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自由を求めるヒーローか、人類共通の敵か――海賊から世界史を読む / 『海賊の世界史』著者、桃井治郎氏インタビュー

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――スペインがアメリカ大陸で掠奪した富を、女王が海賊を使って掠奪させていた、というのもすごい話ですよね。

投資するだけの見返りがあったんですね。ドレークは、海賊行為をしながら結果的にマゼラン艦隊に次ぐ人類史上2度目の世界周航を果たすことになるのですが、このときの遠征の利益は莫大でした。エリザベス女王が得た取り分だけでも、当時のイングランドの対外負債を返済し、さらには、レヴァント会社設立の出資金となるほどでした。

のちに、レヴァント会社の利益によって東インド会社が設立された経緯があることから、経済学者のケインズは、ドレークの遠征が「イギリスの対外投資の基礎になった」と記しています。そうなると、イギリスの経済発展や資本主義は、海賊がその原資をつくったということになります。

そのため、おっしゃるように、ドレークは今もイギリスでは英雄です。ゆかりのあるプリマスの公園には、ドレークの立派な銅像も立っています。

――ハイルッディンにせよドレークにせよ、海賊とはたんなる掠奪行為をする存在ではなく、覇権をめぐる国際関係に深くかかわるアクターだったことがよくわかります。海賊は、近代の国際秩序の形成にも寄与したとのことですね。

もし、ドレークのような海賊がいなければ、新大陸でのスペインの支配が強固になり、世界的に見ても、スペイン帝国が覇権を握る国際秩序が構築されていたかもしれません。その点で海賊の存在は、スペイン帝国の覇権的支配を打ち砕き、ヨーロッパ諸国が競合する国際秩序を生み出すのに貢献したといえるでしょう。

イギリスやフランス、オランダなどはスペインに対抗するため、戦時には民間船に私掠状と呼ばれるスペイン船襲撃の許可状を発行しました。私掠というのは、交戦国に対する国家公認の海賊許可証です。

ただし私掠船は、戦争が終われば、掠奪行為は認められないのですが、実際には戦争が終わっても、その利益の大きさなどから、海賊行為を継続する文字どおりの海賊が現れました。そうした海賊の存在は、北米に植民地を築いたイギリスなどにとっても、貿易や植民地経営を妨げる存在となります。そのため各国は、徐々に民間の私掠船に頼らず、自国の海軍を強化する方向に変わっていきます。海賊の存在によって、結果的に主権国家による暴力独占が進んだとも言えます。

さらに、冒頭でも話しましたが、19世紀のバルバリア海賊の廃絶は、ヨーロッパの大国の協調体制のもとで進められました。つまりそこで、国際社会としてのヨーロッパと、国際社会外の存在としての北アフリカに二分する国際秩序が生み出されることになりました。国際社会内部では、お互いの主権を尊重する「寛容」原理が適用されたのに対して、国際社会外、つまりは他者としてのイスラーム世界には、自らの規範やルールを強要する「文明化」原理が適用されることになったのです。

海賊の存在は、近代国際秩序である主権国家体制と国際社会の萌芽に寄与したと言えるでしょう。

――これまで何度かバルバリア海賊の話題が出てきましたが、9.11の後、アメリカでバルバリア海賊の歴史に注目が集まったとのことですね。

はい。先ほど話したとおり、18世紀末、ヨーロッパ各国は、北アフリカ諸領と和平条約を締結し、バルバリア海賊による襲撃を免れていました。ただし、和平条約の締結にあたっては、北アフリカ諸領への貢納を条件とするなどの規定がありました。そのため、貢納を拒否したり、あるいは和平条約を締結していない国に対しては、海賊行為は継続され、18世紀末当時でも、北アフリカに数万人のキリスト教徒奴隷が存在していました。

――ヨーロッパは北アフリカ諸領にお金を払って、イスラーム教徒の海賊行為を止めてもらっていたわけですね。

そうです。しかし、建国直後のアメリカは、北アフリカ諸領への貢納を拒絶しました。そのため、北アフリカ諸領と対立することになります。アメリカ政府は北アフリカに艦隊を派遣し、軍事的な圧力のもとでバルバリア海賊の要求を拒否しました。

9.11事件の後、このときの歴史が対テロ戦争の起源として見直されることになりました。つまり、バルバリア海賊という無法者との対決に、世界に先立ってアメリカが着手し、最終的に打ち勝ったというストーリーによって想起されることになったのです。

言い換えれば、アメリカは、国際秩序を乱す海賊を廃絶させるためにパイオニアの役割を果たしたのだから、21世紀の現代でも、テロを鎮圧する役目を果たし、そしてその試みは最終的に成功するという神話を広めるのに、バルバリア海賊の歴史が役立ったことになります。

ただし、こうした神話化は負の側面もあります。対テロ戦争に打ち勝つという神話は、はたして現代の対テロ戦争が成功するのか、また、その手法が正しいものなのかという点を忘却させ、無根拠の楽観論を広げる危険があるからです。

――そうしたなか、アメリカの外交と国際テロリズムの関係について、チョムスキーがアレキサンダーの大王の逸話を取り上げて批判したというのが興味深かったです。大王の遠征も海賊も本質は同じであって、「わたしは小さい舟でするので盗賊とよばれ、陛下は大艦隊でなさるので、皇帝と呼ばれるだけです」と海賊が大王に答えたという逸話です。

海賊とテロリストは、どちらも国際秩序の側から見ればアウトサイダーであり、アウトローでもあります。そのため、海賊やテロリストに対しては、国際秩序内で適用されるルールは無視され、容赦のない鎮圧作戦が実施されることになります。

大王と海賊のエピソードから考えるべきは、たんに力を持ったものが正義を持つとすれば、大王と海賊の間には力の大小以外の違いはないということになります。力を持ったものが正義となり、逆賊を掃討するとなると、国際政治における専制につながってしまいます。

国際政治において正義の問題を考える際に問われるべきは、正義とは何か、正義は誰が定めるのか、そして、どのように正義を適用するのかという問題です。つまり、海賊やテロリズムの問題を考える際に重要なのは、たんに安全保障の観点からそれらを力で鎮圧すれば良いということではなく、国際政治においても民主主義の確立が重要になるという点だと思います。チョムスキーが提起したのは、こうした問題ではないでしょうか。

――他方で、人はときに海賊に魅せられますね。その理由とは何なのでしょうか?

海賊にはふたつの側面があると思います。

ひとつは、船を襲撃し、町を掠奪するという暴力的な側面です。当然ですが、人道的意識が確立した現代では、このような暴力的な側面としての海賊は否定されるべきです。

ただし、海賊にはもうひとつの側面、つまり、秩序に対する反逆、国家に対する個人、管理に対する自由という側面もあります。海賊は、反逆や個人や自由の象徴となっているのです。

現代社会はあらゆる側面で人間の管理化が進んでいますので、そのことへの反発として海賊が憧憬の対象になっているのだと思います。つまり、管理社会に抗し、自由に生きるという海賊的生き方が、海賊ブームの背景にあると思います。その意味では、今後も海賊の存在は反逆のシンボルとして繰り返し想起され、生き続けていくと思います。

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