
共同通信社
「小池一色」で始まった衆院選
「衆議院の解散は首相の専権事項」とも言われるが、今回の解散も、安倍首相の意向で行われた。唐突とも思える衆院解散に対して、野党やマスコミからは批判の声もあがった。たとえば、解散翌日の9月29日、朝日新聞の社説はこう書いている。
「そもそも臨時国会は、野党の憲法53条に基づく召集要求を、3カ月余も放置した末にようやく開いたものだ。なのに議論を一切しないまま解散する。憲法を踏みにじり、主権者である国民に背を向ける行為だ」安倍首相の解散については、野党はもちろん、新聞やテレビも「おかしいのではないか」と指摘していた。
「首相の狙いは明白である。森友学園・加計学園の問題をめぐる野党の追及の場を消し去り、選挙準備が整っていない野党の隙を突く。今なら勝てる。勝てば官軍の『権力ゲーム』が先に立つ『自己都合解散』である。民意を政治に直接反映させる民主主義の重要な場である選挙を、権力維持の道具としか見ない『私物化解散』でもある」
http://digital.asahi.com/articles/DA3S13156471.html
そんなころ、東京都知事の小池百合子さんが新党「希望の党」の代表につくと宣言した。解散の直前という絶妙のタイミングだった。その結果、新聞、テレビ、ネットは「小池一色」になった。
この動きに、自民党は非常に大きな危機感を持った。僕は、自民党の幹部から「安倍は辞めざるをえない。ポスト安倍をどうするか」という話を聞いた。具体的には、野田聖子(総務大臣)や岸田文雄(党政調会長)といった名前があがっていた。そのくらい、危機感が強かったということだ。
さらに、希望の党が結成された翌日の9月26日の晩、小池代表と民進党の前原代表が会談した。そのとき、民進党の全議員が希望の党に合流することになったと、前原代表は理解したようだ。
風向きを変えた「排除」発言

BLOGOS編集部
この小池発言は「排除の論理」として、マスコミで大きく報じられた。そして、それまで小池代表に吹いていた追い風が、一転して逆風に変わった。
一方で、小池代表に「受け入れられない」と言われた民進党の枝野氏らが立憲民主党を立ち上げた。本来ならば、安倍政治の総括のはずだった衆院選が、希望の党と立憲民主党という「野党間の対決」の場になった。安倍政権の問題はすっかりどこかに行ってしまったのだ。
森友学園・加計学園をめぐる疑惑や共謀罪をきちんと審議しないで成立させた問題などがあったのに、その是非については選挙の争点にならなかった。一時は30%以下まで内閣支持率が落ちて「危険水域」とまで言われた安倍政権だったが、小池さんの失言で救われた。
もう一つ、自民党の勝因として見逃せないのが、北朝鮮とアメリカの緊張関係が高まっていることだ。安全保障関係の緊張状態も、安倍政権にはプラスに働いた。
安倍首相にしてみれば風向きを変えてくれた「小池サマサマ」といったところではないか。
若い世代ほど高い「安倍支持」
これらの政党の動きに対する世論の反応として興味深かったのは、世代によって政党支持率が異なっていることだ。朝日新聞が選挙期間中に実施した世論調査によれば、「安倍晋三首相に今後も首相を続けてほしいか」という問いに対して、60代は6割が「そうは思わない」と答え、続投を望まない声のほうが多かった。一方で、18~29歳は「続けてほしい」が49%と多かった。
(2017年10月18日 朝日新聞デジタル:http://digital.asahi.com/articles/ASKBL3V1XKBLUZPS001.html)
安倍首相は高齢世代に人気がないが、若い世代には支持されているという結果だ。これをどう考えればいいのか。
一つは、失業率が少なく、株価も上がっていて、経済的な不満が強くないため、若い世代は「現状のままでいい」と考えている可能性がある。一方、高齢者、特に僕のような戦争を知っている世代は、安倍首相の安全保障政策に不安を感じて、不支持に回っているのではないか。
もう一つは、野党がだらしないというのがある。野党はみな「アベノミクス反対。アベノミクスは成功していない」と主張するが、ではどうすればいいのかという対案を示せていない。
僕は過去2回の総選挙で野党党首に、
「あなたの党がもし政権を取ったら、アベノミクスの対案としてどういう政策を取るか」と聞いたが、説得力のある対案は出てこなかった。今回の選挙もそこは同様だった。
このような状況が、若者を安倍支持に向かわせているのではないかと思う。
今回の選挙の結果を受けて、安倍首相はいよいよ憲法改正に着手するだろう。だが、改憲が実現するかは、まだ不透明だ。
一つは、高齢世代の改憲への反発が根強いので、国民投票で受け入れられない可能性がある。もう一つは、与党の公明党が改憲に消極的というのがある。母体の創価学会が護憲の立場だからだ。
そうなると、安倍首相は、いまは野党の希望の党と組むかもしれない。ただ、希望の党は衆院選で敗北して混乱状態に陥っており、分裂する可能性もおおいにある。波乱含みだ。
結局、与党で衆議院の3分の2以上を獲得したといっても、憲法改正はそう簡単に進められないのではないか。