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アジアのコールセンター、ワーキングホリデー〜劣悪すぎる日本の「労働」から逃げ出す人々〜の巻(雨宮処凛)

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 08年、私はそんな男性に取材している。時給300円で中国に派遣されていた日本人だ。男性は74年生まれ。就職氷河期世代で仕事に恵まれず、派遣などを転々としていた彼は、ネットで「成長著しい中国で語学を身につけ成功しよう!」「働きながら語学を身につけられる」というある派遣会社の広告を見つけ、「どうせ日本にいても非正規にしか就けないのだから」と30代前半で中国行きを決める。

 仕事内容はコールセンター。日本からかかってくる電話に日本語で答えるというものだ。そうして彼は中国・大連に派遣されるのだが、ビザ代は自己負担。必要と言われた中国式の健康診断書もやはり自腹で、1万2000円かけて取得。面接のための上京代3万円も自己負担、大連に送る段ボールふたつ分の郵送料3万円も自己負担、更には大連までの飛行機代往復6万円も自己負担、海外保険料も自己負担というブラックすぎるシステム。

また、渡航前、担当者に「年に一度くらいは日本に帰りたい」と告げると「中国が楽しすぎて帰りたいと思う人なんていないよ」と言われ、病気になったらどうすれば、という質問には「病気にはならないよ」という返事を返されたという。

 そうして大連に着いた途端、「1年以内に退職した場合は罰金5万円、同業他社への転職を禁ずる」などという誓約書に強制的にサインさせられ、働き始める。同じコールセンターで働く日本人は50人ほどで、30代後半が多かったという。日本の工場で派遣で働いていた人や、営業の仕事を辞めて来た人など、様々な訳ありっぽい人がいたそうだ。

 肝心の「無料で中国語を学べる」方はどうかというと、週に一度、中国人の大学生が来るだけ。語学学習というよりは「お遊び程度」で、上達とかいうレベルではない。が、辞めることもできない。1年以内に辞めれば罰金5万円という誓約書にサインしているし、そこのコールセンターで働くことでビザが出ているので、辞めると不法滞在になるおそれもある。

が、時給300円では月収5万円程度。大連のアパートの家賃は1万8000円、光熱費が8000円ほど、食費やサウナ代(部屋に風呂がないため)もかさむ。その上、日本の口座からは国民年金保険料や税金が引き落とされていく。そのような状況に不満が募り、彼は会社と喧嘩して退職するのだが、中国語は学べず、日本の貯金が減り続けただけの「中国派遣」だったのであった。

 さて、そんな彼に取材したのが08年。詳しくは『生きのびろ! 生きづらい世界を変える8人のやり方』に収録されているのでぜひ読んでほしいのだが、最近、そんな海外コールセンターで働く日本人についての本が出版された。『だから、居場所が欲しかった バンコク、コールセンターで働く日本人』(水谷竹秀)だ。

 私が取材した大連の彼の派遣会社は、当時からインドやタイのコールセンターにも日本人を派遣させていたのだが、本書では、バンコクで働く日本人の姿が描写されている。

 コールセンターの月収は9万円程度。30代なかばから40代の日本人が多いという。オペレーターの応募条件は「日本語ネイティブ」「性別・語学力不問」「高卒の22歳以上」のみ。非正規労働の経験者が多く、著者は「コールセンターの日本人たちはバブル崩壊後の『失われた20年』という荒波に揉まれ、売り手市場に恵まれることがなかった、ある意味で日本の労働市場から取り残されたしまった層なのかもしれない」と書く。

 そんなバンコクのコールセンターで働く33歳の男性は、自身を「日本にいたらいらない子ですからね」と言う。

 「日本に帰りたいっていう希望自体、そもそもないですから。変な話、僕が日本に帰っても手遅れでしょ? 年齢的にも学歴的にも職歴的にも。日本の一般的な社会人としては手遅れかなと。日本に帰ったところで、たぶんろくな仕事もないでしょうし、せいぜい工場で働ければいい方かなみたいな」

 そんなコールセンター業務をしている自分たちを、彼ら彼女らは「最底辺」と言う。

 「そもそも日本でできることがなかった人がタイへ渡り、タイでできる仕事がないからコールセンターで働くと。行くも地獄、帰るも地獄ですね」

 そう評する者もいる。

 もちろん、コールセンターからバンコクでの職歴を積み、起業して成功する人もほんの一握りだが存在する。が、多くが日本から「逃げて」バンコクに辿り着いたという印象だ。しかし、彼らの言い分も非常に理解できる。

 日本には未来がない。管理された日本社会が息苦しい。コールセンターの仕事は時間ぴったりで終わるからいい。ノルマも残業もない。やりがいはないけれど、責任感もそれほど求められない。給料は安いけれど、残りの時間を自由に使える。数日休みをとって隣国に旅行することもできる。日本で生活する方が経済的にも仕事的にも忍耐力が要求され、神経をすり減らして生きていかなければならない一一。

 確かに、日本で月収十数万円程度で死ぬほどの忍耐と長時間労働を要求され、自分の時間などまったくない生活をしている人は多くいる。そして現在コールセンターにいる層の多くは、日本のもっとも劣悪な職場で働いてきた人たちと重なる。

 日本の学生の海外留学が減ったことなどから、「日本の若者は内向きになった」などとダメ出しされることが多い昨今である。しかし、ずーっと「就職難」と言われていた中、「とにかく新卒で就職しなければ」というプレッシャーがあったのだから当然だろう。一方で、日本のトップクラスの学生の海外留学は増えているという(朝日新聞10月29日)。日本のエリートたちは、このまま日本に見切りをつけていくのかもしれない。

 そんな現実がありながら、「日本に希望が持てない」、そして「日本社会がまともな扱いをしてくれない」という理由から、バンコクなどのアジアに向かい、コールセンターで働く若くはない層が増えているという現実。私たちが何気なくかける「お客様窓口」なんかの電話を受けているのは、海外コールセンターの人たちかもしれない。そしてそんな彼らは日本社会にひどく傷つけられ、日本をとても憎んでいる気がする。

 08年、大連の彼の取材をしている時、彼がいた派遣会社の説明会に潜入したことがある。派遣先はやはりインドや中国で、時給は300円。条件は「母国語が日本語であること」のみ。その言葉に、なんだか今までの自分の人生を、これまでの様々な努力を全否定されたような気持ちになったことを覚えている。

 働く人々を人間扱いせず、使い捨ててきたひとつの結果が、これである。

 外国人を実習生や研修生として劣悪な環境で働かせ、日本人も使い潰し、この国で生きる大多数が生きづらい日本社会。

 そんな国にある未来って、どんなものなんだろう?

 改めて、そんな問いを突きつけられている。

画像を見る韓国からロリータ・パンチのキムさん来日

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