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成功の見込みのない核燃料サイクルのコストは?――私の原子力日記その3――(2/2)

2011年11月30日原子力委員会メモ

金子勝


1.核燃料サイクルコストに関して

2011年11月10日付け原子力委員会の「核燃料サイクルコスト、事故リスクコストの試算について(見解)」について強く抗議いたします。前回の本委員会における議論が十分に反映しておらず、この内容について、多くの国民の納得が得られるとは考えられません。

(1)先回の委員会において、モデルプラントを使用したシミュレーションによるコスト計算には大きな問題点があると指摘しました。何より現行の核燃料サイクル政策が失敗している事実が何ら反映されていないからです。

(2)現状では、六カ所村の再処理施設は度重なる放射能漏れや事故によって、事実上機能しておりません。またイギリスのセラフィールドの再処理工場も止めました。

(3)核燃料サイクルが失敗した結果、原発敷地内および建屋内に使用済み核燃料が非常に多量に貯蔵されています。今回は、その一部が爆発を引き起こしたのです。現在の状況は極めて危険な状態を放置しているのと同じです。どうみても、原子力委員会が東京電力福島第1原発事故に対して深刻な反省をしているとは考えられません。

(4)もんじゅを含め高速増殖炉は、15年ぶりに再開しましたが、たちまち事故によって停止してしまいました。同様の事故は欧米や旧ソ連の高速増殖実験炉でも起こっており、これらの国々は1990年代終盤までに、高速増殖炉計画からつぎつぎと離脱していきました。これまで巨額の税金が投入されてきたにもかかわらず、成功する見込みもたっていません。

(5)再処理も高速増殖炉も成功する見込みが立たない状況下で、成功を前提としたシミュレーションという手法を使うのは間違っています。この点に関して、どうして失敗してきたのか、どのようにして成功する見込みがあるのか、問題点も見込みも指摘がないのは国民に対して極めて不誠実です。少なくとも、核燃料サイクルについて過去の失敗のコストを提示し、それが含まれていないことを明示すべきです。

2.再びシミュレーションによるコスト計算について

(1).原発の設置許可・受け渡し報告・運転発電許可の申請書が電力会社から経済産業省に対して提出されており、申請書には各炉の理論上の発電単価が記述されているはずです。それに基づいて稼働率や送配電ロスなどを踏まえた実際のコストを提示すべきです。電力料金制度が総括原価主義を前提にされている以上、それが消費者の負っている電力料金の基礎となっています。それが実際のコストです。

(2)「見解」は、他の電力との比較が可能でないという理由を挙げています。各種世論調査によれば、7~8割の国民が再生可能エネルギーを促進すべきと答えています。そして再生可能エネルギー特別措置法が成立し、固定価格買取制度が発足します。現在、多くの国民がエネルギーを選択する際に必要とされる情報は、シミュレーションによる原発のコストではなく、実際に負担しなければならない原発の発電単価と再生可能エネルギーの買取価格との差です。税金を使って作業をしているのなら、少なくとも、国民に対して、実績値に基づいた原発コストを提示するべきです。

3.損害賠償費用の見積もりについて

(1)東京電力に関する経営・財務調査委員会報告書を参考として損害賠償費用を5兆円と算出していますが、どうみても過小です。たとえば、日本経済研究センターでさえ、10年間で6~20兆円と見積もっています(2011年6月1日付新聞各紙参照)。これには除染費用は含まれておりません。とくに原発周辺地域で除染が不可能な地域の場合、住民が新たな生活を確保するために新しい町を作る費用が発生します。その費用が入っていないことも問題です。

(2)廃炉コストは非常に過小評価されています。廃炉に30年以上かかり、メルトダウンした燃料の取り出しにどれだけかかるかわかりません。どのような技術を基礎にして費用を出したのか、明らかにしてほしいと思います。

(3)事故率を過小評価する考え方は、これからの安全投資を無視していると書かれています。これは、これまで流布されてきた原発の「安全神話」と同じ論理です。再稼働の手続きを見ても、ストレステストを「仲間うち」で行い、原発に批判的な人々(あるいは利害のない人々)は排除されています。多くの国民は、まず核燃料サイクル政策ありき、再稼働ありき、といった議論の進行を見ていると、ますます懸念を抱くでしょう。危機管理の原則からいえば、厳しい数字で臨むのが本来の筋です。

(4)「見解」では、「損害保険料が将来リスク対応費用に該当するのではないかとの指摘がなされています。しかしながら、原子力事故のように大数の法則に乗らない『極めて稀な事象で巨大な損害』をもたらす対象に対しては、実社会において損害保険は成立していない」との指摘があります。しかし、この記述は次の点で問題があります。

1)スリーマイル事故、チェルノブイリ事故は被害が甚大で大きなコストのかかる重大事故でしたが、東京電力福島第1原発事故はそれに劣らないものです。40年以内に3つの過酷事故があったのを「極めて稀な」という一言ですますのは、ほとんど説得力はありません。民間の損害保険会社が損害保険を提供できないのなら、それほど危険だということになります。したがって、原子力発電は将来起こりうるリスクを考えるなら、できるだけ早期に廃止すべきとの結論が導かれるはずです。現に、多くの先進諸国は、脱原発に向かったり新規建設ができなくなったりしています。

2)あるいは民間保険でカバーできないのなら、論理的には、少なくとも、これまで賠償保険で大幅に免責を与えて、民間会社任せにしたことに問題があるということになります。電力会社の国有化、ないし国が株式を所有して原発に関する経営方針への関与を強めるべきであったということになります。今後も電力会社に原発の運用を任せ続けるかぎり、事故を引き起こす可能性を否定できない以上、民間保険が成り立たないということは、民間企業の電力会社に事故対応費用や賠償費用を賄う能力がないことを示しています。

(5)そもそも、福島第一原子力発電所で発生した事故について、地震・津波から当該プラントが具体的にどのような影響を受け、どのような過程を経て破壊・爆発に至ったのか、政府の事故調査委員会による調査に基づいて議論をしないうちに、事故リスクのコストを計算することに無理があります。他の原発への安全投資の具体的な内容を決定する前になされなければならない最も重要な作業が抜け落ちております。仮にこういう段階であっても、事故リスクのコストを出さなければならないとすれば、常に最悪の事態を想定して計算するのが当然です。このコスト計算が再稼働の前提になるのなら、なおさらです。

たしかに、事故調査委員会の調査結果を受けて事故リスクのコストを計算する本来の手続きをとった場合、順次定期点検で停止する原発の再稼動の時期が遅れることも考えられます。その場合、各電力会社の経営状況が悪化するならば、国が電力会社の運転資金を融通する手段を講ずるべきでしょう。この穴埋めコストもまた「安全投資」の重要な一部とみなすのが本来の筋ではないでしょうか。これらは巨大技術の安全運用には必要不可欠な手続なのではないかと考えます。

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