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斉藤章佳『男が痴漢になる理由』

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 ということは、「多様な選択肢を持つストレス対処法さえ身につけておけば、最終的にこの溝を超えることはない」、ということになるだろうか(仮に「痴漢テーゼ」と名付ける)。

 実際に痴漢行為に手を染める男性は、そうはいっても「少数」であるという事実は、「痴漢テーゼ」と整合的である。

 ただ、男性の多くに「男性は女性より上に立つ存在だ」という意識があり、その歪みが背景にあること自体は踏まえておかねばならない。

 こうした土壌があって、ストレスという条件が加わり、そこに対処法との乏しさという最後の一撃が加えられれば、その時は自分が痴漢になる可能性がある、というふうにも考えられる。

 現実に誰もかれもが痴漢になるわけではないが、ある条件が重なることで痴漢になる可能性がある、ということだ。

 虚構と現実に関わって、本書で注意を引かれたのは次の記述である。

ほぼすべての痴漢が“痴漢モノ”といわれるAVを観ていると断言できます。(前掲書、Kindle の位置No.1180)
倒錯的な性行動を取り扱ったAVをくり返し視聴することで、知らず知らずの うちにその人の内面で認知の歪みが形成され、ゆくゆくは性犯罪の引き金になる……これはプログラム受講者らからヒアリングしていて、強く実感すること です。(前掲書、Kindle の位置No.1198-1201)

 「痴漢テーゼ」とこの「事実」の関係は、ストレス・コーピングの選択肢が少ない、「溝」を超えてしまう男性にとっては、AVによる認知の歪みの累積は、性犯罪=痴漢への引き金になるが、多くの男性にはその引き金にはならない、ということになる。

 しかし、別の言い方をすれば、痴漢AVは、多くの男性にとっては痴漢の引き金にはならないが、認知の歪みを累積させていく危険はある、ということになる。

 これは、ぼくが、「『ジャンプお色気♡騒動』に思う」という記事で書いたように、

 自分が女性(異性、または同性)をモノのように扱っている、性的な対象、性的な存在としてのみ扱う、っていう影響が入り込んで、日常の小さなところで出ちゃっているかもしれない。

 そういう「小さな」影響は、「性暴力を真似る」みたいなわかりやすさでは出てこないんだよ。「微細な=無自覚な」影響は、読んだ者の中にこっそりと残る可能性がある。それが日常の女性に対する態度や視線の中に現れないとは限らないんだよ。……という批判。

 これは、簡単には否定できないと思う。

http://d.hatena.ne.jp/kamiyakenkyujo/20170707/1499363338

という指摘を裏付けているように思う。

 政治的にある歪みを持った虚構作品は、それを「解毒する」現実感覚や学習知識を持っている人がそれを鑑賞したら、大半は「解毒」して楽しめるのかもしれないが、思わぬ影響が実は自分の中に蓄積している可能性があるのだ。

 くり返すことになるが、虚構を楽しむことは、自分の中で知らないうちにいろんな「小さな」歪みを蓄積させていく危険がある(そしてこれもまたくり返しになるが、「だから規制しろ」というふうにはよほどのことがない限りは主張したくない)。

 本書の後半は、痴漢のような性犯罪を再発防止するための更生プログラムの話である。

 「痴漢がどう更生するかなんて知ったことか」と思う人もあるだろうが、ぼくは個人的にこの再発防止のプログラムに関心があったので、興味深く読めた。

 「更生」という問題にあまり関心がない人は、自分の中に蓄積された「認知の歪み」がどれほど大変な努力をしなければ是正されないのかを本書で知るといい。

*1:原文ママ――引用者。

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