- 2017年10月23日 12:47
「国難突破解散」に疑問符
2/2■ 日本の対応は正しいのか?
無論、北朝鮮の核兵器や弾道弾が全く使用されないという保証はない。例えば金正恩が実は不治の病で、死なば諸共でこれらの兵器の使用を命じるという可能性もないわけではない。独裁国家内部の政治権力構造や意思決定のプロセスを他国が窺い知ることは極めて難しい。
また核開発や弾道弾の開発や実用化に関する情報も正確に把握することはできない。例えば北朝鮮問題の専門家で、誰が半年前に現在の水爆やICBMの開発状態を予見しただろうか。つまりあまりに不確定な情報しか我々は持ち合わせていない。だからこそ最悪の場合に備えておくことが必要だ。
故に脅威が全くないとは筆者も考えていない。だから筆者は長年保険としてMD(ミサイル防衛)に賛成してきた。そもそもMDは北朝鮮だけではなく、中国やロシアに対するためのものでもあることは言うまでもない。
それだけ北の暴発が危ない、危ないと大騒ぎするならば東京オリンピック開催も止めた方がいいだろう。また攻撃に対して極めて脆弱であり、攻撃を受けると広範囲に分かって放射能の被害が拡散する原発の再稼働も見直すべきではないだろうか。
繰り返すが、仮に弾道弾による攻撃が起きた場合に対処するためでは現在の有事法、国民保護法では依然不十分であるが、第一次安倍政権から安倍首相がこの改定に手をつけたことはない。つまりその程度の「脅威」しか感じていないということだろう。
更に問題なのが安倍政権は北朝鮮の弾道弾、核兵器対策としてまともな検討もしないで初めに導入ありきでイージス・アショア導入を政治決定したことだ。イージス・アショアはイージス艦のシステムを地上用に転用したもので、既に欧州ミサイル防衛のためにルーマニアに建設されている。
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▲写真 ルーマニアのイージス・アショア flickr : Commander, U.S. Naval Forces Europe-Africa/U.S. 6th Fleet
確かにイージス・アショア導入はMD強化の一案ではあろうが、他にも米国のTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense missile:終末高高度防衛ミサイル)やイスラエルのアローシステムなど他のシステムも存在する。
イージス・アショアを導入すれば基本的に既存のMD対応イージス艦と同じであり、PAC3と二層の迎撃体制と変わらないが、THAADであれば3層となる。またアローは4層の迎撃体制をとっている。
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▲写真 THAAD発射実験 Wake Island 2015年11月 flickr : U.S. Missile Defense Agency
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▲写真 アローシステム発射実験 2004年7月 出典:U.S.Navy
これらのシステムを比較検討し、運用上、調達及び維持コスト、将来の拡張性や、どのような組み合わせによるポートフォリオを組むのか、また配備地域のアセスメントなども必要である。
イージス・システムのレーダーは非常に強力であり、海自のイージス護衛艦がイージスのレーダーを使用する場合、総務省から、距岸50マイル以遠での使用することと制限を受けている。
イージス・アショアが配備された場合、周辺の家屋などのテレビに問題がでることも予想される。このため事前に人口が過密でない、配備予定地候補の選定も必要だ。また周辺住民の了解も必要だ。そのためには相応の予算を取り、時間を掛けて調査することも必要だ。だが、安倍政権はそれを行わずに、イージス・アショア一択である。思考停止も甚だしい。アメリカ政府に言われたから買う、というのであれば独立国家ではあるまい。
さらに米国がリリースを許しているイージス・アショアはルーマニア配備されているのと同じ現用型である。だが米国は22年からイージス・アショアのレーダーに、探知性能を大幅に向上させた最新鋭の「スパイ6」タイプの運用が始まるが、これは現状では輸出が許されていない。現行型が装備している「スパイ1」レーダーでは日米が共同開発し、射影距離や速度が向上した最新の迎撃ミサイル「SM3ブロック2A」を追尾しきれず、イージス・アショアの能力を最大限に生かせない。
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▲写真 イージス艦から迎撃実験の為に発射されるSM-3ブロック2Aミサイル 2017年2月 ハワイ 出典:Commamder,U.S.7th Fleet
■ 日本の兵器調達の合理性は?
過去安倍政権は同様に戦略無人偵察機グローバルホーク、ティルトローター機MV-22オスプレイ、水陸両用装甲車AAV7など高額な米国製兵器を、まともな調査もしないで「大人買い」した。これらはそもそもどのような目的で、どのような使い方をするのか、それらが考慮も調査もされずに導入されて、自衛隊では費用対効果が低い。のみならず、既存の装備の予算を圧迫して装備調達や、装備の維持訓練費、需品など必要な予算が取れないなどの問題が起こっている。
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▲写真 オスプレイ NV-22 出典:U.S.Navy
例えばAAV7は当初3年のトライアルが予定されていたが、アメリカの要求で半年に削減され、想定されている南西諸島での試験すらされずに調達が決定した。AAV7は砂浜でないと揚陸できない。つまり尖閣諸島などの珊瑚礁や護岸工事された海岸では使いものに、ならず宮古島や沖縄本島などでしか使えない。
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▲写真 水陸両用装甲車 AAV7 出典:陸上自衛隊
換言すれば政府の言う「島嶼防衛」とは尖閣諸島などの離島のみならず、人口の多い宮古島や沖縄まで中国に取らせてから、上陸作戦を行って、民間人を巻き込んだ大規模な戦争を行うと主張していることになる。これが島嶼防衛とはとても言えない。
しかもAAV7は米海兵隊の中古をリファブリッシュして購入する案もあったが、わざわざ高いカネを払って新造している。米国の軍事産業にカネを落とすことが目的であるとしか思えない。
グローバルホークも同様で、「南西諸島での該当空域での滞空時間は僅か数時間に過ぎず、飛ばせるのは週に2,3回程度」(防衛省高官)、しかも得られた情報は米軍経由で自衛隊は生情報に触れることができない。しかも初年度の予算要求時に運用部隊も構想も決まっていなかった。
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▲写真 戦略無人偵察機グローバルホーク 出典:U.S. Air Force
しかも調達決定後に米政府は調達から廃棄までのライフ・サイクル・コストについて、機種選定の際に示していた1700億円の2倍近い3000億円以上を吹っ掛けてきた。これまたいつも通りの成り行きだが、完全に我が国は足下を見られている。
防衛省は地上装置や整備用器材などの導入に初期費用を約1000億円負担する。更に維持管理のための費用が毎年約100億円もかかる。我が国でグローバルホークを運用するためのインフラを只で整備してやったようなものである。
オスプレイもこれまた同様でまともな調査やトライアルは行われなかった。しかも競合機とされたAW609はペイロードが小さい民間のビジネス機であり、ダンプカーを買うのに軽自動車を候補に入れるようなもので、完全に茶番だった。
しかも当時の小野寺防衛大臣は最終的にオスプレイを何機調達するか分からない、買ってから考えると記者会見で筆者の質問に答えた。つまり運用構想も調達計画も事実上存在しないということである。
現中期防でのオスプレイ17機は初度費用なども含み、約3600億円掛かるとされているが、これは陸自ヘリ部隊の年間調達費の約12年分であり、これを5年で調達することになっている。しかもオスプレイの整備費用はヘリの約3倍といわれており、そうであれば同クラスのヘリ50機分の整備費用がこれから毎年掛かることになる。
現在陸自のヘリ稼働率は5割程度といわれているが、これがオスプレイ導入によって近い将来大きく落ち込むだろうし、新規のヘリの調達も難しくなるだろう。これが例えば既存の攻撃ヘリAH-1Sの部隊を全廃するとか、1個旅団を削減するとかスクラップ・アンド・ビルドによって、予算をひねり出す努力をするならばまだしも、それもしていない。結果として陸自の稼働率や能力を下げているだけだ。
結局、安倍政権のやったことは、これらの自衛隊が使いこなせない高価な米国装備を購入することで米国に阿っただけである。そしてその代償として自衛隊の即応性や能力が減退している。これで国防が全うできるのか。
しかも防衛大臣には自分と思想が近いというだけで、経験不足の稲田朋美氏を防衛大臣に指名し、それがどういう結果を招いたか今更筆者が説明するまでもあるまい。
安倍首相は以前サミットで英国のEU離脱など理由に、リーマンショック以来の危機だと大騒ぎして、他国の指導者から失笑をかった。自分の党利党略で、事実を針小棒大に膨らませて、自らの利益の誘導のためにサミット参加国を巻き込もうとしたわけで、宰相として政治や外交判断力やセンスを疑われて然るべきであり、今回の騒動も同じ文脈であると判断できる。
北朝鮮の脅威をオオカミ少年宜しく煽って、支持率を上げ、解散を有利に運び、モリカケ問題を封印しようという魂胆だと非難されても仕方あるまい。そのような人物が首相であること自体が安全保障上大きな問題であり、我が国の「国難」であると言えよう。
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