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萩本欽一が放ち続ける「狂熱」が次世代のテレビに問いかけること

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「視聴率30%」を求めて無謀にも歩み始めた萩本

土屋の依頼を受け、番組作りのイメージを研ぎ澄ましていく為、一冊のノートに着想を次々と記し始める萩本。かつてもそうして番組作りに挑んだという。着想したイメージを具体化させるために、イメージの行方を絞る枷を書き加えていく。

「欽ちゃんのアドリブで笑」でも然りだったが、共演者を追い詰める姿がおなじみの萩本が、その厳しさを自身に向けて自らを追いこんでいく。そのノートが進んだ先に現れるであろう過去の自身に思いを寄せて、こう語った――、

<映画「We Love Television?」より>
萩本「少し気が狂ってないとダメなの。神経をね、興奮して、どっか奇跡に持っていかないと・・・」

今は仙人の域に近い在りし日の勇者が、幻の剣を自在とした若き日の心象をたぐりよせるような言葉だった。

こうして、視聴率30%という伝説のファンタジーを求め、無謀を夢想する萩本が歩み始める。時は2011年上半期。3・11東日本大震災、相方・坂上二郎との永訣。尋常ではない出来事に襲われながらも、東大の倫理学者、気鋭のCGクリエイター、放送作家・高須光聖、次長課長・河本準一など新たな出逢いを遂げながら目的へと向かっていく。

ここで、萩本がいにしえの夢想家ではないと思わされる場面に度々出逢う。中でもNHKのニュースでたまたま見かけた見知らぬ少年を「いい」と気をとめる神経の張り方に唸ってしまった。そこまでして人材を探すのか、そんな眼でテレビを見続けているのか、と。そして、伝説への伴走を続ける土屋が東北に住むその少年を探し出し、東京に連れてきて萩本に引きあわせる展開もなんだか容赦なくて素敵だった。

視聴率30%という奇跡を起こすために、何をするべきか、何をしないべきか。その問答のような言葉があちこちに飛び交う。台本を面白く直すとダメ、稽古場でのアイデアを本番で出したらダメ・・・。万全の準備の果てに、装備した武器を捨て、退路を断ち、未知なる自身の力を信じて戦わないと、その向こう側にある奇跡をつかむことはできないのだと。

奇跡、神様、運・・・、それらの言葉が勇者復活の呪文のように萩本の口をついて出る。芸やセンスなど自力でコントロールできる力とは別の、人智及ばぬコントロール不能の世界に度々言及する萩本。それが「視聴率100%」という伝説のような現実を体験した者の感覚らしい。

そうして制作・放送されたゴールデン帯の2時間特番「欽ちゃん!30%番組をもう一度作りましょう(仮)」(日本テレビ系 2011年7月22日OA)は、奇跡を起こすことなく10%にもみたない凡庸な視聴率に終わる。夢想は現実に引き戻される。そこで萩本は土屋に語る。あきらめない、と。ここであきらめたら「欽ちゃんの歴史に失礼」だと。

萩本が放ち続ける「狂熱」が次世代に問いかける

その後、萩本の挑みはテレビ地上波という表舞台を降り、ニコニコ生放送、AbemaTVなどに場を変えながら続いていく。そして今年2017年に先述したBS特番「欽ちゃんのアドリブで笑」につながる。76歳の萩本が心身の限界を超えてしまう姿も記録にとどめられ、胸をえぐる。

映画全編で映し出される萩本は尋常とは言えない熱を帯び、常人とはかけ離れたバイタリティーに充ちている。萩本を頂とする浅井企画に所属し、直系のスジにあたるキャイ~ン天野ひろゆきがこの映画に触れて語っていた。

<「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」(ニッポン放送) 2017年11月6日放送>
天野「もう、熱がすごい。ずーっと2時間ダメ出しされてるみたいな気持ちで観てましたよ。おまえら本気でお笑いやってんのかと。そんな熱あんのかと」

芸人に限らず、この熱は観る者が抱える冷めた何かを熱し、焦がす。萩本が放ち続けるこの熱を土屋は「狂熱」と表し、その継承を次世代に問いかける。それが映画「We Love Television?」だった。

レイトショーだった映画を見終え、浴びまくった熱に体を火照らせながら、もうひとつのことを思わずにいられなかった。それは、かつて視聴率30%という伝説を体現した萩本と土屋の、その非才だけではいかんともしがたいものがあるという冷温の現実についてだ。

時運、時運、時運・・・この、いかんともしがたいもの。

かつて時代を制した才人が尋常ではない人事を尽くし、なおこの「時運」に巡り会わなければ伝説は起きない。この映画は「狂熱」を映し出しながら、同時にこの「時運」というあやふやなものについても描く結果となっていた。

「狂熱」が神に見初められ伝説の視聴率を生む時代があった。萩本に、土屋に、彼らの「狂熱」に神が祝福を与えていた時代が。その神は今、何を見ているのだろうか。スマホか?

だとしても、いかんともしがたい「時運」に真正面から向き合う萩本欽一は、すさまじくて勇ましかった。

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