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トランプ大統領のアジア歴訪に対する「3つの批判」 米国内で関心が低かった理由 - 辰巳由紀 (スティムソン・センター日本部長)

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 トランプ大統領のアジア歴訪は、トランプ大統領が東アジアサミットへの出席を、開始時間の遅れを理由にサミット当日にキャンセルするという、後味が悪い形で終了した。もともと、出席、欠席と決断が二転、三転する中、アジア歴訪出発直前に出席が確定し、安堵の雰囲気が漂った後だけに、一層、トランプ大統領の不在が目立つ結果となった。

歴訪中、米国内では
様々な事件・スキャンダルのニュースが話題に

 日本を皮切りに韓国、中国、ベトナム、フィリピンと計5カ国を訪問したこの歴訪、日本ではトランプ大統領の動向が詳細に報道され、大きな関心を集めたが、アメリカ国内がこのアジア歴訪を見る目は無関心といってもよいものだった。

 個別の政策問題では、「二国間の通商協定」を強調した米大使館で日米の経済・財界関係者を相手に行った演説や、ベトナムでAPEC各国のビジネスリーダーのみを相手に行った演説、そして訪中時に貿易不均衡について「中国を非難しない」と発言したことが話題になった程度。日本であれだけ一挙手一投足がメディアの関心を集めた訪日でも、最もアメリカのメディアの関心を集めたのはトランプ大統領と安倍総理とのゴルフや、トランプ大統領が安倍総理とならんで鯉に餌をやった際に、かなりの量の餌がまだ残っている升をトランプ大統領がひっくり返した場面だった。

 このようなアジア歴訪に対するアメリカ国内の無関心にはアメリカの国内事情が少なからず関係している。

 というのも、トランプ大統領のアジア歴訪中、アメリカの国内では、ほとんど毎日のように何かしら大きな事件が起こっていたのだ。例えば、トランプ大統領がハワイ経由で日本に向かっていた11月5日にはテキサス州のサラトガスプリングスという人口600人余りの小さな町の教会で銃乱射事件が発生し、20人以上の死者が出るという痛ましい事件があったため、翌6日のニュースはこの事件に関する報道で埋め尽くされた。11月7日には全米各地で州知事・州議会選挙が行われ、民主党が大勝したが、選挙当日の7日は選挙関連の報道が、翌8日は、選挙結果に対する両党や評論家の反応などが、トップ報道されている。

 また、昨年の大統領選挙でのロシア政府の動きとこれとトランプ陣営の関係、いわゆる「ロシアゲート」についても、「フリン元国家安全保障大統領補佐官を次に訴追するために十分な材料をムーラー特別捜査官陣営は持っている」という報道や、いわゆる『パラダイス文書』の露出、また、トランプ大統領の東南アジア訪問中は、大統領の息子のドナルド・トランプ・ジュニアがウィキリークスと直接コミュニケーションをとっていた事実などが次々と報道された。

 このような事件やスキャンダル関連の報道に加え、国内政治ニュースでも、税制改革をめぐる議会の動きや、アラバマ州における連邦上院議員補欠選挙の共和党候補者が過去に未成年者に性的暴行を加えていた事実が明るみにでるなど、共和党にとって不利なニュースが続いている。トランプ大統領のアジア歴訪期間中、アメリカ国内の報道では、これらのニュースが常にトップで報道され、アジア歴訪中のトランプ大統領の動きに関する報道は常に2番手、3番手扱いだったのが実情だ。

「中国にすり寄りすぎだ」「アメリカ・アローン」

 ただし、ワシントンの専門家の間では当然、今回のアジア歴訪は非常に注目されていた。これまで北朝鮮問題などをめぐり、ツイッターなどを通じた不規則発言が続き、トランプ大統領の意図に対する疑心暗鬼が高まる中、今回のアジア歴訪は、大統領自身の口から、トランプ政権のアジア太平洋戦略の全容を聞くことができる数少ないチャンスとして捉えられていたからだ。歴訪直前にH・R・マクマスター国家安全保障担当大統領補佐官がプレスに対して行った事前ブリーフィングの中で、アジア訪問中にトランプ大統領が「自由で開かれたインド太平洋地域」構想について語る予定だ、と説明したことも、期待を高めた。

 しかし、歴訪が終わった後のトランプ大統領のパフォーマンスに対する評価は非常に厳しい。批判されている点は主に3つある。第一は、訪中時の習近平主席に対する態度だ。北京滞在中、トランプ大統領は習近平主席を「偉大な人間」と評し、同主席に対して「非常に暖かい気持ちを持っている」などと述べた。さらに、米国の貿易赤字最大の相手国が中国であることについての批判も北京では完全に封印。冒頭に紹介した「米国の対中貿易赤字については中国のせいにするつもりはない」という発言まで出た。このような振る舞いが「北朝鮮問題で協力を引き出す必要性があったとはいえ、中国にすり寄りすぎだ」という批判につながっている。

 また、歴訪中に数回行った演説はもちろん、習近平主席との米中首脳会談、ドゥテルテ大統領との米比首脳会談など、人権問題を巡り米国内でも批判がある国の指導者との2国間会談でも民主主義や人権など、米国がこれまで推し進めてきた普遍的価値観に対する言及を全くせず、ひたすら自政権がいかに二国間の貿易協定を重視しているかということを強調する姿勢が行き過ぎた「アメリカ・ファースト」として批判され、「アメリカ・ファーストというよりもアメリカ・アローン」と皮肉られている。

 そして何より、トランプ大統領がベトナム・ダナンで行った「自由で開かれたインド太平洋地域」構想の演説を含め、アジア歴訪日程の中で、一度たりとも、アジア太平洋地域において米国がこれから指導的役割を果たし続けていくことに対する自政権のコミットメントについて明確な発言をしなかったことが「アメリカの力、影響力、アメリカに対する信頼感の葬儀」(マックス・ブート外交評議会主任研究員)「米国は(アジア太平洋)地域で実現し得る最善の貿易枠組みの外側に自らを好んで置いた」(リチャード・ハース元国務省政策企画部長)などの辛辣な批判につながっている。東アジアサミットへの出席を当日、サミットの開始が2時間遅れたことを理由にドタキャンし、早々と帰国の途についたことに対する批判が多いことは言うまでもない。

 歴訪が終了した今、ワシントンの専門家の間では、トランプ大統領のアジア歴訪でのパフォーマンスは、中国のこの地域での影響力のさらなる拡大の目論見をみすみす利してしまった、という雰囲気が漂っている。

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