション関係の「いいね」はほとんどが4,000件~5,000件代なのに対し、お弁当の投稿は6,000件~7,000件代、日によっては8,000件、9,000件代の日もあります。

亜希さんに憧れているフォロワーは、明らかに「大変な境遇にもかかわらず有名私立に子供を通わせ、教育費を捻出するために自分で仕事をして稼ぎ、なおかつ、毎朝、栄養バランスを考え、心をこめたお弁当を毎日手作りして持たせている」彼女に憧れているのです(お弁当の中身は間違っても前の晩の残りものなどではありません)。

日本の食育の成果、ここに極まれり、という結果ではないでしょうか?

■働け、産め、食育も完璧に、では女性がもたない

このレポートによると、近年、私立小学校へ通わせる家庭がたいへんな勢いで増えており、その背景には母親の高学歴化があるといいます。また、今後共働き家庭の増加によって、さらに私立小学校への進学率が増加していくとも指摘されています。

私立学校は多くが給食がなくお弁当ですので、小学校から私立に入れれば最低でも12年間、中学からでも6年間、さらに2人以上の子どもがいればそれ以上の年月、毎朝朝食を作るのに加えてお弁当まで作らなくてはいけません。「栄養バランスを考え心をこめたお弁当」が理想とされるなら、手抜きも許されないでしょう。

結婚しても働き続け、出産後の夜泣きに耐え、保育園やベビーシッター探しに奔走して、育児時短期の周囲の冷たい眼差しにも耐え、やっと少し子どもの手が離れたと思ったら、今度は完璧な朝食やお弁当を作り続けることが求められる。ここまで期待されたら、正直、女性の身がもちません。「苦労して仕事と家庭の両立なんてせずに専業主婦になりたい」と多くの女性が願うのは、ある意味、仕方がないことともいえるでしょう。

女性が真に活躍できる社会にするためには、「食育」にみられる、このような無言の圧力と思い込みを、まず丁寧に拾い出して解消していくところから始めなくてはいけないのではないでしょうか。

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