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改憲のどさくさ紛れに合区解消?

参院選の「合区解消」を憲法改正案に盛り込む動きが出ています。

一票の格差を是正するため、前回参院選から「鳥取・島根」「徳島・高知」の両選挙区が合区され、今後さらに増えそうです。それでは「地方の声が届かなくなる」から、各都道府県から必ず一人を選出するよう、憲法に書き込んでしまえ、というわけです。

自民党憲法改正推進本部や全国知事会がそのような案を検討しており、「『1票の格差』是正を不要とする効果も狙う」(時事通信11月16日)のだとか。しかし、憲法改正に合区解消をからめるのは、どさくさ紛れそのもので、いかにも筋が悪い案です。

第一に、「一票の格差」という大原則を犠牲にしてまで、「都道府県」の枠組みにこだわる必然性がありません。

一票の価値を平等にすることは、憲法の14条(法の下の平等)や44条(国会議員は「全国民の代表」)などが根拠ですが、そもそもは「国民主権」や「基本的人権の尊重」という民主主義の大原則から導き出されたもので、実務上やむをえない範囲を越える格差が許されるはずがありません。

よく、「米国の上院は各州2人だ」という話が出ますが、米国は連邦制国家であり、上院議員は「国」を代表して「連邦」議会に出席しているのです。それぞれが「国」である各州は、憲法も裁判所も軍隊も持っており、国家主権を連邦と共有しています。国連総会で人口14億に迫る中国と1万人に満たないツバルが同じ一票なのと同様の理屈であって、日本とはまるで違います。

どう考えても都道府県は「国」ではありません。今の都道府県の枠組みは1890年の府県制で定まりましたが、中央集権の確立のため導入されたものであり、連邦制とは方向性が真逆です。都道府県が国と見なされたことは一度もありません。

日本にも道州制の議論はあります。全国をいくつかの道州に分割して強い権限を与え、中央政府の権限をそぎ落とし、連邦制に移行しようというものです。しかし、その際に想定された道州は、都道府県よりずっと広い範囲です。

もちろん、130年近い歴史を経て、強い地理的な結びつきが存在するのは分かります。しかし、鳥取と合区された島根を例に挙げると、旧国の出雲と石見と隠岐、江戸時代の松江藩、津和野藩、石見銀山領(天領)等々が合わさってできたのであって、現在の「県」が唯一絶対の領域というわけでもありません。

現在は、移動の高速化や情報通信の発展に伴って、むしろ「都道府県の範囲が狭すぎる」「市町村の合併と権限強化で、都道府県の役割が低下している」と言う意見の方が主流になりつつあるのではないでしょうか。

第二に、今の「いびつな」選挙制度を前提として、参議院の、それも地方区のことだけ憲法に書き込むのは、あまりにバランスを欠きます。

国政選挙の制度は、衆議院が小選挙区と比例代表(拘束式)、参議院が地方区と比例代表(非拘束式)という実質4本立てなのに、なぜ参議院の選挙区だけを憲法で定める必要があるのでしょう。はっきり言って「いま合区がホットな話題だから」というだけの話です。しかし、それって憲法に書くような話ですか?

国政選挙の仕組みで憲法に書いてあるのは

・衆議院は任期4年で、解散あり。参議院は任期6年で、3年ごとに半数改選。

だけです。小選挙区とも地方区とも比例代表とも書いていません。

これが、たとえば「参議院の半数改選のルールをやめよう」とか「6年は長すぎるから短縮しよう」とか、「定数を憲法に書き込もう」いう話なら、まだ分かります。しかし、なぜいきなり「合区させない!」という話から始まるのでしょうか。

人口の少ない県にも必ず衆議院の小選挙区があり、国会に代表を送っていますが、それではダメなのでしょうか。完全比例代表やブロック単位では地方の声が反映できないのでしょうか。なぜ参議院なのか、なぜ都道府県なのか―その議論が決定的に足りません。

どうも今の合区解消の議論は、「政党の県連が都道府県単位だから」とか、「地元に候補者がいないと盛り上がらない」とか、「知事の陳情先が減ってしまう」とか、“半径2メートル以内”の都合の話に終始しているように思われます。

参議院の選挙制度は、つぎはぎを繰り返した結果、小選挙区と大選挙区と比例代表が混在する、奇妙奇天烈へんちくりん極まりないものになっています。これを前提に憲法改正の議論などしても仕方ありません。憲法は国のあり方を規定するものです。「とりあえず合区はイヤだよね」という安直な話ではなく、「参議院、かくあるべし」という骨太な議論からスタートしてもらいたいものです。

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