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「オウム」を消してしまうだけでいいのか - 鈴木邦男

 オウム裁判が終結した。1995年の強制捜査から16年8ヶ月を経て、189人が起訴されたオウム真理教の一連の刑事裁判は全て終結した。教祖・麻原彰晃(本名・松本智津夫)他、元幹部13人の死刑が確定した。なぜ裁判が17年もかかったのか。それに、麻原本人の口から何も語られなかった。オウム真理教とはどんな団体だったのか。なぜ事件を起こしたのか。それらが全く語られなかった。

 彼らは史上例を見ないほどの残虐な犯罪を起こした。坂本弁護士一家の殺人事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件などだ。教団内部での殺人事件もある。一連の事件で29人が死亡し、負傷者は6500人に上った。

 新聞やテレビ、ネットでは「一日も早い死刑の執行を!」「まず麻原からだ!」という声があふれている。刑の執行が終わらない限り、「オウム事件」は終わらない。そう思っているようだ。刑の執行で、事件を終わらせ、記憶を消したいのだろう。

 でも、早急に事件を終わらせ、記憶を消してしまっていいのだろうか。と思う。あの頃の、熱い「空気」を憶えているからだ。犯罪集団になる前のオウムは、熱狂的に取り上げられ、皆、オウムについて熱く語っていた。ブームであり、「オウム現象」だった。そんな興奮と昂揚を見ていたのだ。だから、〈記憶〉まで消してしまっていいのか、と思う。

 たとえば、東大や京大などでは麻原の講演会が開かれ、超満員だった。そこで麻原の話を聞いて入信した人は多い。大学当局が主催者ではないが、許可した。その責任はあるだろう。東大や京大でも講演するのだ。ということで「信用」し、「安心」して入った人は多かった。又、有名学者や評論家、ビッグなタレントが麻原と対談し、持ち上げた。彼らが麻原にお墨付きを与えたのだ。僕らだって漠然と思った。よく分からないが深い修行を積んだのだろうと。

 又、テレビでも、よく取り上げられていた。僕がよく覚えているのは、「朝まで生テレビ」だ。オウム真理教と幸福の科学が一騎打ちをし、他に宗教評論家なども出た。

 幸福の科学のトップは出ない。幹部や作家の景山民夫さんなどが出た。オウム真理教は麻原自らが出た。気合いが違うと思った。真面目だし、真剣に修行し、世の中のことを考えていると思った。弁護士一家殺しの疑惑も一部には言われていたが、「いや、彼らはやってない」と思った。見抜けなかった僕らが愚かなのか。でも、多くの人がそう思ったはずだ。

 オウム事件の犯罪が明らかになった後でも、オウム問題は「朝生」で何度も取り上げられていた。「オウム真理教と連合赤軍」というテーマの時は、僕も出た。宮崎学さんや、元東大全共闘の小坂修平さん、元連合赤軍の植垣康博さんなども出た。「何故、オウムが悪いかというと、宗教なのに人を殺したからです」と、あるパネラーが言うと、他の人達は、「何を言ってるんだ、人を殺してない宗教なんてあるか!」と噛みつく。十字軍戦争などを言っているのだ。「オウムは連合赤軍と似ている」と指摘されて、植垣さんが、「いや、全く違う。我々は無関係の人間を無差別に殺したりはしない」と自らの正当性を訴えていた。

 討論は過激な内容だし、よくあそこまで言えたと思う。今なら、とても言えないだろう。こんな番組もやれない。ユーチューブなどで見ようと思ったが、削除されたのか、出てこない。オウムに同情的な部分があると思われたら困る、という理由か。でも、当時の〈空気〉を知るためには見せる必要があると思うのだが。何なら、DVDにして売ってもいいだろう。それだけの「教材」としての価値はあると思う。そうした再検討がないならば、いつか同じような指導者が現れたら、同じような事が起こるのではないか。そう思うからだ。

 森達也さんの『A3』(集英社インターナショナル)を読むと、麻原は詐病ではなく、完全に人格が破綻されていると言う。では、死刑など執行できないはずだ。ただ、これだけの犯罪をおかし、人を殺した人間をそのまま生かしていていいのか。という国民感情がある。そのために、麻原の病気には触れずに、ともかく「刑の執行を!」という声が多くあがっている。

 もし、麻原が正常ならば、法廷において堂々と述べるだろう。宗教的理由も述べるだろう。「この世において犯罪になるのなら、その責任は全て私一人にある。私一人を殺せ!」と叫ぶに違いない。信徒たちもそう願っているはずだ。そして処刑。そうすると、100年後、200年後に名誉回復され、甦るかもしれない。「殉教者」になるかもしれない。

 殺すことによって、「英雄」や「殉教者」になられては困る。政府も警察もそう考えた。だから麻原に薬を与えて、人格を破綻した。と言う気はないが、今では何も喋れない。目の前の人間すら認識できない。「大悪人」として買いかぶりすぎた我々が愚かだったのかもしれない。

 オウム真理教をやめ、今は「ひかりの輪」の代表になっている上祐さんとロフトで対談したことがある。なぜ、東大・京大などのエリートが、こぞってオウムに入ったのかと。そうしたら、こう言っていた。頭のいい学生たちは、科学で解明できないことはないと思っている。そこに小さな「超能力」を見せてやる。信じられない世界だ。学生たちは、じゃ、俺たちが習った世界は何なのだ、と、その世界がガラガラと崩れる。そう言っていた。

 麻原は確かに超能力はあるだろう。だから偉いわけでも、正しい人でもない。超能力というのは、むしろ動物的なものかもしれないと言う。文明化する前の人間が持っていた原初的な能力だ。それなのに、その動物的能力を示した人を全面的に信用してしまう。

 上祐さんの話を聞いて、なるほどと思った。又、『A3』で森さんは、「麻原だけの独裁ではない」と言っている。麻原を囲む幹部たちが、麻原に、いろいろと「注進」したのだ。「これは米軍の謀略だ」「我々が選挙に負けるはずがない」「誰かが投票箱をすりかえたんだ」…と。麻原が聞いて心地よく響く注進だけを聞いていたのだ。その意味では皆、「共犯」だ。いや、むしろ下の人間が突き上げたのかもしれない。

 元連合赤軍の植垣さんの本を読んでいたら、「山の中の総括は、決して森、永田だけの独裁で行われたのではない。かえって、周りにいる一般活動家が、突き上げたのだ」

 と言う。興奮状態の中で、「もっとやれ! もっとやれ!」と叫ぶ。「次はこいつだ!」「こいつを総括しろ!」と叫ぶ。ありうる話だと思った。

 これは、そうした極限状況を見た人でないと分からない。オウム真理教も、もっともっと解明すべき点はある。一般の人間でも会えるようにし、あるいはネットで話せるようにし、彼らの生の声を聞かせたらいい。彼らは、日本における「負の財産」だ。ただ消してしまうのでは、納得ができない。

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