- 2017年10月28日 11:15
5歳児の脳を損傷させた「DV夫婦」の末路
2/2■トラウマを抱えた子どもをどう守るか
わたしが医師として勤める「子どものこころ診療部」は18歳までの子どものこころと身体の発達に関する診断と治療を行っている。このような診療所が国内には少ないため、全国から人が訪れ、いつも予約でいっぱいだ。海外からの受診者もいる。
画像を見る夫のDVで悩んでいたサヤカさんもマミちゃん(現在5歳)といっしょに通院している。マミちゃんにはおもちゃを使った心理治療を継続的に続け、母親にもEMDRと呼ぶ眼球運動によるトラウマ治療をほどこしていった。その結果、マミちゃんの症状は少しずつ改善し、現在では夜中に怖がって泣き出したりすることはなくなり、感情の起伏も落ち着きを見せている。サヤカさんもマミちゃんに穏やかに接することができるようになったという。
現在、サヤカさんは夫と別居し、離婚調停中だ。夫婦が別れて暮らせば結果としてDV問題は解消するが、それでマミちゃんの発達を阻害する不安要素がすべて取り除かれるわけではない。
仮にDVを行っていた父親と離れて暮らしていても、目撃の記憶が原因となってフラッシュバックが起きるため、マミちゃんにはいまは安全だということを根気よく理解させ、安心して生活できるように手厚くケアをしていくことが必要になる。
■加害親との同居や面会は避けたほうがいい
このような夫婦間のDVの問題では、親が単身になればDVもなくなるのだから、加害側の親と子どもを同居させたり、面会させたりしてもよいのでは? と考える人もいるが、それは早計だ。配偶者に対してDVを行う人は、子どもへのマルトリートメントを行う傾向も強いため、暴力の対象が、配偶者から子どもへと移る可能性が高いからだ。
たとえ子どもへのマルトリートメントがなくとも、加害親との生活や面会自体、子どもにとっては新たなストレスとなる可能性がある。先に述べたようなフラッシュバックも起こりやすくなり、その結果、子どもに再び身体的・心理的な不安が生じ、脳の発達をも阻害することにつながる点を見逃してはいけない。
また、加害側の親と対面することで、被害を受けていた親のほうが精神的に不安定になり、それが子どもに影響を与えてしまうというリスクも考えられる。
■必要とされる親へのサポート
幼いころに受け続けたマルトリートメントは、脳の成長が著しい時期であるがゆえ、ことさら深刻なダメージを脳に与え、その後、長期にわたって被害者の生活を脅かしていく。幸いにして現在のところ重篤な症状には陥っているようには見えないサヤカちゃんの場合も、時間をかけた長期的な治療と支援が必要なケースだといえる。
また、親に対するケアという観点では、現在、こうしたマルトリートメント家庭の情報を、社会福祉関連の機関や市区町村の相談センターなどとも広く共有し、養育者支援へとつなげていくことが非常に重要になってきている。
必ずそうだというわけではないが、親もまた幼少時代、不適切な養育環境を必死に生きぬいてきた被害者である可能性もあるからだ。マルトリートメントの連鎖をなんとかして断ち切る必要がある。
周囲の支援者は、こうした親たちに対して、「子どもだった過去」から「親になった現在」に至るまでの経緯――つまり、被害者から加害者へと変わらざるを得なかった道筋――や、現在のこころのありようについて、深く理解していく必要がある。
親の状況も改善し、必要であれば治療を行うといった養育者支援が、結果として、子どもの健やかな成長・発達につながっていくはずだ。
■子どもを守るのは、大人の仕事である
わたしは著書『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版新書)のなかで、これまで長年行ってきた脳科学から子どもの発達を見つめるという研究内容を、医学書としてではなく、一般の人たちに知ってもらうために上梓した。
画像を見る友田明美『子どもの脳を傷つける親たち』(NHK出版新書)
子どもの脳が損傷すると聞いて驚かない人はいないと思うが、そう慌てることはない。成長過程にある子どもの脳はレジリエンス(回復力)をもっているからだ。本書のなかでは、脳科学から明らかになった最新の知見に加え、その傷つきから子どもを守る方途と、健全なこころの発達に不可欠な愛着形成の重要性について著した。
マルトリートメントは、決して「特殊な人たちが」「特殊な環境で」行っている「非日常的な出来事」ではない。日常のなかにも存在し、習慣化されていることも多い。このことを子どもに接するすべての人に知ってほしい。
子どもが不必要な傷つきで、その人生を台無しにすることがないように、彼らを守るのはわたしたち大人の仕事である。
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友田 明美(ともだ・あけみ)小児精神科医
1987年、熊本大学医学部医学研究科修了。医学博士。同大学大学院小児発達学分野准教授を経て、 2011年6月より福井大学子どものこころの発達研究センター教授。同大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長兼任。2009~2011年、および2017年4月より日米科学技術協力事業「脳研究」分野グループ共同研究 日本側代表者を務める。著書に『新版 いやされない傷 児童虐待と傷ついていく脳』(診断と治療社)などがある。
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(小児精神科医 友田 明美)
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