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なぜ日本だけ「Uber」が広がらないのか

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■「お上」のお墨付きを求めるなんて根性ナシ

「内なる壁」は、私が東京大学にいたときにも、たくさん目にしました。構内にコンビニエンスストアを作ろうという話が持ち上がった時もそうです。かつて、国立大学の土地は国のものだったので、民間企業が営利目的で事業をしてはいけないことになっていました。でも2003年に法律が変わって、国立大学は国立大学法人になり、大学の土地は大学のものになっています。にもかかわらず、こういう時、多くの日本人は、「念のために文部科学省に確認しておこう」となる。

もし大学構内にコンビニを作ったら、学長の私が逮捕されることになるのか、というと、そんなことはありません。いちいち文部科学省におうかがいを立てたりしないで、いいと思うことならやってしまえばいいんです。今や東大の構内には、たくさんのコンビニがある。それでいいのです。

新しいことを考えたときに、いちいちお上に「やっていいですか?」なんて聞いてはダメです。聞けば「ダメ」と言われるに決まっているんですから。そして、「ダメ」と言われるからといって、そこであきらめては、新しいことは何もできません。

FacebookやYouTube、Uber、Airbnb、どれも、事業を始めるときに役所に相談していたら、認める国なんてなかったと思います。既存の秩序や制度には当てはまらない、新しい事業ですから。しかし日本人はそこで、律義に聞いてしまう。お上が「いいですよ」と言わないとやらないんです。「根性ナシ」としか言いようがない。

最近私が読んだ本で、非常に啓発されたのが、マサチューセッツ工科大学のメディアラボ所長の伊藤穣一さんが書いた『9(ナイン)プリンシプルズ』(早川書房)です。英語の題は『Whiplash』。日本語で「鞭打ち」という意味です。油断していると鞭打ちになってしまうくらいに、世の中の変化は速い。そうした中で必要な、9つの原理について語っています。

これを読むと、なぜ日本がイノベーションで後れをとっているのか、わかるような気がします。

9つのプリンシプルの中に、「Disobedience over compliance(従うより不服従)」というものがあります。そこには、「言われた通りにしているだけでノーベル賞を受賞できた人はいないし、だれかの設計図に従っていただけで、ノーベル賞をもらえた人もいない」「インターネットの先駆者たちは、だれ一人ビジネスプランなんかなかったし、だれも許可なんか求めなかった。やるべきこと、やりたいことをやっただけだ」とあります。法を遵守しているだけではイノベーションは起こせません。ましてや、何でもかんでも役人におうかがいを立てているようでは、話になりません。

役所というのは減点主義で動いている組織ですから、役人に、前例のないこと、新しいことを「やっていいですか?」と聞いたら、ダメだと言うにきまっています。私が役人であっても、そう言うと思いますよ。

■違法かどうか決めるのは裁判所で役所ではない

私が東大の学長だったときは「Don't askポリシー」というのを掲げました。要は「お上に尋ねるな」ということです。「私の了解を得ずに文科省に相談に行ったらクビだ」と言い渡していました。

何をやるか、何をやらないかは、自分たちで決められるんです。制限できるのは法律だけです。つまり法律で禁じられていること以外は、何をやってもいいんです。それにもかかわらず、なぜいちいちお上に確認するのか。

そして自分がやったことが違法かどうかを、最終的に決めるのは裁判所です。役所ではありません。それが三権分立というものです。法律には「趣旨」というものがあります。どういう状況で、医者以外の人が人を傷つけたら傷害罪にあたるのか、常識に照らして判断するわけです。

川添さんの「ワンコイン健診」が、もし裁判になっていたとしたら、おそらく裁判所は、採血の目的や採った血の量などを勘案して常識的に考え、傷害罪には当たらないと判断するのではないかと思います(彼は結局、「自分で自分の血を採る」という方法を採ることで、壁を突破したようです)。

法というのはその社会の「常識」を表している。そしてその常識を逸脱しているかどうかは、裁判で判断してもらうしかないんです。そうでないと、みなどんどん自主規制して、やってみる前から自粛してしまう。それでは新しいものが生まれるわけがありません。それが今の日本の状況です。

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小宮山 宏(こみやま・ひろし)
三菱総合研究所理事長。1944年生まれ。67年東京大学工学部化学工学科卒業。72年同大学大学院工学系研究科博士課程修了。88年工学部教授、2000年工学部長などを経て、05年4月第28代総長に就任。09年4月から現職。専門は化学システム工学、CVD反応工学、地球環境工学など。サステナビリティ問題の世界的権威。10年8月にはサステナブルで希望ある未来社会を築くため、「プラチナ構想ネットワーク」を設立し会長に就任。

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