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自公連立の”番外地”茨城7区の現状―オレと選挙と中村喜四郎と “選挙の鬼”との12年戦争(3)

※前回までの記事
中村喜四郎という男―オレと選挙と中村喜四郎と“選挙の鬼”との12年戦争(1)
“報道陣立入禁止”の個人演説会の中身は?―オレと選挙と中村喜四郎と “選挙の鬼”との12年戦争(2)

バックアップ用のバイクがハイエースで随行する選挙戦

私が中村と直接言葉を交わせたのは、そこから9年が経った14年の総選挙のことだ。

この頃には中村のマスコミ嫌いも少しはゆるくなり、少なくとも街頭演説の予定を事前に教えてもらえるようになった。そこで私は複数日、中村の選挙運動を車で追いかけた。

中村がバイクで走り、その前後を街宣車とスタッフの車が走る。選挙区内の各地域を1日30か所以上細かく回り、短く街頭演説や握手を繰り返すやり方も変わっていなかった。

驚きの発見をしたのは、信号待ちで中村軍団の車列の最後尾にピッタリ着いたときだ。最後尾を走っていたのは白いハイエースワゴン。その荷台には、なんと、中村が乗っているものと同じ型のバイクが積まれていた。

荷台にバックアップ用のバイクを積んだハイエースが街宣車の後ろを走る(撮影:畠山理仁)

車列の先頭付近では、もちろん中村自らがハンドルを握るバイクが走っている。つまり荷台に積まれたバイクは、中村のバイクが故障してもすぐに乗り換えられるよう、バックアップとして乗せられたものだった。そのハイエースが軍団と一緒に行動している。まるで耐久レースのピットクルーではないか。

確かに中村は街頭演説でも、

「1日に300キロをこのバイクで走っております」

と胸を張っていた。時速30キロのバイクで300キロ走るとしたら10時間かかってしまう。ちょっと大げさだと思うが、中村が一日にかなりの距離を走っているのは間違いない。私は中村の一日を朝から晩まで追いかけたことがあるが、ところどころ見失っても、走行距離は200キロをゆうに超えていた。

そんな中村は選挙期間中、マスコミに向かって直接話すことはない。選挙中は有権者が第一で、マスコミへの対応はしない。マスコミのカメラは道端の石と同じように、中村の意識の中では存在しないのと同じだ。

 しかし、2005年の選挙時からは大きく変わっていることがある。それは中村の個人演説会にカメラを下げたまま入場しても咎められなくなったことだ。

「記者さん? どうぞ、どうぞ」

2014年の選挙を取材したときには、街頭演説会場で手伝いをする女性スタッフにそう言われることも珍しくなくなった。これは大きな進歩だった。

中村の選挙を支えてきたのは、長らく「喜友会」だと言われてきた。しかし、中村は女性だけで組織する後援会「なでしこ会」も各地に立ち上げていた。中村は選挙期間中に室内での個人演説会を開いていたが、こうした演説会を主催しているのが各地の「なでしこ会」だった。

なでしこ会の個人演説会 バナナはお菓子に入りますか?

中村の個人演説会場入り口には、ミカンの集荷に使うような黄色いコンテナが山のように積まれていた。そして、受付の女性たちは、そのコンテナから白いレジ袋に入った包みを参加者たちに渡していく。

袋の中に入っているのは、菓子パンとペットボトルのお茶、ミカンとバナナ、そして中村の政策ビラと選挙期間中の遊説日程が印刷されたA3の厚紙だった。

個人演説会の参加者に配られた袋の中身(2014年)

参加者たちは、皆、入り口で袋を受け取って会場に入った。会場の収容人数は600人から700人。大きな会場では2000人を超えることもあった。

なかには剥いたりんごを入れたタッパーを自宅から会場に持ってきて、隣り合った知り合いに配る支持者もいた。会場に駆けつける時も大型バスに乗り合わせてやってくる。そのため個人演説会の会場は、食べ物のいい匂いがすることもあった。

公職選挙法では、飲食物の提供には厳しい制限が設けられている。「湯茶及びこれに伴い通常用いられる菓子の提供」は認められているが、選挙運動に従事する者または使用する労務者に対する弁当であっても、一定の弁当料、人数などの規制がある。まさに小学生の遠足のように「バナナはお菓子に入りますか?」と聞きたくなるような状況が目の前に広がっていた。

私は実際にその場から茨城県選挙管理委員会に問い合わせの電話をしてみた。

「中村喜四郎候補の個人演説会で、菓子パンとお茶、ミカンやバナナが配られています。バナナはおやつに入りますか? これって、大丈夫なんでしょうか」

茨城県選挙管理委員会の担当者の答えは微妙だった。

「うーん。あまり豪華だと問題がある可能性がありますね……」

だから「菓子」パンなのか。

この時の選挙をさらに取材して気づいたことがある。投開票日が近づいた時期に別の個人演説会場で袋の中を参加者に見せてもらうと、バナナの本数がそれまでの「1本」から「2本」に増えていた。

選挙戦最終日でバナナが余ったから本数が増えたのか、それとも意図的なものであるかはわからない。しかし、それは確かな変化だった。

中村の地盤・茨城7区は自公連立「番外地」

ここで中村喜四郎が地盤とする茨城7区について解説しておこう。茨城7区は全国的に見ても特殊な選挙区だ。

国政では「自公連立政権」が長く続いている。全国各地では政権を維持するために自公の選挙協力が行われ、「小選挙区は自民党候補、比例は公明党」という住み分けができている。そして自民党は公明党の組織力、集票力がなければ当選ができないとまで言われる。

しかし、ここ茨城7区だけは「自公の選挙協力」という常識が当てはまらない。茨城7区には自民党公認の候補・永岡桂子がいるが、2012年、2014年、2017年と、公明党は自民党の永岡ではなく、無所属の中村喜四郎を推薦してきた。茨城7区だけは、まるで治外法権のような不思議な選挙区なのだ。

永岡桂子は衆議院議員であった夫の永岡洋治が自殺した直後の2005年総選挙から自民党公認候補になっている。政治の世界において「弔い合戦」は圧倒的に有利だと言われるが、永岡は2005年の選挙でも中村に勝てなかった。2017年の選挙で永岡は通算5度目の当選を果たしたが、すべて小選挙区で破れての比例復活当選だ。

(左)2014年総選挙時のポスター掲示板(右)2017年総選挙時のポスター掲示板。あまり代わり映えしない(撮影:畠山理仁)

一方で、無所属の中村は小選挙区で敗れれば比例復活はない。絶対に小選挙区で勝たなければその地位を失う。だからこそ、毎回、命がけの選挙戦を展開している。

同じく選挙に一生懸命な公明党にとって、確実に票を持ってくる中村の力は無視できない。ひとたび中村が「小選挙区は中村、比例は公明党」と号令を出せば一気に票が動く。中村が「日本一の後援会」と呼ぶ喜友会の力は、中村と同じく選挙に命をかける公明党にとって大きな魅力になっている。だからこそ、「自公連立」を無視した選挙協力が続いている。

個人演説会の会場に行くと、そのことがよくわかる。会場には堂々と公明党ののぼりやポスターが並び、揃いのジャンパーを来た公明党の女性たちがにこやかに挨拶している姿が見られるのだ。

「選挙区は中村、比例は公明党!」

中村喜四郎の個人演説会には、公明党の議員や候補者も登壇する。そして、

「日本一の後援会、喜友会の皆様とともに、この選挙戦を戦っていきます!」

と宣言する。すると会場に来ている公明党支持者たちが立ち上がって手を振り、大きな拍手をし、自分たちの存在をアピールする。

実際、公明党は喜友会と選挙協力をすることで、それまで比例北関東ブロックで2議席だった議席を3議席に増やした(2012年、2014年)。喜友会との選挙協力に踏み出したことで、茨城7区における公明党の比例票が目に見えて増えたのだ。

中村は公明党の議員を前にした席でも、こんなことを堂々と言う。

「結果が出なければ、選挙協力はしない!」

そんな中村を見ていると、田中角栄の言葉を思い出す。

「政治は数であり、数は力、力は金だ」

※次回に続く

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