たまたま昨年の参議院選挙の際に民放各局が自民党の政党CMについて民放の姿勢が明確になった。自民党側が政党CMの映像に挿入していたG7東京サミットで首脳同士が談笑している画像やオバマ前大統領の広島訪問画像の使用に民放各局が難色を示し、けっきょくサミットの画像を使わない形で政党CMは放送された。
公職選挙法に抵触する可能性を配慮した措置だった。
このあたりの経緯は、リテラが詳しく報じている。
繰り返すが、各放送局の政党CMの考査は、公職選挙法と日本民間放送連盟の指針に基づいた各局の内規で決められるものだ。それは、放送の独立を考える上でも、とくに公権力からは厳密に距離をとらなければならないからである。
出典:LITERE 2016.6.21
この時に民放各局が難色を示し、自民党の要望にもかかわらず、結局、挿入することができなかったサミットなどの画像は以下のものだ、ネット上ではこれを入れたバージョンの自民党CMを見ることができる。
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16年参院選の自民党CMで、テレビでは割愛された画像
参院選では放送されなかった自民党CMの画像の部分(ネット上ではこの画像を入れた形でアップされた)。
この時に、民放各局がサミット画像を拒否した基準に立てば、今回のNHKの前日番組も民放では「アウト」ということになるだろう。
ところが今回の総選挙で投票前日に放送された番組では、安倍晋三首相の自民党総裁としての活動を紹介する冒頭の場面で、首相公邸での安倍首相と官邸スタッフ(防衛省、外務省などから出向している官僚)が日本地図を見ながら会話する生々しいやりとりが披露されている。
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NHKが投票前日の特集番組で放送した場面
安倍首相:北朝鮮情勢はどうですか?
防衛官僚:特段のところ変化はございません。
ナレーション:この日は朝鮮労働党の創立記念日。北朝鮮の最新の情勢を確認していました。
防衛官僚:北海道南部。それから北が名指しをした中国、四国地方を含めて、パトリオット(ミサイル)部隊を全国に展開しております。日本海にはイージス艦も展開中です。
安倍首相:今後も引き続き、緊張感を持って警戒を維持してもらいたいと思います。
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NHKが投票前日に放送した特集番組
内容からして明らかにこれは内閣総理大臣(首相)としての業務を行っている場面だ。けっして党首としての業務ではない。
党首(自民党総裁)としての選挙選での活動を紹介する番組。しかも投票前日の放送で、総理大臣としての仕事を紹介する。はたしてこの放送が適切なのか。私を含めて少なくない研究者たちが首を傾げた。
NHK番組に感じた違和感その3
安倍首相個人のヨイショが随所に!
番組内で紹介されていたエピソードの中には、安倍首相が自分の愛読書として、イギリスのチャーチル元首相の伝記について語っているくだりがあった。本を紹介したうえで安倍首相に以下のように言わせている。
ナレーション:安倍総裁が大切にしている本があります。
安倍首相:チャーチルの伝記でして、彼はネバー・ディスペアー、決してあきらめなかった。
ナレーション:一度政権を失った後も政治信念を貫き、再び政権を手に入れたイギリスのチャーチル元首相。その言葉を胸に刻んできたといいます。
ちなみに番組内では、安倍総裁の代理として地元で遊説に歩く昭恵夫人と首相が電話でやりとりする場面も登場する。
その後で昭恵夫人について安倍氏はこう語っている。
「率直に昭恵も言いたいことも言いますから。ま、でもこういう時には本当に夫婦で一緒になってがんばる、そういう同志でもありますね」
こうした数々の場面は、民放のニュースなどにはまったく登場しなかったもので、NHKと首相との距離感がとても近いことを視聴者に伝えていた。
これは2012年12月に安倍首相が政権のカムバックした直後にTBS「情報7Days ニュースキャスター」が放送した番組によく似た内容だった。このTBSの放送についてほとんど批判精神が見られず、首相のヨイショに終始していため、私はネット記事で以前「ヨイショ番組」だとして辛辣な記事を書いたが、今回のNHKは投票前日の9時という多くの視聴者が見ている時間帯におおっぴらにやっていた点でより罪深いといえる。まるでCMとして作ったような番組だった。
民放のCMの考査で、民放の基準では「アウト」と判断されるような場面が、NHKの番組としてはなぜ問題にならなかったのだろうか。
この点は理解に苦しむ。
公共放送であるNHKは、民放以上に政治的な公平には、本来、もっとデリケートであるべきではないのか。
私はそう考える。
NHKが持つ公共性とはいったい何なのか。
もっと建設的な議論を進めるためにも、この投票前日番組はもっと検証されるべきだと思う。
※Yahoo!ニュースからの転載