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【読書感想】芸能人と文学賞 〈文豪アイドル〉芥川から〈文藝芸人〉又吉へ

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 80年代を盛り上げた芸能人小説ブーム。文学の衰退だ、文学絶滅の危機だと、みんなでキャッキャとはしゃぎ合いました。いま見ると、ほんと楽しそうです。

 そのブームの、最終進化系とも、最高到達点とも称されるのが、1987年から88年にかけての椎名桜子なのだ。……などとも言われるアノ椎名さんが、本項の主役です。

 ああ、いたよね。「名前・椎名桜子。職業・作家、ただいま処女作執筆中。」ってやつでしょ。あのCM、強烈だったもんなあ、すごく印象に残っているよ。……と、私おさらっと笑い飛ばしたい。そう思って、当時このコピーがどうやって使われたのか、一応特定しておこうと、いろいろ調べてみました。

ところがです。そんな広告、まったく見当たりません。当時の雑誌で見つかるのは、「処女作執筆中、をネタにしたライターたちの文章」ばっかりです。

 担当の編集者は、

「昨年(引用者注:1987年)の春に草稿を読んだとき、スターの素質を感じました」

 と語る。すぐさま「作家」として売り出すことを決め、7回も書き直させた。その後、同社(引用者注:マガジンハウス)のファッション誌『アンアン』(引用者注:『an・an』)でモデル兼ライターとしてコラムを担当させ、おまけに、そのコラムの著者肩書に、まだ本も出していないうちから、「作家・処女作執筆中」とやる念の入れよう。(『週刊朝日』1988年5月6日号「小悪魔的少女を描いた自伝小説が売れる 椎名桜子は元アンアンモデルの令嬢」)

 ということなので、私も見てみましたよ『an・an』を。7月10日号〜10月2日号まで連載された椎名さんの『知りたがり日記』。だけど一度も「処女作執筆中」なんて書かれちゃいません。んもう。『週刊朝日』のうそつき。

 椎名桜子! 名前だけで懐かしい。

 当時ネットがあったら、「椎名桜子www」とか、さんざんやられていたのではなかろうか。

 僕も椎名さんが出ているCMを観て、「なんでこの人、まだ何もやっていないのに、こんなに持ち上げられているんだ?」と疑問だったのを思い出します。

 でも、この本を読んでいると、そんな椎名さんを茶化した文章を読んで、それを椎名さん自身が言ったことだと思い込んでいたのかもしれません。

 そもそも、あれって、椎名桜子というタレントのプロモーションみたいなもので、本人の意思というより、周りがそうやって売り出そうとしただけなんですよね。

 ちなみに、椎名さんの処女作『家族輪舞曲(ロンド)』は、初版2万部、公称30万部(実売10万部)と、かなり売れたそうですよ。

 その後、作家として目立った活動はない(というか、今は何をしていらっしゃるのでしょうか)椎名さんですが、それだけに、その「一発屋」っぷりは忘れられません。

 著者は、「文学賞の楽しさ」について、こう述べています。

 果たして文学賞の楽しさとは何でしょうか。

 その最大の要素は「当事者でない人たちが、賞の選考や結果などをもとに、小説の感想からそうでない下世話な話まで、好き勝手にものを言う」ことです。自分ひとりでは思いもつかない考え、心理、あるいは社会認識など、幅広い人びとの価値観が披瀝され、交差し、共鳴したり反発したりする。こういった発言を聞いたり読んだりすることが、最も満足感の得られる文学賞の楽しみ方だと、私はいつも実感しています。芸能人が関わると文学賞が面白くなるのは、通例とは比較にならないくらい広く一般から挙がる大量で多彩な声を聞くことができるからです。

 そのなかでも芥川賞は、平素から注目されているという稀有な性質があります。これを芸能人が受賞したときの衝撃は、純粋に又吉さんだけが見せた新たな光景で、文学賞界におけるその価値は、途轍もなく大きいものでした。

 実際、「ベテラン作家の傑作が受賞する」よりも、「芸能人や有名人、外国人が受賞した」ほうが、(作品の出来不出来はさておき)盛り上がるんですよね、文学賞って。芥川賞の選評も、村上龍さんや山田詠美さんは、「ダメ出し」をするときのほうが、活き活きしているようにすら感じられるのです。

 「芸人が芥川賞を獲ることの是非」なんて、作品本位でいえば、関係ないはずなのだけれど、そういうことが話題になれば、賞に注目が集まるし、本も売れる。文学賞には、本を売るためのプロモーション、という側面もあるのですから、有名人の作品を選ぶのは、けっして間違ってはいないのです。

 個人的には「それでも、『KAGEROU』は、さすがにどうかと思う」のですけど。

 この本のオビには、「次は、星野源だろ(笑)」って書いてあるのですが、これ、(笑)じゃないような気がします。

芥川賞物語 (文春文庫)

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直木賞物語 (文春文庫)

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