- 2017年10月19日 11:23
北朝鮮は国際的に孤立していない!?北朝鮮と深い関係をもつ国々は何を求めているのか / 宮本悟×白戸圭一×荻上チキ
5/5北朝鮮は孤立していない
荻上 今アフリカの話がありましたが、中東でも北朝鮮と密接に関わっている深い国があるそうですね。
宮本 イスラエルとトルコ以外は、何らかのかたちで北朝鮮との関係があると思っていいです。中東の大国といわれるイラン、エジプトとは関係があります。サウジアラビアも一時期ありました。そう考えると、中東ほぼ全域、なんらかの関係があったと言えます。国ごとに程度の差はありますが、労働者を雇うなり、ミサイルなど武器を購入するなり、さらにはもっと高いレベルで首脳陣の交流などさまざまな関係がありました。
特に軍事的なつながりで言うと、南アフリカのアパルトヘイトに全アフリカ諸国が反対していたのと同様、他のほとんどの中東諸国が程度の差こそあれイスラエルに反対していました。他の中東諸国からすると、イスラエルは中東でイスラムとかアラブの諸国を侵略する一つの悪の国です。北朝鮮もそれに乗っかっているわけです。北朝鮮は第四中東戦争の時に軍隊まで送って、イスラエルと戦っています。アラブ諸国にとっては北朝鮮が、一緒にイスラエルに対抗してくれる存在になっていると言えるでしょう。だから喜んで韓国やアメリカよりも北朝鮮のほうに頼っていく、という構図があるのです。
荻上 北朝鮮の報道で、自分たちがアフリカや中東といい関係を築いていることがニュースに取り上げられることもあるのでしょうか。
宮本 あります。印象的だったのは、アラブの春でエジプトのムバラク政権が崩壊したときです。ムバラクが辞任すると発表した翌日に、労働新聞の一面で、北朝鮮とエジプトがどれだけ協力してきたか、その友好関係の歴史が、ズラーッと並びました。ムバラクは個人的に大変な親北朝鮮家でした。あの日の報道は、そのムバラクがいなくなっても、エジプトと北朝鮮の関係はこれからもどんどん続いてゆくのだと示そうとしていたのだと思います。今日、エジプトが北朝鮮の軍事協力を切ったというニュースが入ってきましたが、これまで実際に関係があったことを示しています。
荻上 日本の報道では喧嘩腰な姿勢ばかりが取り上げられる北朝鮮ですが、実際には親密さを感じるさまざまなコミュニケーションをとっているのですね。
宮本 そうですね。シリアやイランなどの中東の大国ともしょっちゅう首脳陣との書簡交換や代表団の交換などを行っています。北朝鮮は決して世界から孤立しているわけではないんです。特に中東アフリカでは、むしろ韓国よりも北朝鮮のほうが受けがいい国が結構あるんですよ。
荻上 北朝鮮の労働者抜きには、ワールドカップのスタジオも建設できないという話がされてますよ。
宮本 ええ。北朝鮮の労働力は非常に質がいいんです。イスラム教にしてもキリスト教にしてもちゃんと休日がありますが、北朝鮮労働者には休みがありません。お祈りの時間もないので365日24時間戦える。だから中東とかアフリカでは非常に喜ばれるんです。しかも安いですからね。
荻上 それだけアフリカ、中東でプレゼンスが高い北朝鮮ですが、アフリカの動きは今後どういった点に注目でしょうか。
白戸 東大の先生で、以前国連で日本の次席大使をされていた北岡伸一氏の言葉がとても印象に残っています。国際関係というものは、相互に助け合うことで成り立つのだというのです。つまり、日本はアフリカの国々に対して拉致問題の悲惨や、その解決へ向けた協力を訴えますが、一方でアフリカが日本に助けを求めたとき、我々は何をしたのかと。例えばウガンダでは紛争のため、20年に渡って6万人の子どもが拉致されてきました。この問題に、どれだけの日本のエリートが関心を持ったのか、何をやったか。問題を共有し合うことがないと、なかなか外交は前に動いていかない、というお話でした。
現在の北朝鮮情勢は、迎撃ミサイルを強化など、ある程度のハード面での対策が必要な段階にあると思います。同時に迂遠で遠回りなようだけれども、日本がアフリカの問題に真剣に取り組むということは、実は先ほどのザルを埋めるという作業として有効なのではないでしょうか。ここを真剣に取り組んでいかないと、北朝鮮問題はなかなかいい方向に向かないと思います。
宮本 中東も同じです。中東で何が起こっているのか、なぜ北朝鮮が中東で受け入れられるのか、そこをちゃんと日本で認識しておかなければ、中東諸国に何か頼むといっても交換条件ができません。その地域にはそういう国際情勢があるんだということを理解しながら外交政策を進める必要があると思います。
荻上 宮本さん、白戸さん、ありがとうございました。
荻上チキ(おぎうえ・ちき)評論家 / シノドス編集長
1981年生まれ。著書に『ネットいじめ』(PHP新書)、『社会的な身体』(講談社現代新書)、『いじめの直し方』(共著、朝日新聞出版)、『ダメ情報の見分け方』(共著、生活人新書)、『セックスメディア30年史』(ちくま新書)、『検証 東日本大震災の流言・デマ』(光文社新書)、『彼女たちの売春』(扶桑社)、『夜の経済学』(扶桑社 飯田泰之との共著)、『未来をつくる権利』(NHK出版)、『新・犯罪論 ―「犯罪減少社会」でこれからすべきこと』(共著、現代人文社)、『災害支援手帖』(木楽舎)、編著に『日本を変える「知」』『経済成長って何で必要なんだろう?』『日本思想という病』(以上、光文社SYNODOS READINGS)、『日本経済復活 一番かんたんな方法』(光文社新書)など。
荻上チキ Session-22(おぎうえちき・せっしょん22)TBS RADIO 954kHz
毎週月~金 22時~23時55分まで放送。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」など柔軟に形式を変化させながら、番組を制作。
番組HP https://www.tbsradio.jp/ss954/
宮本悟(みやもと・さとる)朝鮮半島研究
1970年生まれ。同志社大学法学部卒。ソウル大学政治学科修士課程修了〔政治学修士号〕。神戸大学法学研究科博士後期課程修了〔博士号(政治学)〕。日本国際問題研究所研究員,聖学院大学総合研究所准教授を経て,現在,聖学院大学政治経済学部教授。専攻は国際政治学、政軍関係論,安全保障論,朝鮮半島研究。
〔著書〕『北朝鮮ではなぜ軍事クーデターが起きないのか?:政軍関係論で読み解く軍隊統制と対外軍事支援』(潮書房光人社,2013年10月)。
〔共著〕「国連安保理制裁と独自制裁」『国際制裁と朝鮮社会主義経済』(アジア経済研究所,2017年8月)pp.9-35,「北朝鮮流の戦争方法-軍事思想と軍事力、テロ方針」川上高史編著『「新しい戦争」とは何か-方法と戦略-』(ミネルヴァ書房,2016年1月)pp.190-209,「北朝鮮の軍事・国防政策」木宮正史編著『朝鮮半島と東アジア』(岩波書店,2015年6月)pp.153-177。
〔論文〕「「戦略的忍耐」後と北朝鮮」『海外事情』第65巻第7・8号(2017年7月)pp.60-71,「ストックホルム合意はどうやって可能だったのか?―多元主義モデルから見た対朝政策決定―」『日本空間』第19集(2016年6月)pp.136-170,「千里馬作業班運動と千里馬運動の目的―生産性の向上と外貨不足―」『現代韓国朝鮮研究』13号(2013年11月)pp.3-13,「朴槿恵政権による南北交流政策」『アジ研ワールド・トレンド』第19巻6号(2013年6月)pp.9-13,「中朝関係が朝鮮人民軍創設過程に与えた影響」『韓国現代史研究』第1巻第1号(2013年3月)pp.7-29など。
白戸圭一(しらと・けいいち)
アフリカ研究
三井物産戦略研究所 欧露・中東・アフリカ室長。1970年生れ。95年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。同年毎日新聞社入社。鹿児島支局、福岡総局、外信部を経て、2004年から08年までヨハネスブルク特派員。ワシントン特派員を最後に2014年3月末で退社。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)など。



