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【沈志華教授インタビュー】中朝関係「血盟の終わり」から「敵対」へ - 野嶋剛

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失われた「天朝」関係

野嶋:毛沢東の死後、この天朝的な対応はすぐに変わったのですか。

:北朝鮮を特別視する対応は、毛沢東だからこそできたことで、他の人にはできないことです。毛沢東の死去、指導部には考え方の変化も出てきました。毛沢東のあとを継いだ華国鋒は、1978年に北朝鮮を訪問しています。中朝間では、お互いの指導者が就任時に相互訪問する習わしでした。現在では守られていませんが。

 そのとき、東北の問題については一切話をしない、何か言ってきても答えなくていい、金日成のあとを金正日が引き継ぐかどうかも、中国から主導的に話をしない、と決めていたのです。以後何度も、北朝鮮側からは「いつ東北を視察させるのか、管理させるのか」と中国側に尋ねています。しかし、一切、回答はしていません。特殊な関係は古い世代のもので、毛沢東、周恩来がいなくなってからは、こういう考え方に賛同する人はいなくなりました。

 中国は改革開放で市場経済を取り入れ、これはマルクス主義の理論からするとある意味で社会主義ではなくなった。それで1990年以降、朝鮮労働党は、中国は資本主義をやっているのでこの風を北朝鮮に吹かせてはならないと考え、鴨緑江の国境を厳しく管理するようになりました。隣国としての「天朝」関係が失われただけではなく、イデオロギー問題についても中朝は一致性がなくなり、社会主義陣営の国家間の関係としても大きな矛盾を孕むことになりました。

野嶋:鄧小平は革命第1世代ではありますが、経済観念も強く、ドライな価値観を持っていた人でしたからね。

:1985年には、中国から北朝鮮に供与した戦闘機ミグの修理が必要になりました。それまでは無償で中国が修理していましたが、今度は修理代を取るというので、金日成は不満に思いました。北朝鮮の抗議を受けた鄧小平はこう語ったそうです。「戦闘機を作るにもお金がかかるのだ」と。

 鄧小平は、こんなことも語っています。「いままで中国には、3人の友人がいた。うち2人はすでにいなくなった。ベトナムとアルバニアだ。彼らは中国を裏切った。おそらく3人目の友人も裏切るかもしれない。もちろん裏切られないほうがいい。しかし心の準備が必要だ」という内容です。すでに鄧小平の頭の中では、北朝鮮と反目しあう今日の事態を予想していたのでしょう。

中国こそ裏切り者

:それから対外政策でも、1972年の米中国交樹立で、中朝関係には外交上に問題が生じました。それまでは世界革命だと騒いでいたのに、米国と手を結ぶわけですから、北朝鮮は大いに不満でしたが、まだ対立は顕在化しませんでした。当時、毛沢東は、もし米軍が朝鮮半島からいなくなったらかわりに日本が朝鮮半島に入ってくる、という理屈で北朝鮮を説得しました。

 鄧小平のときはもっと根本的な変化です。もともとアメリカは、韓国と北朝鮮がともに国連に加盟する、という考え方でした。でも、北朝鮮は「2つの朝鮮」をつくりだしてしまうと反対したのです。そして、最初は朝鮮半島の2カ国の国連加盟に、中国も反対でした。それは、中国が「2つの中国」に反対している立場だったからです。

 しかしその後、韓国と北朝鮮は一緒に国連に加盟しますが、金日成は中韓の接近を非常に心配しました。鄧小平や江沢民は、北朝鮮側に、韓国とは経済関係だけだと答えていたのです。1990年のことです。翌年にも北朝鮮はまた「本当に約束は守るのか」と聞きましたが、中国はそうだと返事をします。

 ところが、実際には1992年に中韓国交樹立が起きます。金日成は腸(はらわた)が煮え繰り返る思いだったでしょうが、「私たちは引き続き私たちの社会主義を守る。あなたたちはやりたいことをやりなさい」と述べました。北朝鮮から見れば、中国こそが関係を壊した裏切り者で、自分たちを売り渡した、ということになります。このとき、伝統的な中朝関係は決定的な亀裂が入ったのです。

北が見ているのは「中国の核」

野嶋:日本では、中韓の国交樹立を、北朝鮮問題の大事なターニングポイントとして位置付ける議論があまり見られません。実際のところ、北朝鮮が恐れているのは、米国ではなく、中国なのですね。

:中国は、東北に新しい革命組織を立ち上げ、北朝鮮の現政権を転覆させることができる唯一の外部勢力です。米国にその力も意図もないでしょう。北朝鮮が真に警戒しているのは中国で、だから「潜在的な敵」なのです。

 北朝鮮がどうして核開発を始めたか。

 北朝鮮は1993年に核不拡散条約から脱退し、核開発に着手しています。これは中韓国交樹立の直後です。北朝鮮は一体、誰の核に対抗するために核を持とうとしているのか。答えは明らかです。北朝鮮が恐れをもって見ているのは、米国の核ではなく、中国の核という面が大きいのです。

 米国は朝鮮半島に戦略的利益を持っていません。中国にとっては国境を接しており、戦略的利益があります。北朝鮮問題については中国がリードしていけば米国は必ず妥協し、追随します。習近平主席は、北朝鮮問題を解決に導くことで国際的な威信も確立でき、米中関係もより深まるでしょう。問題は、朝鮮半島の将来について、習近平主席とトランプ大統領が腹を割って話し合い、「北朝鮮消滅後」の未来図をしっかりと描けるかどうかなのです。

(内容の一部は、笹川平和財団での講演を本人の許可のもと引用しています)

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