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産経抄は「人でなし」か

10月19日の産経抄。
日本を貶める日本人をあぶりだせ 10月19日

 日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない。地中海の島国マルタで、地元の女性記者が殺害された。車に爆弾を仕掛けるという残虐な犯行である。彼女は「タックスヘイブン」(租税回避地)をめぐる「パナマ文書」の報道に携わり、政治家の不正資金疑惑を追及していた。マルタとはどれほど恐ろしい国か。

 ▼今年4月に発表された「報道の自由度ランキング」では47位、なんと72位の日本よりはるかに上位だった。ランキングを作ったのは、パリに本部を置く国際ジャーナリスト組織である。日本に対する強い偏見がうかがえる。一部の日本人による日本の評判を落とすための活動が、さらにそれを助長する。

 ▼米紙ニューヨーク・タイムズに先日、「日本でリベラリズムは死んだ」と題する記事が載っていた。日本の大学教授の寄稿である。安倍晋三首相の衆院解散から現在の選挙状況までを解説していた。といっても、随所に左派文化人らしい偏った主張がみられる。

 ▼憲法をないがしろにして軍事力の強化を図る首相の姿勢は、有権者の支持を得ていない。最大野党の分裂のおかげで自民党が勝利するものの、政治はますます民意から離れていく、というのだ。米国人の読者が抱く日本のイメージは、民主主義が後退する国であろう。

 ▼特定の政治的主張だけを取り上げる、国連教育科学文化機関(ユネスコ)には、困ったものだ。いよいよ問題だらけの慰安婦関連資料の登録の可能性が強まっている。田北真樹子記者は昨日、登録されたら脱退して組織の抜本改革を突きつけろ、と書いていた。

 ▼そもそも国連を舞台に、実態からかけ離れた慰安婦像を世界にばらまいたのは、日本人活動家だった。何ということをしてくれたのか。
 このコラムを猛然と批判するツイートをいくつも見た。

 朝日新聞長岡支局の伊丹和弘記者は、
《同業者が殺された事件のコラムの書き出しが「日本の新聞記者でよかった」かよ(唖然
忘れたか? 日本では既に30年前に職場で新聞記者が殺されるテロ事件が起きてるんだよ!
→ 【産経抄】日本を貶める日本人をあぶりだせ》
と自社の記者が殺された赤報隊事件を例に挙げて批判。

 ある方は、
《報道の自由ランキングは新聞記者が権力と仲良く安全に暮らしてる順位ではないのだが、反骨の海外女性記者が殺害された話を「日本の新聞記者でよかった、と思わずにはいられない」から書き始めて『日本を貶める日本人をあぶりだせ』という表題に仕上げる産経新聞すげえな…》
《「日本では記者が殺されていないのに、なぜ報道の自由ランキングが低いのでしょうか?」という疑問に自分で答えちゃってるよねこの記事。同じジャーナリストが殺されたニュースを「我が国の記者でよかった!」から書き始める報道なんか見たことねえよ。どんな日本スゴイだよ。》
と述べた。

 また別の方は、次のように。
《産経新聞をはじめとする右派メディアに顕著な傾向だが、自分達が弾圧される側に立つ事はないどころか弾圧する側に回るという謎認識は、如何にして生まれるのか》
 ジャーナリストの江川紹子氏は、
《人でなし、とはこんなものを書く人のことを言うのだろう 。人の無残な死を、同業の者としてまずは悼むということが、せめてできないのだろうか…。→【産経抄】日本を貶める日本人をあぶりだせ 10月19日》
《それに、日本で悲惨な事件や事故、災害があって、人々が強い衝撃を受けている時に、他国の新聞が「あぁ、日本人じゃなくてよかった。日本はひどい国だ」と書いたら、どんな気持ちか、産経抄にはそれくらいの想像力すらないのか。サイテー。》
と述べていて、私はそこまで言うのかと思った。

 ちょっと落ち着かれてはどうだろう。

 この産経抄に不快感をもつ人が出るのはわかる。
 また、コラムとしての出来は率直に言って悪いと思う。天声人語などとは比較にならない。
 だが、産経抄の文章はいつもだいたいこんなレベルである。

 マルタの女性記者が殺害されたこと、「日本の新聞記者でよかった」と思ったことがこのコラムの本題ではない。本題は、そのようなマルタの「報道の自由度ランキング」がわが国よりはるかに上位であったこと、それはわが国に対する強い偏見によるものであり、「日本を貶める日本人」がそれをさらに助長しているという指摘が、このコラムの本題だ。
 女性記者殺害は、話のマクラにすぎない。

 女性記者の殺害を、どうやったら「日本を貶める日本人」批判につなげようという発想が出てくるのか、産経抄子の思考回路はどうなっているのかとは思うが、きっと年がら年中、「日本を貶める日本人」をどうやって叩くか、そういったことばかりを考えているような人なのだろう。

 まあ、国民の中には、世の中の悪いことは全て安倍政権のせいだとばかりに政権批判に血道を上げている人もツイッターではよく見かけるので、こんな人がいても不思議ではない。

 また、「あぶりだせ」とは刺激的にしようと編集者が付けたタイトルだろう。本文のどこにもそんなことは書かれていない。

 ある批判者の「自分達が弾圧される側に立つ事はないどころか弾圧する側に回るという謎認識」というのは意味不明である。産経抄は別に女性記者の殺害を賞賛しているわけでもないし、自分たちが弾圧する側であると受け取れるような箇所もないからだ。むしろ産経は、例えば共産党政権が成立すれば、自分たちが弾圧されることをよく理解していることだろう。
 謎なのはこのツイ主の認識である。

 ところで、こういう殺害事件に接して、伊丹記者や江川氏は、日本の記者やジャーナリストでよかったとは思わないのだろうか。
 ロシアや中国をはじめ、ジャーナリストが殺害されたり拘束されたりする国は世界にたくさんある。わが国がそうでないのは幸いだし、この状態を守らなければならないとは思わないのだろうか。
 それとも、思ったとしても、このように口にするのは不謹慎であるということか。

「他国の新聞が「あぁ、日本人じゃなくてよかった。日本はひどい国だ」と書いたら、どんな気持ちか」
って、どんな気持ちになるというのだろう。別に何とも思わないんじゃないだろうか。
 顔も知らない他国の人間がわが国のことをどう言っているかが、そんなに気になるものだろうか。
 何を言っていようが、お互い様ではないだろうか。
 それに、産経抄は、まさにそのように「日本はひどい国だ」と言われることを恐れて、そのための材料を提供している一部日本人を非難しているのではないのだろうか。

 NGO「国境なき記者団」が発表している「報道の自由度ランキング」については、実態と乖離しているのではないかとの批判もある。
 その算出方法を BuzzFeed News が報じているのを、最近ある方のツイートで知った。
 180カ国のメディア専門家、弁護士、社会学者に87の質問のアンケートが配られており、その結果を基に独自の数式により算出するそうだが、詳細は公表されていない。
 以前、江川氏自身も、72位という数字には疑問を呈していたはずである。

 「人でなし」とは、人間の姿かたちをした者に対して、お前を人間とは認めないと言うときに用いる言葉である。
 人の皮をかぶった、鬼か獣というわけである。
 マルタの爆殺犯をそう呼ぶなら、まだわからないでもない。しかし、産経抄の内容はそれに値するほどひどいものだろうか。
 江川氏は、まずはその死を悼めと述べているが、短文のコラムなんだから、主要でない部分を省略することは有り得る。先に述べたように、マルタの話はマクラにすぎない。
 産経抄は、殺害された女性記者を何かしら貶めているだろうか。政治家の不正を追及するなんて、バカなことで命を落としたものだと述べているだろうか。そんな箇所もない。
 にもかかわらず、その死に対して哀悼の意を明記せず、持論に利用したというだけのことで、「人でなし」とまで罵ってしまう。
 江川氏の人権感覚はそんなものかと残念に思った。

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