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大勝「安倍新政権発足」でも「8割」ではない「改憲勢力」 - 深層レポート 日本の政治(204)

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意味のない「野党共闘」試算

 今回の野党分裂よりもさらにさかのぼって、共産党を含む野党共闘が成立していたら野党の獲得議席が増えていたという分析も新聞紙上をにぎわせている。

 10月24日付の朝日新聞や毎日新聞がこの種の報道の皮切りで、「立憲、希望、共産、社民、野党系無所属による野党共闘」(朝日)が成功していたらどうなっていたかという想定のもとで、各候補の得票数を単純に合算した場合に、野党の議席が大幅に増えるとの試算結果を掲載した。これに10月25日付で読売、日経が追随。全国紙の中で産経新聞だけがこの種の報道がないので、産経の矜持かと思っていたら、産経も30日付の紙面でやはり野党共闘の場合の獲得議席の試算を発表した。

 それぞれ増加する議席数は63だったり64だったり84だったりとさまざまだが、いずれも野党が分裂したから自民党が大勝したと言わんばかりの論調である。だが、本当にそうだろうか。

 まず、希望の党はもともと共産党との共闘を拒否して民進党を離党した人々が作った政党だということを忘れてはいけない。そう考えると、希望と共産の共闘はまず前提条件が成り立っていない。

 試算は試算だから、あり得ない前提でもかまわないという考えかもしれない。だが、それならば、自民と立憲が連立政権を組んだら自公連立よりも多数を握れるとか、自民と共産が選挙協力した場合には……など、いくらでもありもしない前提での計算ができる。自立連立や自共協力を計算しないのは現実的ではないので計算する意味がまったくないからであり、新聞が報じる野党共闘の試算もまた同じで、意味がない。

 また、野党共闘の獲得議席数を計算する際に各候補の得票数を単純に足し算しているが、共闘が成立した場合に、1+1=2になるという前提なのだろうか。しかし、少なくとも野党4党のうち、共産党と組んだ希望の党は有権者の信頼を失して票を減らすのではないか。また、立憲は分裂したからこそ得票数を上積みできたとは考えられないだろうか。

 なお、選挙前に民進党だった人という括り方で数えると、選挙前よりも民進党は議席数を伸ばしている。

 新聞各紙がどういう意図で、この野党4党共闘の場合の試算をしているのか今一つ分からないが、いずれにしても共闘は非現実的だし、百歩譲って、共闘があり得たとしても試算どおりには議席は増えないだろう。

公明党は「改憲勢力」か

 さて、衆院選を終えての報道でもう1つ気になるのは、改憲勢力に関するものである。

 全国紙は軒並み、改憲勢力が3分の2を超えたとか8割に達したと伝えている。衆院の3分の2は310議席、8割は372議席。新聞が報じているのは、自民と公明で310議席を超え、さらに改憲に異論を唱えていない希望と維新までも足すと8割に達するという計算である。

 ただ、これで憲法改正が容易になったと考えるのは早計である。新聞も報じているとおり、まず、本当に改憲勢力なのか疑わしい政党が含まれていること、次にそれぞれの主張する改憲の中身が異なるので、改憲案の中身がまとまる際に改正反対側にこぼれ落ちていく政党が出かねないという状況がある。

 まず公明党だが、本当に改憲勢力なのだろうか。

 安倍首相は憲法9条のうち、戦争放棄を定めた第1項と戦力不保持を定めた第2項はそのまま残し、別の条文で自衛隊の存在を明記しようという考え方を示している。これは、従来公明党が主張してきた「加憲」という考え方に合致している。加憲は、憲法の条文を書き換えるのではなく、新たに必要になった条文を付け加えるというものだ。

 だが、今回の衆院選の選挙公約で、公明党は次のような方針を掲げている。

「9条1項2項を維持しつつ、自衛隊の存在を憲法上明記し、一部にある自衛隊違憲の疑念を払拭したいという提案がなされています。その意図は理解できないわけではありませんが、多くの国民は現在の自衛隊の活動を支持しており、憲法違反の存在とは考えていません。今、大事なことは、わが国の平和と安全を確保するため、先の平和安全法制の適切な運用と実績を積み重ね、さらに国民の理解を得ていくことだと考えます」

 要するに、安倍首相の言うような別の条項は必要ないという意味である。また、公明党は加憲すべき項目として、かつて盛んに環境権などに言及していたこともあったが、ここ1年ほどは山口那津男代表ら公明党幹部から否定的な意見が出ている。

難関「国民投票」

 希望の党には公明党以上の問題がある。選挙を戦い終えて、希望の党内は混乱状態にある。民進党への復帰を口にする議員もいる。離党者が増えれば、8割を超えたはずの改憲勢力は減る。さらに、離党はしなくても、そもそも希望の党当選者の大半を占める民進党出身者には護憲派もいるし、一応の改憲派だが9条改正には反対とか、安倍首相主導の改憲には反対という議員らもいる。

 仮に衆参両院で3分の2の賛成議員を確保できても、その次に困難が待っている。国民投票である。改憲政党と言われる政党内部で護憲派と改憲派が対立すれば、国民は改憲に厳しい目を向けるだろう。さらに、護憲派の離党者が相次ぐという事態になればなおさらである。

 そういう不安のあることが分かっているからこそ、安倍首相は衆院選後の記者会見で、「スケジュールありきではない」「与党で3分の2はいただいたが、与党だけではなく幅広い合意形成が必要」などと、改憲については慎重な物言いに徹しているのだろう。安倍首相や改憲派は、「8割を超えた」などと浮かれていられる状況ではないのだ。

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