記事

職業教育とインテグレーション――スイスとスウェーデンにおける移民の就労環境の比較 - 穂鷹知美 / 異文化間コミュニケーション

4/5

教育システムと就労システムの間のつながり

スイスとスウェーデンの現状の比較では、特有の職業教育システムを持つスイスのほうが、移民の就労が容易であることがわかりました。とはいえ、インテグレーションは数世代をかけて、社会の様々な要素が絡み合って続いていく長期プロジェクトです。短期的な即効性や一元的なものさしでは計りにくい、長期的なメリットや効果にも目を配ることが必要です。こうした観点から、最後にスイスとスウェーデンの比較をしてみましょう。

スイスでは、スウェーデンに比べ仕事をみつけやすくても、移住者たちの職業は収入が低い職業に集中しています。低賃金(平均給料の3分の2以下)の職に就く人の割合は、スイスの全就労者の約13%ですが、移民たちだけに限ると、低賃金の仕事についている人の割合はその約1.5 倍で、4人に1人です。外国出身の生徒が進む職業訓練課程にもその傾向が強く、建設業界や車整備士、販売部門、配管工などが多くなっています。

ただしスイスでも2000年代以降、職業訓練課程を終えたあとのステップアップや進路変更がしやすいように教育制度が大きく改革されてきており、就業しながらのキャリアアップが「職業訓練は最初の職業教育段階であって、最後ではない」をキーワードに、国をあげて奨励されています。このため、移住者の就業職種や賃金の停滞傾向が、今後変化する可能性も考えられます。

シノドス画像4

一方、スウェーデンでは、仕事がみつかりにくく、移民のなかで低収入の仕事につく人の割合がスイスと同様に高いものの、一度資格をとると、外国出身でも当事国のほかの住人とほとんど変わらない地位や収入を得ています。また、移民の第二世代(スウェーデンで生まれた移民の子どもたち)の大学進学率は現在4割近くと、スウェーデン人の進学率(45%)に近い割合に達しており、一世代を経たあとのインテグレーションは、ほかのヨーロッパ諸国よりも大きな進展をとげていると考えられます。

これは、スウェーデンの社会はほかのヨーロッパ諸国と比べても外国出身の人を同等と認めるリベラスでマルチカルチャーの社会であり、仕事の世界でも外国出身や同等とみなす姿勢が強いためだと言われています (Herwig,2017,S.200, 201)。

国によって教育システムや就労環境が大きく異なるため 、受け入れ国の教育システムが移民の就労状況にどのくらい影響するかを一般化して語ることは難しいですが、西欧の18カ国を対象にしたヘルヴィックの研究では、示唆に富む二つのパターンが提示されています(Herwig,2017,S.11-12.)。

・国の教育システムと就労システムの間のつながりが強い場合

教育システムのなかで、特定の職業に必要な能力を重点的に身につけることができるため、就労は比較的容易となる。しかし、それは特殊な能力の取得であるため、職業を変えることは難しくなる。

・国の教育システムと就労システムの間のつながりが弱い場合

全生徒が共通の学習をし、職業に直接必要な実業の習得は限定される。この結果、教育課程修了後の就労は難しい。

最初のパターンがスイス、後者がスウェーデンのパターンにあてはまると思いますが、スイスの職業教育はその特有性ゆえの問題や限界もあり、少し視点をずらすと、スウェーデンの教育システムが有利となる点もある、ということになると思います。

おわりに

現在、スイスでもっとも多く読者の多い日刊誌であるフリーペーパー『20分(20 Minute)』で、以下のような記事が昨年でました。(以下、内容の抜粋です。)

アルバニア対スイスのサッカーの国際試合が開催され、スイス側が勝利に終わったあとの夜、チューリッヒの街頭では一切不穏な動きはみられず、あったのはファンたちの平和なお祭りさわぎだけだった。大勢のアルバニア人が難民としてスイスに渡ってきた2000年ごろは、社会や学校になじめず、暴力沙汰になるケースがたびたびあったり、主要な移民たちの出身国とスイスとのサッカーの試合で緊張が走ることもあった。しかしスイスには資格のない外国人にも十分な就労先があったため、スイスのアルバニア人の境遇や心境は大きく改善された。平和なお祭りさわぎの夜は、なにより、「アルバニア人のインテグレーションは成功した」(記事の見出し)ことを物語っている(Pomper, 2016)。

この記事では、暴動や事件がなにも起こらなかった夜、という一見新聞の記事に値しないようなことのなかに、スイスのインテグレーションの進展を見いだしています。現在、ヨーロッパの移住者を取り巻く状況は様々な言説に振り回され、不安定で先が見えにくい状況です。しかし、そのような時こそこの記事のように、現在うまくいっていない部分に執着したり、疑心暗鬼になるのではなく、 プラスの実績や成果の方に目を向けて、楽観的なビジョンを失わないようにすべきなのかもしれません。

あわせて読みたい

「移民」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。