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- 2011年12月04日 10:04
【書評】もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら 池田信夫
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もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら
小泉進次郎氏を主人公とした近未来政治コミックであり、2015年最初の国債入札で所謂「札割れ」が起こり、金利が上昇し、時の首相が売れ残った国債を日銀に全て引き受けさせ、まさに財政破綻をしたかのような危機的状況から物語は始まる。日銀の資金循環統計によると、2011年6月末時点で、短期国債を含めた日本国債の残高は901兆円であり、このうち外国人投資家の保有額は67兆円弱となっている。日本国債は90%以上を日本人によって保有されており、外国人による保有比率が低いのが特徴で、対GDP比2倍もの膨大な借金にも関わらず、長期金利が地を這うように低いのは国内で順調に消化できていることが最大の理由である。
最初に断っておくけれど、僕は2015年という近未来において、日本国債が暴落して財政が破綻するというシナリオは考えられないと思っている。確かに長期的視点で考えればその可能性は否定できないけれど。生保・損保等の機関投資家が日本国債を購入しているのは、極力リスクを取りたくないと考えているからで、仮に財政赤字拡大懸念で機関投資家が日本国債を売り込み、金利が比較的上昇することになれば、今度は為替リスクまで取って、比較的リスク資産として購入している外国債に向けられていた投資資金が日本国債に向けられることになるだろうし、海外の投資家にとっても高金利の資産は魅力的になる。こうして一定の需要は存在することになるから、日本の財政赤字や政府の対応をポジティブに捉えているわけでは決してないけれど、今後5年程度で破綻というシナリオは考えられない。
さて本書に戻ると、もしも国債入札で「札割れ」が起きて、日銀に引き受けさせるような事態が生じたら、民間の金融機関は一斉に国債を売り始めるに違いない。つまり今度は国内で消化されていたことが理由で、物凄いスピードで長期金利は上昇することになるはずだ。こうしたことを背景として、実際の人物を想像させるような経済評論家が討論しているシーンはユニークで面白い。
本書はこうした日本の危機的状況に小泉進次郎が首相になり、ミルトン・フリードマンの著書「資本主義と自由」に書かれていることをモデルにして、徹底的に改革を繰り広げていくストーリー展開になっている。
僕自身も著書「資本主義と自由」は何度も読んでおり、とりわけ「負の所得税」の政策は、是非とも日本において実行してほしいと願っている1人だ。日本では一般的に収入に対して所得税を支払う義務があるけれど、所得が一定額よりも低い場合は免除される。さらに所得がほぼゼロの人に対しては、生活保護という形で政府が資金を提供することになっている。フリードマンは、このような政策に反対して「負の所得税」の導入を提案しているのだ。
例えば基準額が300万円で負の所得税率が20%だとすると、年収が0円なら(300万円-0)×20%で年間60万円もらえる。つまり年収60万円のベーシックインカムと同じ事を意味する。年収が50万円なら、(300万円ー50万円)×20%で年間50万円もらえることになる。
こうすることによって、役人の裁量権を極力減らし、一定のルールに沿って所得税を徴収することを提案しているのだ。「負の所得税」とは、所得ゼロの人よりも、100万円の所得のある人のほうが、結果的に受け取り総額が増えるようにして、働くことのインセンティブをつけようとしたものである。
不況の影響からかどうかは分からないけれど、生活保護の支給額が最低賃金より高いことがテレビで特集が組まれていたようだ。ある人物は体を壊したことが原因で、タクシー運転手を辞めて生活保護を受給することになったのだが、その金額に驚愕していた。なぜならタクシー運転手として労働していた賃金と、生活保護の支給額が数千円しか違わなかったからだ。彼は体調が戻り次第、仕事に復帰すると言っていたと同時に、「働かなくても得になるんだったら誰も働かないですよね」とこぼしていたようだ。
日本では格段に充実した社会保障などセーフティネットが下支えとなっている反面、それが財政悪化の要因にもなり財政出動の余地を減らし、政府自身を危機の原因に追い込んでいる。これは年金問題や増税案などでも証明されている。さらに世界的な財政不安を背景として円高は長期化し、大震災も影響して産業の空洞化が叫ばれ、日本経済は縮んでいくばかりだ。まさにこうした時代だからこそ、フリードマンの重要性がクローズアップされてしかるべきだろう。悲しいことに1962年に書かれた本書は未だに輝きを放ち続けている。これは僕達がフリードマンの卓越したアイデアに追いついていないことを意味しているのだ。本書はコミックという手に取りやすい形で提供されている。活字離れが進行している若い世代には親しみやすく名著の作品世界を楽しめるきっかけになるかもしれない。
もし小泉進次郎がフリードマンの『資本主義と自由』を読んだら
小泉進次郎氏を主人公とした近未来政治コミックであり、2015年最初の国債入札で所謂「札割れ」が起こり、金利が上昇し、時の首相が売れ残った国債を日銀に全て引き受けさせ、まさに財政破綻をしたかのような危機的状況から物語は始まる。日銀の資金循環統計によると、2011年6月末時点で、短期国債を含めた日本国債の残高は901兆円であり、このうち外国人投資家の保有額は67兆円弱となっている。日本国債は90%以上を日本人によって保有されており、外国人による保有比率が低いのが特徴で、対GDP比2倍もの膨大な借金にも関わらず、長期金利が地を這うように低いのは国内で順調に消化できていることが最大の理由である。
最初に断っておくけれど、僕は2015年という近未来において、日本国債が暴落して財政が破綻するというシナリオは考えられないと思っている。確かに長期的視点で考えればその可能性は否定できないけれど。生保・損保等の機関投資家が日本国債を購入しているのは、極力リスクを取りたくないと考えているからで、仮に財政赤字拡大懸念で機関投資家が日本国債を売り込み、金利が比較的上昇することになれば、今度は為替リスクまで取って、比較的リスク資産として購入している外国債に向けられていた投資資金が日本国債に向けられることになるだろうし、海外の投資家にとっても高金利の資産は魅力的になる。こうして一定の需要は存在することになるから、日本の財政赤字や政府の対応をポジティブに捉えているわけでは決してないけれど、今後5年程度で破綻というシナリオは考えられない。
さて本書に戻ると、もしも国債入札で「札割れ」が起きて、日銀に引き受けさせるような事態が生じたら、民間の金融機関は一斉に国債を売り始めるに違いない。つまり今度は国内で消化されていたことが理由で、物凄いスピードで長期金利は上昇することになるはずだ。こうしたことを背景として、実際の人物を想像させるような経済評論家が討論しているシーンはユニークで面白い。
本書はこうした日本の危機的状況に小泉進次郎が首相になり、ミルトン・フリードマンの著書「資本主義と自由」に書かれていることをモデルにして、徹底的に改革を繰り広げていくストーリー展開になっている。
僕自身も著書「資本主義と自由」は何度も読んでおり、とりわけ「負の所得税」の政策は、是非とも日本において実行してほしいと願っている1人だ。日本では一般的に収入に対して所得税を支払う義務があるけれど、所得が一定額よりも低い場合は免除される。さらに所得がほぼゼロの人に対しては、生活保護という形で政府が資金を提供することになっている。フリードマンは、このような政策に反対して「負の所得税」の導入を提案しているのだ。
例えば基準額が300万円で負の所得税率が20%だとすると、年収が0円なら(300万円-0)×20%で年間60万円もらえる。つまり年収60万円のベーシックインカムと同じ事を意味する。年収が50万円なら、(300万円ー50万円)×20%で年間50万円もらえることになる。
こうすることによって、役人の裁量権を極力減らし、一定のルールに沿って所得税を徴収することを提案しているのだ。「負の所得税」とは、所得ゼロの人よりも、100万円の所得のある人のほうが、結果的に受け取り総額が増えるようにして、働くことのインセンティブをつけようとしたものである。
不況の影響からかどうかは分からないけれど、生活保護の支給額が最低賃金より高いことがテレビで特集が組まれていたようだ。ある人物は体を壊したことが原因で、タクシー運転手を辞めて生活保護を受給することになったのだが、その金額に驚愕していた。なぜならタクシー運転手として労働していた賃金と、生活保護の支給額が数千円しか違わなかったからだ。彼は体調が戻り次第、仕事に復帰すると言っていたと同時に、「働かなくても得になるんだったら誰も働かないですよね」とこぼしていたようだ。
日本では格段に充実した社会保障などセーフティネットが下支えとなっている反面、それが財政悪化の要因にもなり財政出動の余地を減らし、政府自身を危機の原因に追い込んでいる。これは年金問題や増税案などでも証明されている。さらに世界的な財政不安を背景として円高は長期化し、大震災も影響して産業の空洞化が叫ばれ、日本経済は縮んでいくばかりだ。まさにこうした時代だからこそ、フリードマンの重要性がクローズアップされてしかるべきだろう。悲しいことに1962年に書かれた本書は未だに輝きを放ち続けている。これは僕達がフリードマンの卓越したアイデアに追いついていないことを意味しているのだ。本書はコミックという手に取りやすい形で提供されている。活字離れが進行している若い世代には親しみやすく名著の作品世界を楽しめるきっかけになるかもしれない。



