- 2017年10月24日 09:15
シェア自転車の"上陸"を阻む日本特有の壁
2/2■札幌での「微妙」な普及状況
こうした「難航」の結果、モバイクが今年8月に日本初のサービスを始めたのは札幌となった。ビジネスコンベンションの「No Maps 2017」が仲立ちとなり、行政や地元企業に働きかけを進めたことで開始が実現したのだ。ローンチイベントは全国メディアで報じられ、東京からわざわざライド体験に来る人も出るほどの盛況だったという。市の担当者は言う。
「札幌市は先進的取り組みをおこなう企業の誘致を進めており、モバイクとの話が進みました。サービス開始後も、特に市民からの苦情はなく、問題が起きたという話も聞いていません」(札幌市経済観光局ITクリエイティブ産業担当課)
とはいえ、現時点でのサービス展開地域は札幌駅から北西に1キロほど離れたJR桑園駅-琴似駅の周辺で、札幌駅前やテレビ塔など市内中心部はエリア外になっている。ポートは地場のコンビニであるセイコーマートやドラッグストアのサツドラの駐輪場を用いる形となっている。
画像を見るこれでも、借りた店舗に車両を返さなければいけない従来のレンタサイクルよりも利便性は高いだろう。だが、エリア的に観光需要は望めず、かといって地域住民にとっても、出発地と目的地の付近にポート設置店舗がなければ、シェアサイクルの本来の利点である「最後の1キロ」の移動ニーズを満たせない。事実、ある札幌市民はこう話す。
「地域も車両数も現時点では限られていますから、正直なところ、札幌市民の間でモバイクの認知度はまだまだ。進出後のトラブルはほとんど起きていませんが、一方で積極的に使っている人も、あまりいないみたいなんです」
なんとも寂しい状況だ。筆者が取材したところでは、なんとモバイクとの折衝にたずさわった市の職員自身も、アプリはインストールしたもののまだ現物に乗っていないという。エリアが市内の中心部から外れていることもあって、市民の関心はまだまだ低い。
モバイク側は「駐車スペースのエリアは拡大しており、その利便性は常に向上しております」「札幌でご利用いただいている方々からは非常に好意的なコメントをいただいております」と述べる。なんとか、もう少し利用状況が活発になってほしいところだが……。
■「日本は何事も極めてルール通り」
日本市場におけるモバイクとofoのもたつきは、9月末ごろから中国側のメディアでも指摘されるようになった。例えば在日中国人ジャーナリストの徐静波氏は、中国のビジネスニュースサイト『億欧』に「なぜ、中国のシェアサイクルは日本での成功が難しいのか」と題した寄稿をおこなっている。その一部を、要点をかいつまんで紹介しよう。
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仮に中国であれば、投資会社の経営者が何人かで集まって酒でも飲んでなにかアイデアを思いつけば、あっという間に実現に移る(いっぽうで当初の段階では、法規への合致や行政から承認を受けることについてそこまで深く考えないのだが)。 しかし日本は何事も極めてルール通りにやる保守的な国家であり、新しいことをやる前にはまずは法的に問題ないかを確かめ、さらに行政や警察に相談する。日本において「まずはやってみる」というタイプのイノベーションは、単なるメチャクチャなルール違反であるとみなされる。 モバイクもofoもすでに日本の法規の壁にぶつかっている。なにより難しいのは、日本における放置自転車問題への厳しさだった。中国と同じようにそこらじゅうに駐輪させてしまえば、1日の撤去の罰金だけでもとんでもないことになるだろう。 モバイクやofoは当初、セブン-イレブンやファミリーマート、ローソンなどのコンビニと提携したシェアサイクルのポート設置を考えていた。だが、ポートを貸してくれるほど広い駐輪スペースを持つのは田舎の店舗が多いのであり、車社会でシェアサイクルの需要は低い。対して大都市圏の店舗では駐輪スペースが少ないうえに借り賃が高額になるのだ。採算は合わない。----------
また、徐は、(1)日本では自転車を自分で所有する人が多くシェアサイクルの需要が中国ほど高くないこと、(2)事故の可能性が上がる自転車通勤を忌避する職場もあること、(3)保守的で中国への警戒心も強い日本社会で中国企業が地方行政の積極的な協力を得るのは難しいことなどを指摘しており、モバイクやofoは日本での成功が望めないとも述べる。おおむね的を射た指摘だろう。
■「チャイナイノベーション」の成功は中国ならでは
ここ数年、中国のIT企業は大いに力を付けている。シェアサイクル以外でも、アリババがスマホ決済システムの日本人向けサービス開始を発表、さらに良質な格安携帯やウェアラブル端末で知られるシャオミが日本進出を発表……と、日本をはじめ各国で中国式サービスを展開している。
だが、すでに見てきたように、シェアサイクルは放置自転車規制がユルく、大量の人員を確保して自転車を回収できる中国のような国だからこそ「便利」なサービスとして発展した側面が大きい。
また近年の中国で普及したスマホ決済システムも、店舗でモノを買うだけなら、日本や香港・台湾で普及する非接触型ICカード(Suicaなど)のほうがずっと便利だ。アプリの立ち上げ、QRコードの読み取り、金額の入力と手続きには面倒がともなう。
画像を見る中国でスマホ決済がローカル市場まで普及しているのは、新たに機器などを設置しなくても、QRコードを店頭に貼り付けるだけで導入できるからだ。また、それまで中国には全国をカバーするような送金システムが整っておらず、スマホ決済がそうした機能を代替した側面がある。
注目を浴びる「チャイナイノベーション」は、中国社会が昔ながらの発展途上国的な社会ルールやインフラ不足を多く残していたところに、突如として都市部のスマホ普及率が9割を超える「サイバー社会」がやってきたことで生まれたともいえる。いずれのイノベーションも中国国内に限れば「便利」なのだが、すでにルールやインフラが整っている先進国に、そのまま持ち込むのは無理があるものも多い。
日本社会の極端な保守性や決定速度の遅さと、発展途上国の社会に最適化しすぎた「チャイナイノベーション」――。モバイクやofoの日本展開が停滞している理由は、日中双方にそれぞれ事情が求められる。筆者としては中国国内におけるシェアサイクルの利便性をよく知っているだけに、なんとか頑張ってもらいたいと思うのだが、日本で気軽に乗れるようになる日は来るだろうか。
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安田 峰俊(やすだ・みねとし)
ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師
1982年滋賀県生まれ。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。鴻海の創業者・郭台銘(テリー・ゴウ)の評伝『野心 郭台銘伝』(プレジデント社)が好評発売中。----------
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