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職業教育とインテグレーション――スイスとスウェーデンにおける移民の就労環境の比較 - 穂鷹知美 / 異文化間コミュニケーション

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スイスの職業教育システム

スイスには、世界的にもめずらしい職業教育のシステムがあります。日本の小・中学校に当たる9年間の義務教育を終えた後、日本の高校に相当する普通学校に進学する生徒はむしろ少数派で、3人に2人は高校に進学せず、職業教育の道に進みます。職業教育でもっとも多いのは、週の3〜4日を企業で給料をもらいながら働き、1〜2日は州立の職業学校に通うという職業訓練課程で、実技と理論を並行して学ぶという二本立ての教育であることから「デュアルシステム」とも呼ばれています。

職業訓練課程で学べる職種はサービス産業から技術専門職まで全部で250種類以上あり、3〜4年の訓練期間の最後の修了試験に合格すると、スイス全国で共通する職業資格が与えられます。課程を通じて実践的で専門性の高い仕事と知識を得られるため、その後の就職は比較的容易になります。実際に2016年の15〜24歳の失業率をみると、EU諸国が18.7%であるのに比べ、スイスでは8.6%と、2分の1以下です。スイスにおいて若者や全体の失業率が低く抑えられているは、自国のすぐれた職業教育システムによるところが大きいと(学問的にはそれが直接的な唯一の理由だと証明されているわけではありませんが )、スイス人の間では強い自負があります。

このような職業訓練課程は、ドイツ語圏で長い伝統をもつ見習い制度にルーツをもつもので、ドイツやオーストリアでもみられます。ただしドイツやオーストリアでは、一方で高学歴化志向が強まっており、他方でスイスに比べ職業訓練課程も高等教育機関との連携や柔軟性が乏しく魅了が少ないため、 職業訓練課程に進む生徒の割合は全般にスイスよりも少なくなっています(オーストリアの最西端フォアアールベルク州などの例外は一部あります)。それでも、ドイツやオーストリアで若年層の失業率がほかのEU諸国に比べてはるかに低いのは、この制度によるところが大きいという考え方がスイス同様に一般的にみられます。

シノドス画像1
Youth unemployment rate. Total, % of youth labour force, 2016. Source: Labour: Labour market statistics In: OECD Data
https://data.oecd.org/unemp/youth-unemployment-rate.htm

近年スイスでも、ドイツやオーストリア同様に、高学歴化志向は強まっているのは確かであり、それに伴い、職業訓練課程に進む生徒の割合は以前に比べ減少しています(1980年代は4人に3人であったのが近年は3人に2人)。とはいえ現在、職業教育と学業の二本立ての教育体制のバランスがなし崩し的に崩壊する兆しはまだみられません。

今もこのような職業教育のあり方が成り立っている背景には、教育界だけでなく、職業訓練生を積極的に受け入れ養成し、課程修了後は雇用先となる産業界が、全面的にこの制度を支援していることが大きいと考えられます。とくにここ10年は、職業訓練生を募集する企業が増えており、職種によりむらはありますが、募集した企業が十分に訓練生を獲得できないことが問題になるほど、生徒にとっては空前の売り手市場が続いています。

また、大学卒の人ほど、スイスの職業訓練課程を評価する人が多いという興味深い調査結果があります(ただし、実際に自分自身の子どもの進路として職業訓練を望んでいるのかは別問題ですが)。ここからもわかるように、現在のスイスの職業教育のあり方を評価する姿勢は、職業訓練を自分が受けたかいなかを問わず、広く人々に共有されているようです。そして、そのような幅広い社会の支持があるからこそ、現在も職業教育システムが存続しているのだといえるでしょう。

移民と職業訓練課程

このような独特の職業訓練課程が、難民や移民のインテグレーションにも寄与しています。修了後に社会に通用する資格を得ることが、外国からの移住者にとって就労のチャンスを広げることにつながっています。

2015年のOECDの調査をもとに、スイスの具体的な状況をほかの国と比較してみましょう。調査では、ヨーロッパで就労している移住者の割合は平均6割ですが、スイスに在住する移住者では4分の3が就労しています。また、その就業内容も、自分の能力や資格に見合う人が多いという結果になっています。OECD諸国では、自分のもつ資格が仕事よりも高いとする移民が35%いたのに対し、スイスでそのような人はほぼ半分の17%にとどまりました。15歳から34歳の若者の間ではこの傾向はさらに強く、自分のもつ資格が実際の仕事の内容よりも高いとする人の割合は 8%になっています。この割合は、OECD諸国の間でルクセンブルクにつぎ低い割合です。

スイスがほかの国に比べて移民の就労率が高いというだけでなく、とくに若者の間で、自分の資格に見合う就労先を得ている移民の割合が高いというこの調査結果は、職業教育課程で実業を身につけた若者たちが、その後それを活かして仕事の世界に進んでいく人が多くいることをあらわしていると考えられます。

ただし、移民が職業訓練をはじめようとする時、スイス人と比べ、職業訓練先である事業体をみつけるのに困難が多いのも事実です。職業訓練先がみつかるまでに書く応募書類の数は、スイス人の2倍以上で、実際に訓練先をみつけられる人の割合も、スイス人では8割程度であるのに対し、移民では5割程度にとどまるとされます。

その一方、職業訓練先がみつからず高校への進学もしなければ、移民のこどもたちは社会との接点を失い、社会から疎外化されいくことになる。職業訓練生として働けば、スイス社会や経済に主体的に関わることができ、課程修了後は正規の就労のチャンスが広がり、インテグレーションが安定的に進展するだろう。このような見方もまた、難民の若者の就労で問題を抱えるヨーロッパのほかの諸国の事情と比べながら、着実にスイス社会に広まってきており、移住者の職業訓練先をみつける支援の輪も広がってきています。

近年では、学校や職業情報センターなど既存の組織が全生徒を対象に行っているサポートのほかに、救済組織や地域のボランティア組織が中心となり、応募書類の書き方などの個人的な指導やカウンセリング、語学力など就労に必要な能力を補充する研修など、移民が職業訓練先をみつけるための幅広い細かな支援が行われるようになりました。国もまた、助成金を通じてこれらの個々のプロジェクトを支援しています。

ドイツでは、職業訓練生を受け入れる事業体が比較的少なく、スイスよりもさらに移民が職業訓練先をみつけるのが難しい状況だと言われますが、職業訓練への関心は高く、職業訓練を望む移民に適切な訓練先をみつけることが、国としても大きな課題となっています(S.47)。とくに最近は、若い移民が就労機会を得るために効果的であるというからだけでなく、少子化や専門職の人材不足などの問題を抱えるドイツ経済において新たな労働力確保するという観点からも、移民の職業教育を重視するようになってきました(Bundesministerium, S.46-49, Parusel, Integration, 2016, S.9)。【次ページにつづく】

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