記事

カタルーニャ「独立宣言」がもたらすスペイン社会の分断 - 八嶋由香利 / スペイン近現代史

2/3

二つのナショナリズムの対立激化

カタルーニャの独立派が一貫して求めてきたのは、現行のスペイン憲法下で、カタルーニャを「ナシオン(民族)」として認めてもらうことである。現在、憲法第2条では、バスクやカタルーニャなどを指すのに「ナシオン」ではなく、曖昧な「ナシオナリダー(民族体)」という言葉が使われている。

カタルーニャでは21世紀に入ってから、カタルーニャ共和主義左翼(独立派)の勢力が伸長し、それに伴って従来の自治憲章に代わる新しい憲章の制定が目指された。国会で可決された改正自治憲章案は、住民投票を経て2006年に正式に成立した。法的拘束力のない前文で、カタルーニャが「ナシオン」と明記された。

しかし、スペインこそ唯一の「ナシオン」であるとみなす国民党は、これを不服として憲法裁判所に提訴する。2010年に自治憲章の一部に違憲判決が出されたことで、カタルーニャでは失望と怒りが広がった。多くの人がこれを「屈辱」と感じ、78年憲法による共存の枠組みが壊されたと受け止めた。「自治」から「独立」へ向かうことになったのである。もし、ここで国民党が提訴を踏みとどまっていたら、今日の状況はもっと異なっていたかもしれない。

違憲判決が出されのと同じ2010年、新たに州首相の座についたアルトゥール・マスは、当初中央政府との間で「財政自主権」に関する協定を締結しようとした(注4)。つまりバスクやナバーラで実施されているように、州による徴税権を求めたのである。しかし、ラホイ政権はこれを一蹴した(注5)。

カタルーニャでは市民の間に独立を目指す気運が高まっていく。2011年には「カタルーニャ民族会議」が組織され、ディアダ(カタルーニャのナショナルデー)で大規模な動員をかけ、独立への気運を盛り上げた(注6)。また、フランコ独裁期の1961年に設立された「オムニウム」は、カタルーニャ語やカタルーニャ文化を普及させる文化団体として発足したが、最近は独立のための様々なキャンペーンを展開している。世論調査で独立支持派は、2006年の14%から2013年には3倍以上の47%へと急増した。

このような政治・社会的雰囲気の中、マス州首相は「民族自決権(autodeterminación)」を唱え、カタルーニャの将来を自分たちで決定する住民投票の実施を呼びかけたのである。それ以降、警戒感を強める中央政府とカタルーニャ州政府は互いの主張を繰り返すばかりで、ほとんど実質的な交渉ができないまま今日に至っている。

格差拡大と緊縮政策への不満

独立問題をエスカレートさせたもう一つの要因が、2008年のリーマン・ショック後の経済危機と、それに続く緊縮政策である。銀行危機・ソブリン危機によって、それまでバブル景気を謳歌してきたスペイン経済は一気に奈落の底に突き落とされた。地中海に面し、産業が集積し、観光も盛んなカタルーニャは、経済危機の影響を強く受けた州の一つである。企業の倒産や失業者が増大し、危機の開始から2013年までに民間で567,000人分の雇用が失われた。ローン返済に行き詰まり、家を失った人も多かった。バルセロナの現市長アダ・コラウは、ローン返済に苦しむ市民を救済する市民運動の出身である。 

カタルーニャは豊かな州だと思われているが、それは一面的な見方である。確かにGDPは国全体の約19%を占め(人口比は16%)、一人当たりのGDPもマドリード、バスク、ナバーラについで四番目に高い(全国平均を越えているのは17自治州のうち7つ)(注7)。しかし、住民間の経済格差は拡大しているのだ。

カタルーニャの貧困率は、労組CC.OO.の調査機関によると、ヨーロッパ平均を上回っている。カタルーニャ人の1/4が貧困あるいは社会的排除の危機にあるとされる。バルセロナ市とその周辺地域では、中間所得層の割合が58.5%(2007)から44.3%(2013)と14.2ポイントも減少し、逆に低所得層は21.7%から41.8%へと増加した(注7)。職業別にみても、中間層を構成する小企業主、自営業者、公務員、専門的事業者の割合は40%(1985)から20%(2011)へ激減した。一見すると豊かな社会も空洞化しているのだ。こうした格差拡大は、1990年代に国民党政権と州政府(CiU)のもとで進められた税制改革に一因があるとされている。 

さらにこれに追い打ちをかけたのが、緊縮政策である。中央政府はEUやBCE(欧州中央銀行)から課された財政赤字削減のノルマを達成するために、各州政府に公共事業費のみならず医療や教育など、市民生活と直結する分野での予算削減を押しつけている。自治州の財政赤字について、一人当たり債務額が最も大きいのがカタルーニャ州(10,311ユーロ)で、国からの借り入れ額が最も大きいのもカタルーニャ州(約525億ユーロ)である(注9)。困窮した市民の不満は、州政府よりもむしろ中央政府に向けられた。

あわせて読みたい

「カタルーニャ独立運動」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    混雑する観光地、お休み中の飲食店…「国民の祝日」が多すぎることのデメリットを痛感

    内藤忍

    09月21日 11:56

  2. 2

    引きずり下ろされた菅首相の逆襲が始まる「河野内閣」で官房長官で復活説も

    NEWSポストセブン

    09月21日 08:42

  3. 3

    全国フェミニスト議員連盟の釈明は、明らかに虚偽を含み極めて不誠実である

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

    09月20日 16:58

  4. 4

    順当トップ交代人事では払拭できぬ三菱電機の"悪玉"企業風土とは

    大関暁夫

    09月21日 12:37

  5. 5

    「政高党低は悪?」 報ステは自民党批判ありきではないか?

    和田政宗

    09月21日 22:55

  6. 6

    三菱UFJが傘下の米銀80億ドルで売却、USバンコープと提携模索

    ロイター

    09月21日 20:06

  7. 7

    連休明けに大幅下げの株式市場 実体経済からかけ離れた金融バブルは破裂すべき

    澤上篤人

    09月21日 15:32

  8. 8

    “超節約”で『FIRE』実現も…越えた先に思わぬ壁 達成者が伝えたい注意点

    ABEMA TIMES

    09月21日 13:26

  9. 9

    「感染ゼロではなく、重症化ゼロを目指す。医療と経済は両立できる」現場医師の提案

    中村ゆきつぐ

    09月21日 08:28

  10. 10

    コロナ禍で育つ生徒たち 後世での「コロナ世代」呼ばわりを懸念

    船田元

    09月21日 10:45

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。