記事

朝鮮半島危機シナリオと日本の役割を検討する - 村野将 / 安全保障政策

4/4

事態認定と自衛隊の運用をめぐる問題

しかし、現行法制においても実際の運用上の問題がないわけではない。その一例が、米軍の作戦行動に際しての事前協議と、対処基本計画の国会承認をめぐる問題である。元々、日米安全保障条約第6条には、在日米軍基地を使用して米軍が対日防衛(5条事態)以外での戦闘作戦行動を行う場合、日米間での事前協議を実施することが義務づけられている。

1994年に想定されていたのと同様、北朝鮮の防空網やTELを無力化するための継続的な航空攻撃を実施する場合、三沢や嘉手納などの在日米軍基地はF-16やF-15E、F-35などの各種戦術航空機の出撃拠点となる。さらに、38度線以北での大規模地上戦を想定する場合に至っては、上記以外にも多くの基地が米軍の増援部隊を受け入れる事前集積拠点としての役割を果たす。

もっとも、作戦近傍地域への大規模かつ時間を要する事前集積は、北朝鮮に攻撃の前兆を察知され、かえって作戦の奇襲効果を低下させてしまうリスクもある。よって、米軍が開戦の第一波をグアムや米本土から飛来するB-2ステルス爆撃機やB-1爆撃機などによる長距離爆撃や、オハイオ級巡航ミサイル原子力潜水艦や各種水上艦艇からのトマホークによる一斉攻撃を主軸とすることも十分に考えられる。

こうした作戦は条約上の事前協議義務からは外れるものの、北朝鮮が第一波を逃れたノドンやスカッドERなどのTEL搭載ミサイルを用いて日本への報復攻撃を行う可能性が残る。そうした可能性に備え、日本全土で徹底したミサイル防衛体制を敷くためには、日本海におけるイージス艦等による警戒監視を一層強化し、PAC-3部隊の追加的な緊急展開を行うなどの準備を行う必要がある。したがって、仮に在日米軍基地を使用しない作戦であっても、米軍の攻撃開始時期については首脳間の連絡にとどまらず、同盟調整メカニズムなどを通じた綿密な事前調整がなされなければならない。

こうした状況を念頭に重要影響事態を認定する場合、政府はどのような支援を行うかを示した対処基本計画について、(緊急を要する場合を除き)国会の事前承認を得ることが原則とされている。ここで直面するのが、議論の透明性と軍事作戦の秘匿性をめぐるジレンマである。言うまでもなく、自衛隊の活動範囲を定める決定に際して国会が関与することは、民主的法治国家における軍事組織の統制上重要である。しかしながら、軍事作戦の開始時期に関する情報は、その成否を大きく左右する極めて機密性の高い情報であり、それを完全開示した状態で国会審議を行うことは、情報漏洩リスクなどに鑑みても必ずしも好ましくない場合もある。

より極端な例で言えば、日本の国内政治が攻撃に反対することが明らかな場合や、日米の同盟関係に平素からの信頼が欠如しているような場合には、米側が事前通告そのものを控えるという可能性も否定できない。

同様の問題は、韓国からの邦人退避を行う場合にも起こりうる。NEOの開始は、北朝鮮はもとより、韓国に対しても米軍の攻撃が差し迫っていることを示唆する一種のシグナルとなることから、その実施については関係国間の慎重な連携が必要とされる。具体的には、自衛隊による退避活動の実施よりも先に、外務省が海外安全情報のレベルを引き上げ、渡航の自粛を呼びかけるとともに、現地の大使館や領事館を通じて韓国在住邦人に自主的な国外退避を促すことになる。

しかし、作戦開始時期を明らかにできない状況において、空爆開始以前にすべての邦人が自主的な帰国に応じることは考えにくい。そのため米軍による攻撃が開始されて以降は、収容人数の大きい民間機やチャーター機を優先的に活用しつつ、必要に応じて自衛隊のC-130輸送機などを用いて、仁川や金浦などの主要空港からピストン輸送を実施することが想定される。

しかしこの間に、北朝鮮が多連装ロケット砲や170mm自走砲を用いてソウルに対する攻撃を開始したり、NEOを妨害し米軍の作戦テンポを停滞させることを目的として、日韓の空港管制インフラに対するサイバー攻撃を仕掛けてきた場合には、航空機による輸送が困難となる事態も想定される。

ソウルの主要空港の使用が困難となった場合、主要な代替脱出経路は釜山からのフェリーや輸送船を用いた海上輸送に絞られることとなる。この場合には(1)首都圏から釜山までの陸上輸送ルートの確保、(2)殺到する避難民に紛れた偽装工作員への警戒(スクリーニング)、(3)陸上輸送が困難な場合の韓国内における退避シェルターへの誘導といった諸点において、韓国の軍・警察当局、在韓米軍との調整が必要となる。

だが、情勢の緊迫とともに釜山からの海上輸送が増加することは、北朝鮮としても織り込み済みであろう。ゆえに、退避活動やそれに続く米軍の海上作戦を阻止することを意図して、北朝鮮が釜山港周辺に潜水艦による機雷敷設などを行うことも想定しておく必要がある。

現在、米海軍の掃海艇は太平洋艦隊全体で見ても11隻に限られており、機雷掃海は1994年と同様に米国から協力を求められるニーズが高い任務である(海上自衛隊は25隻の機雷艦艇を有する)。しかし遺棄機雷の除去を例外とすれば、機雷掃海は国際法上の武力行使にあたる行為であることから、その実施には存立危機事態か武力攻撃事態を認定する必要がある。

先のシナリオでは、ソウルが砲撃を受けたことをもって「密接な関係にある他国」に対する攻撃と見做し、存立危機事態を認定することは法的にもさほど無理はない。しかし、対馬沖から韓国の領海を含む釜山近海で海自が掃海活動を行う場合には、米軍のニーズとは別に、韓国政府による事前許可が必要となる。したがって、こうした状況においても平時から日米韓の密接な協議を行っておくことが不可欠となるだろう。

ここに挙げた事例だけでも、朝鮮半島有事において日本が考えるべき課題は多く残されている。また、各種事態と国会での承認手続きをめぐる問題は、前段で検討したような北朝鮮による恫喝シナリオと組み合わさった場合に、悪い方向に作用することも懸念される。重要影響事態や存立危機事態の承認によって自衛隊の支援活動の幅が拡大することが、日本が朝鮮半島有事に巻き込まれるリスクを高めるとの見方が多くなれば、そうした声に乗じた野党が国会での承認手続きを通じて政府与党に政治的圧力をかけ、結果的に日米韓のシームレスな安全保障協力の実効性が損なわれるような消極的な事態認定に傾くというケースも考えられるからだ。

もちろん、自衛隊の活動範囲を闇雲に広げ、かえって国民が被るリスクを大きくするような政策判断が行われることは、安保法制や日米新ガイドラインを策定した本来の意図に反する。だが冒頭で言及したように、朝鮮半島と日本の戦略的位置関係は動かすことができない。半島をめぐる情勢変化が日本の安全保障に極めて大きな影響を及ぼすことに鑑みれば、北朝鮮の脅しに屈して米韓との連携を躊躇することは、中長期的な我が国の安全を高めることにはならないはずである。

今必要とされるのは、ミサイル防衛や「核の傘」を含む広義の拡大抑止、有事の各種作戦計画、NEO等にかかる日米韓の連携を平素から緊密に行うことを通じて、危機が発生した場合に降りかかるリスクを最小化することであろう。しかし万全な対策を講じても、安全保障上のリスクを完全にゼロにすることはできない。となれば、平時にやっておくべきもう一つの重要なことは、残るリスクを引き受けてでも、日本が朝鮮半島問題に積極的に関与していく意義(=我が国が守るべき安全保障上の国益)についての国民的議論を深めることではないだろうか。

※本稿で扱ったシナリオ分析や安保法制をめぐる運用上の課題については、以下の報告書も参考とされたい。平成28年度外務省外交・安全保障調査研究事業(発展型総合事業)『安全保障政策のリアリティ・チェック』(日本国際問題研究所、2017年3月)

http://www2.jiia.or.jp/pdf/research/H28_Security_Policy/00-frontpage_preface_member_index.pdf

村野将(むらの・まさし)
安全保障政策
岡崎研究所研究員。拓殖大学大学院博士前期課程修了。現在、日本国際問題研究所「安全保障政策のボトムアップレビュー」研究委員等を兼任。その他、Pacific Forum CSIS Young Leaders Program、米国務省International Visitor Leadership Program(National Security Policy Process)招聘。

主な論考に、「北朝鮮の核・ミサイル脅威と日米の抑止・防衛態勢」『東亜』(霞山会、2017年10月号)、「米国が「北朝鮮の核保有」を容認すれば、日本はこうなる」『iRONNA』(2017年9月20日)、“Deterring North Korea: Japan’s responses and regional missile defense cooperation,” Diplomat (May 24, 2017)、「米国の対中戦略の展望と課題 -戦力投射をめぐる前方展開と長距離攻撃能力の問題-」『海外事情』(拓殖大学海外事情研究所、2016年5月号)など。専門は、米国の国防政策、核・ミサイル防衛を含む拡大抑止政策、シナリオ演習。

あわせて読みたい

「北朝鮮」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。