記事

「就活ぶっこわせ」デモはどこに向うのだろうか

2008年9月15日にリーマン・ブラザーズが倒産し、当時の金融機関は異様な空気に包まれていた。世界的に株価は急落し、金融市場で民間銀行の資金繰りは大幅に悪化した。信用不安が蔓延したために流動性は枯渇し、健全と評価された金融機関でさえも、いつ次のリーマンになっても不思議ではなかった。喧騒とする市場とは裏腹に、多くの市場関係者が静かに退場していったことが鮮明に思い起こされる。類似点も多数存在し、多くの市場関係者はマーケットでの取引量が相変わらず減少傾向であるにも関わらず、手に汗握る緊張感と大きな不安を抱えている。それほどまでに欧州債務問題は深刻で、世界中の人々に暗い影を落としている。

デモなどの抗議運動が起きるのは、人々が政治システムが機能していないと感じた時だ。米国ニューヨークのウォール街で発生したデモもそうだ。オバマ大統領の「チェンジ」に期待した人々は、一向に変わらない世の中に失望し、金融危機や経済問題を引き起こした人々が高額な報酬を受け取っていることに不満や怒りを抱いている。デモの背景には不平等や格差拡大という米国の社会構造そのものに対する根の深い問題がある。いま米国では上位1%の富裕層が、所得全体の4分の1を稼ぎ、富の40%を占める。25年前と比較してもその格差は大きく拡大した。

格差論争の火付け役とも言うべき米国コロンビア大学教授ジョゼフ・スティグリッツは10月のデモ会場で「ウォール街は損失を社会に負わせ、利益は独り占めにした。これは資本主義ではない」と演説し喝采を浴びた。ある意味でこれは正しいし、現状を把握した意見であるけれど、犠牲になった多くの市場関係者が存在することもまた忘れてはならない。

日本では格段に充実した社会保障などセーフティネットが下支えとなり、2010年の失業率は5.3%という世界的に低い水準で踏みとどまっている。しかしながら、こうした社会保障はそれが財政悪化の要因にもなり、財政出動の余地を減らし、時に政府自身を危機の原因に追い込む。まさに年金問題に揺れる政府がそれを証明している。

欧州債務問題により世界的に不安が蔓延し、少しでも安定した就職先に入りたいと願う新卒学生の多くが、大手企業に殺到しているようだ。こうした影響から就職活動は長期化し、「就活ぶっこわせデモ」が学生の間で広がりを見せ、新卒一括採用制度廃止を訴えかけているようだ。

解雇権濫用法理は、企業による一方的な解雇権の行使を無効にする法的規制として1970年代に最高裁で確定し、2003年に労働基準法に盛り込まれ明文化された。果たしてこうした厳しい解雇規制は本当に世の中の人々を救うことになったのだろうか。

『6ヶ月以上1年未満』
[画像をブログで見る]

『1年以上』
[画像をブログで見る]

(出所:OECD資料より筆者作成)

これは長期失業者の割合を示している。1つめのグラフが6ヶ月以上1年未満を、2つめが1年以上失業していることを表している。長期失業者の割合は、ドイツ、イタリアなど欧州主要国で高く、2009年の1年以上の長期失業者の割合が4割になっている。他方、アメリカでは1年以上の長期失業者の割合は10%前後となっており、比較的低い水準を保っている。

EUでは日本よりも強力な解雇規制が存在し、企業は容易に解雇することができない。このように解雇規制の強化が労働環境を悪化させ、長期失業者を増やすことは統計的に証明することが可能だ。解雇が比較的容易なアメリカ、イギリスなどは、全体的な失業率は高いけれど、雇用率も高いことが読み取れるし、日本で派遣労働が増加しているのは、解雇規制が強すぎて容易に正社員を雇うことができないからだ。(参照

外資系企業では頻繁に解雇を行なっているからこそ、新卒学生を毎年一定の人数雇用することが可能なのだ。だけどこうした一部の企業だけが解雇規制が緩やかで、一部が厳しいという歪んだ雇用体系が存在する国では、そのしわ寄せは解雇が容易なシステムを採用している社員に向けられることになる。ある一定年齢を超えると、賃貸マンションの契約が困難になったり、長期的な自動車や住宅ローンを組むことも拒否されることがあるようだ。

年金問題と同じように大企業や公務員として働く人々はデフレ経済の恩恵を享受している。基本的に年功序列制度には減給ということは起きないから、定年まで雇用が保証されたうえに、毎年デフレの分だけ昇給していくことになる。逆に企業は商品やサービスの価格が値下がりしていくのに、人件費が増加していくわけだから、その分利益は減り、新卒学生の雇用を絞らざるをえなくなる。

それでは解雇規制を撤廃して、外資系企業と同じように企業が自由にリストラできるようにすれば新卒学生は救われるのだろうか。恐らくこの答えは「NO」だ。解雇規制を撤廃することになれば、リストラを断行した分、中途採用を積極的に行なうことになるだろう。そうした時の人材補給として考えられるのは、3年から5年程度社会経験があり、尚且つ一定の結果を残した若手社員だ。つまり企業は益々新卒学生を雇用するインセンティブがなくなることになる。

企業は最小のコストで利益を生み出す為に研修の必要がない、そして即戦力となる中堅レベルのスペシャリストの採用に注力することになるだろう。具体的には、顧客との交渉スキルに長け、幅広い顧客網を掴んでいる求職者を中心に雇用することになるのだ。ジュニアレベル、つまりは新卒学生の人材需要は大幅に落ち込み、簡易的業務はグローバル化により人件費の安い海外に移転していくことになるだろう。

こうして考えていくと、「就活ぶっこわせデモ」を行なっている学生達は、自ら自分達の雇用軽減運動に参加していることになり、ひどく悲しい光景に見える。僕もここで何度も述べてきているように、日本の企業が年功序列制度を維持し続けていることには反対だし、何よりこうした経済環境では無理が生じてしまう。だからこそ新たなシステムを作り出すことが求められる。現状ではあっちを立てればこっちが立たずの状態で、システムを維持すれば若手社員にしわ寄せがいき、解雇規制を完全に撤廃して欧米型の成果主義システムを採用すれば、人件費の高い年長者と新卒学生が犠牲になるだろう。

このように企業の利益が伸びない状況は、関係者の利害が複雑に絡み合っていて、完全に袋小路に陥っているのだ。デモを起こすことによって、悪者を明確化して批判してみてもそれほど問題は単純ではないのだ。僕達は次のステージに向うために、お互いがおり合いをつけて、日本型の成果主義システム構築に向けて走り出さないといけないのかもしれない。もちろんその道は険しくて長いと思うけれど。

参考文献

セイヴィングキャピタリズム 画像を見る

ウルトラマンと正義の話をしよう 画像を見る

労働市場改革の経済学 画像を見る

7割は課長にさえなれません 画像を見る

「就活長い」「卒論書かせろ」 大学生ら100人がデモ

日本の失業率の裏に隠された真実 リベラル日誌

年功序列制度から脱出したら日本の未来は意外と明るいかもしれない リベラル日誌

あわせて読みたい

「就職活動」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    交渉拒む韓国 反撃するしかない?

    MAG2 NEWS

  2. 2

    韓国への防衛協力を即時停止せよ

    和田政宗

  3. 3

    照射問題に前防衛相「怒り示せ」

    佐藤正久

  4. 4

    女芸人 大御所もセクハラはダメ

    たかまつなな

  5. 5

    SPA!に抗議した女子大生は危険

    小林よしのり

  6. 6

    高須氏がローラに理解示す 涙も

    田中龍作

  7. 7

    韓国が協議非公開破り事実捏造も

    城内実

  8. 8

    男、夜遊び、嫉妬 NGTに裏の噂も

    NEWSポストセブン

  9. 9

    堀江氏も敵視 急な電話は非礼か

    キャリコネニュース

  10. 10

    ヒカキン見るな 親の葛藤を痛感

    文春オンライン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。