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萩本欽一が放ち続ける「狂熱」が次世代のテレビに問いかけること

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気づけば2017年、萩本欽一学長による萩本学校の通信教育を集中受講してしまっていた。上半期の講義はNHKBSプレミアムで5月から6月にかけて4週に渡った特番「欽ちゃんのアドリブで笑(ショー)」。下半期のそれは11月3日から公開となったドキュメンタリー映画「We Love Television?」。それぞれが萩本欽一による、舞台、笑い、テレビの創作術をクローズアップするものだった。

萩本欽一が目指す「動き」で楽しませる笑い

前者の萩本はすさまじかった。「今のテレビではあまり見かけなくなった」と萩本が指摘する「言葉ではなしに動きで」楽しませる笑いを目標に掲げ、萩本が若き日に浅草での修行時代に培った軽演劇の手法を、劇団ひとり、中尾明慶、矢野聖人、前野朋哉、小倉久寛らを相手に舞台上で実践しながら伝授していった。

観客を前にした公開稽古であるが、出演者たちは何が正解なのか知らされず、ひたすら萩本からの課題を受け、思いつく限りの芝居で返してはハネ返された。その様相はまさに動きの大喜利。言葉の大喜利が研ぎ澄まされた今のテレビで、それはシンプルに新鮮なカウンターで、理屈抜きでおもしろかった。

<「欽ちゃんのアドリブで笑(#3)」(NHKBSプレミアム) 2017年5月31日放送より>
萩本「アドリブというのは即興と言うんですから、何でも言えばいいってもんじゃなくて、それなりにね、工夫しなきゃいけないという。その中でですね、アドリブでこれだけは言っちゃダメってのがあるんですね。芸が伸びるのは、ひとつずつ、これ言っちゃダメこれ言っちゃダメって、次々にやめていくんですね。そうすると、どんどんどんどん優れていくという」

「そうじゃないの、こう、ハイもう一回」と、共演者に即興で指示を与えてぐいぐい追い詰め、瞬発の笑いを生み出していく手法は、これまでに萩本が手掛けてきた様々な番組で幾度となく見てきた。

だがこの番組がそれら過去の番組たちと一線を画すのは、萩本の口からその都度その場面の演出意図が語られ、アドリブに見える指示が行き当たりばったりではなく、カリキュラムにのっとった「軽演劇理論」に裏打ちされていること(の公開が果たされたこと)だった。

その理論を逐一証明するように、萩本が与える課題を消化するごとに観客の反応も大きくなっていく。コーチングと成果がプラグマティックに・・・・というか、「なんでそうなるの!?」的に結果(=笑いと喝采)を生み出していくさまに感動した。

経験に基づき実証される萩本の「一言一句」

中でも印象的だった場面が、罪人を連行する役人の足に、罪人の弟がすがって引き止めるという時代劇の稽古だ。相手の芝居(=動き)を止めない位置取り、足の運び方、表情の見え方、それらが萩本の指摘でみるみる変わり、芝居が肉付けされ、役者達の存在感と可笑しみが舞台に映えて、満場納得の爆笑&喝采となった。

<「欽ちゃんのアドリブで笑(#2)」(NHKBSプレミアム) 2017年5月24日放送より>
萩本「コメディアンってね(動きでいい形を見せるために体の)どこか痛くなんないとダメ」

なるほどそうなのか、と思わされる教えの連続。経験に基づき実証される萩本の一言一句は、とても刺激的だった。

舞台で笑いを生み出す身体表現のスキルは、かつて軽演劇の世界で多士済々なコメディアン達によって切磋琢磨され、さらに自身で開拓したそれも含め、萩本の身体に蓄積されている。その開帳と伝授によるこの「演出術ライブ」は、(51歳の自分にとっては浅草軽演劇に同時代の体験はなく)表層的だった「軽演劇」に対するイメージを全更新させてくれた。

「視聴率100%男」に迫った映画「We Love Television?」

この「欽ちゃんのアドリブで笑」は、76歳の萩本欽一が持つ舞台スキルの開帳と伝授が主題だった。そして映画「We Love Television?」は、萩本欽一が持つテレビバラエティの創作理論をつまびらかにすることが主題だった。この映画の萩本は勇ましかった。

◎「欽ちゃんのどこまでやるの!?」(テレビ朝日 1976年~ 最高視聴率42・0%)
◎「欽ドン!良い子悪い子普通の子」(フジテレビ 1981年~ 最高視聴率38・8%)
◎「欽ちゃんの週刊欽曜日」(TBS 1982年~ 最高視聴率31・7%)

70年代から80年代にかけて、これらの高視聴率番組を実現し、自身が関わる番組の一週間の合計視聴率が100%を超えることから、「視聴率100%男」の異名をとった国民的コメディアンの萩本欽一。そして監督は日本テレビの辣腕プロデューサー、土屋敏男。

◎「進め!電波少年」(日本テレビ 1992年~ 最高視聴率30・4%)

土屋は90年代、松村邦洋や松本明子らによる「アポなし」という突撃ロケのスタイルを確立し、ドキュメントバラエティーでテレビ界を席巻。猿岩石の「ユーラシア大陸ヒッチハイク横断」ほかバラエティ史に残るヒット企画を連発した「Tプロデューサー」である。

土屋は萩本をテレビ界の師匠と仰いでいる。時代の趨勢によりテレビの王からは長く座を退いていた視聴率フォースの師を、テレビ界の最前線で暗黒のフォースを振るっていた門弟が、フォースの覚醒を促すところからこの記録映画は始まる。

<映画「We Love Television?」より>
土屋「大将!もう一回、30%バラエティーをやりませんか?」
萩本「うわー、こんな嬉しい話すんの! 最高だ、えっホント?」

2011年1月、土屋は当時70歳の萩本を訪ね、視聴率30%を目指すバラエティー特番の制作を依頼する。快諾する萩本。半年後に放送される番組に向けて萩本はどう挑んでいくのか、そのプロセスを萩本の自撮りを含めて映像にとどめていく。

(以下ネタバレあり。ご了解を。)

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