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「毎日、残してきた自宅の夢を見る」ドイツで暮らすシリア人難民ジャーナリストの思い

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ドイツには200~300人の亡命シリア人ジャーナリスト

ドイツにはシリアからやってきたジャーナリストが200~300人ぐらいはいる、とアラウス氏は見当をつけている。「ジャーナリズムの仕事を見つけるのは非常に難しい。特に英語も話せない場合、仕事は見つからない」。

アラウス氏によると、大部分のシリア人ジャーナリストは何もせず、家にいるという。「もうジャーナリストとしての道は閉ざされた状態だ」  「知人の、ある地方テレビ局の敏腕編集者は、ドイツに来てからは仕事がないので、シェフのアシスタントになる。全く違う仕事だが、他に選択肢がない」。

「生涯、ずっとジャーナリストになりたくて、良いジャーナリストとして何年も仕事をしたのに、今は選択肢がない。仕事がないジャーナリストは何の価値もない」。

アラウス氏自身が、この先どうなるか分からないという。「別の仕事を見つけて、パートタイムでコラムを書くようになるかもしれない」。

ドイツの大手メディアはシリア人ジャーナリストに研修を行っているが、アラウス氏によれば「シリア人ジャーナリストを本気では中に入れようとはしていない」という。「研修のためのお金はくれても、プロとしての尊厳を与えてはくれない」。そう言い切って、アラウス氏はしばし沈黙した。

ドイツメディアが亡命中のシリア人ジャーナリストにできることは何か、と聞いてみた。

アリウス氏は「私たちをもっと使ってもいいのではないか」という。「エジプトやシリアなど中東で起きていることを私たちはよく知っている。ドイツにいるシリア人のジャーナリストのデータベースを作って、どんな人がいて、どんな知識を持っているのかの情報を共有して欲しい。私たちを知識集団として使ってほしい」。

妻は図書館でボランティアとして働く

悩むアラウス氏だが、現在10歳と7歳になった娘2人は大いにドイツでの生活を楽しんでいるようだ。毎日、元気に学校に行き、ドイツ語を上達させ、友達もたくさんいる。

妻はもともと図書館の司書として経験を積んできたが、今はパートタイムのボランティアとしてドイツの図書館で働いている。契約は年内に終了する予定で、「これからどうなるか、分からない」という。

将来はシリアに戻る予定だ。「戻るタイミングを待っている」。アラウス氏にとって、自分の国はあくまでもシリア。シリアの状況が落ち着き次第、飛んで帰る予定だ。「家族や親戚がいる。私の人生が、仕事が、友人がシリアにいる」。

しかし、シリアの現状は悲惨だ。筆者でさえもテレビでシリアのニュースを追うのがつらい。

アラウス氏は「楽観的にはなれない」という。「国際社会がシリア問題を解決しようとしていない。何もしていないも同然だ。ロシアが好き勝手にやることをそのままさせているだけ。ロシアは独裁国家で、それ自体に問題を抱えているのに」。

「シリアの状況は悪化するばかりだ。アサド政権は以前よりもさらに攻撃的になっている。勝利が近いと見て、通りにいる人々を捕まえて、拷問したり、殺したりしている。最悪の状態だ」

アラウス氏は何とか良い方向に向かってくれればと願ってはいるが、「楽観的になれない」と繰り返した。

「最も恋しいのは自宅。毎晩、夢を見る」

ベルリンでの取材後のアラウス氏(筆者撮影)

「シリアで何が一番恋しいと思うか」と聞いてみた。「家族や友人を除くと、何を最も思い出すか」。

アラウス氏は深いため息をついた後、「自宅だ。自分で設計した家だ」という。「あんな家があればと長い間、夢見てきた。できてからほんの2-3か月で出なければならなくなった。小さな楽園のようだった」。

「最も恋しいのはあの家だ。毎晩、夢を見る」。

家が郊外にあるため、家族や親せきが自宅まで出かけて、今どうなっているのかを確認するのは難しいという。「まだ残っていればいいが。家が恋しい。友人が恋しい。家族が恋しい」。

両親は健在なのだろうか?「父が2006年に亡くなった。母は3か月前だ。とてもつらい。3か月前に私は母を失ったんだ」。 病気だったわけではないという。「年老いてはいたが、健康だった」。

アラウス氏は、母の死は「今までの報いが来た」と感じていた。「母が自分を必要としていた時に、そばにいてあげられなかった」。

母とはメッセージアプリのワッツアップを使ったり、電話で1日おきに連絡を取ったりしていたという。「母があんなに急に亡くなるとは思ってなかったから、とてもつらい」

「今は大丈夫だけれど、なるべく母のことは考えないようにしている。母がいない人生は考えられないから」。母が亡くなってからシリアに対する感情が変わったという。「母がいないシリアは想像できない」――。アラウス氏は視線を下に向けたままとなった。

何とか話題を替えようと、ペットについて聞いてみた。「シリアでは犬や猫など、動物は飼っていたのですか」。

ペットはいなかった、と言うアラウス氏。

何か面白いことを思いついたのか、「ハハハ」と笑い出した。「そういえばこの間、ドイツの犬について面白い記事を書いた」。ドイツ人は犬をどこにでも連れてゆく、という。「職場にもお構いなしで連れてゆく。犬に特別のコートを作らせたりするんだから」――。私もなんだか一緒になって笑っていた。

インタビューを終えて、通りで写真を撮る。小さなリュックを背負ったアラウス氏は、カメラに向かってにっこりとほほ笑んだ。「また会いましょう」と言って、地下鉄の駅に向かっていった。

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参考サイト

ドイツがなぜ多くの難民を受け入れたのかについては、以下の筆者記事をご参考にされたい。
ドイツを悩ます難民積極受け入れのジレンマ
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