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習近平が恐れる「次期チャイナ7」の名前

(プレジデントオンライン編集部 特別編集委員 原 英次郎 写真=AP/アフロ)

10月18日から5年に1度の「中国共産党大会」が始まる。世界2位の経済大国の方向性を決める最高意思決定機関であり、世界の注目度は日本の総選挙の比ではない。どこに注目すればいいのか。2人の専門家に聞いたところ、共通するのは「王岐山氏の処遇」だという。どういう意味なのだろうか――。

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2017年9月30日、「烈士記念日」の式典に出席した習近平(左)、王岐山(中)、李克強(右)の各氏。(写真=AP/アフロ)

■指導者は選挙で選ばれるが……

共産党大会は同党の最高意思決定機関であり、5年に一度開催される。最も重要な役割の一つが党の指導者を決めることだ。法政大学・趙宏偉教授は「党指導部の任期は5年。ここで選ばれた人たちがこれからの5年間、党を支配し、全国を統治することになるので、大変重要だ」と説明する。

指導者選びのプロセスは次の通り。現在、共産党の党員数は約9000万人、14億人の国民に対して、15人に1人という割合を占める巨大組織だ。党大会は代表制で、全国の40の地域や組織から選挙で選ばれた2300人の党大会代表が、北京の自民大会堂に集まる。

大会では、党大会代表の投票で約200人の中央委員と約100人の中央委員補を選ぶ。そして党大会が閉会した翌日に開かれる「中央委員会全体会議(全会)」で、中央委員が25人の政治局員を選ぶ。この政治局員の中から、党の最高指導部である「政治局常務委員会委員(常務委員)」が選ばれる。現在の常務委員は7人のため、その権力の大きさからチャイナ7(セブン)と呼ばれている。

さらに、この7人の中から党のトップである総書記が選ばれる。総書記は国家主席と中国共産党軍事委員会主席を兼ねる。つまり総書記は党のトップ、行政のトップ(国家主席)、軍のトップ(最高司令官)を務めるわけで、その点では米国の大統領に近い。ちなみに行政と軍のトップの称号は「主席」で、党だけが「総書記」である。

■あらかじめ結果は決まっている

面白いのは、一連の手続きで「選挙」という民主的な手続きをとっていることだ。党大会代表から中央委員、中央委員補まで定員を若干上回る候補者が立候補する。当然、落選者も出る。だが、だれが当選し、だれが落選するかは、各レベルで党が関与しており、詳しいリストが事前に作成されているという。

例えばエリート中のエリート集団である中央委員と中央委員補は、党大会代表による選挙で選ばれるが、候補者は党中央政治局とその常務委員会によって確定される。さらに指導部層である政治局員、政治局常務委員、総書記は、中央委員会による選挙だが、実際は常務委員会、政治局によって決定済みの同数の候補者に対して信任投票を行って選出する。この候補者をめぐって激しい権力闘争が繰り広げられている。

■王氏が常務委員に残れば習氏の勝利

今回の党大会では、習近平総書記の権力基盤が一段と強固なものになるかどうかが注目されている。そのリトマス試験紙となるのが、「チャイナ7」の一人である王岐山常務委員の処遇である。王氏が常務委員に残れば習氏の勝利、外れれば反習近平派の巻き返し成功というのが、中国研究者の主な見方である。


王氏は過去5年間の習体制において、「党中央規律検査委員会書記」として腐敗撲滅運動の先頭に立ち、辣腕を振るってきた。その結果、かつては不可侵とされた政治局員以上の4人をはじめ、130万人以上の共産党員が処罰の対象になった。腐敗撲滅運動は習氏の権力基盤を固めるうえで貢献したばかりでなく、国民の習人気を支える原動力となっている。

こうした背景から、中国の最高指導部では「習・王連合」と「反習派」の対立構造があると理解されることが多い。だが、王氏は現在69歳。常務委員は68歳定年という慣例があり、慣例に従うのであれば再任は難しいとみられている。

毛沢東が晩年に個人崇拝の闇に陥り、文化大革命で中国を大混乱させた反省から、共産党の指導部は集団指導体制を採用してきた。前胡錦濤政権下では、政治局常務委員のメンバーは9人で、「9人の大統領がいる」と揶揄されるほど権力は分散していた。

■慣例を破らずに済む奥の手

だが、現在、習氏は腐敗撲滅による国民的人気を背景に、独裁的な権力基盤を固めつつある。すでに習氏は9人だった常務委員を7人に減らしている。そのうえで、もし習氏が慣例を破り、王氏を常務委員に再任させることができれば、権力基盤の確立が確認できるといえる。

注目すべきひとつのポイントは「習氏が慣例を破って、王氏を再任するかどうか」だが、趙教授は慣例を破らずに、習・王連合を維持する方法があると指摘する。

「『国家副主席』というポストを復活させ、王氏を副主席に就任させるという手がある。これまで国家副主席は名誉職としての意味合いが強かったが、王氏には習氏の最重要課題の一つである『一帯一路』を担当させ、ナンバー2として遇するかもしれない」(趙教授)

■習体制が抱える3つの不安要素

一方、日本総研の呉軍華・調査部理事は、趙教授とは違う見方を示す。呉氏は、メインシナリオは「習体制の強化」としつつも、「今回の党大会が終わっても、今後1~2年は権力闘争が続くこともありえる」と予想する。

呉理事によれば、習体制の不安定さを予感させる要素は3つある。1つ目は、習氏の個人崇拝ともとられかねないほど、習氏をほめたたえるプロパガンダが強烈なこと。「これは逆に権力基盤が固まっていないことを表しているのではないでしょうか」(呉理事)。

2つ目は、中国指導層の腐敗を指摘しつづける、米国在住の中国人実業家・郭文貴氏の存在だ。郭氏の情報はフェイクニュース扱いされることが多いものの、彼のバックに共産党の大物がついている可能性は否定できない。そうだとすれば、今後、習体制を揺るがすような腐敗が出てくるかもしれない。

3つ目が王岐山氏の存在そのものだ。「今や習氏に対抗できる力を持っているのは、王氏だけとなりました。もともと王氏は経済・金融には強い基盤を持っており、腐敗撲滅運動の過程で警察にも足場を築きました。影響力という点で習氏が王氏を凌駕しているのは、人民解放軍だけでしょう」(呉理事)。王氏が自らの去就をどう考えているのかによって、習氏が権力基盤を固められるかが左右される。

これからさまざまなメディアで共産党大会の様子が報道されるだろう。注目すべきは常務委員である王岐山氏の処遇にある。ポイントを絞ると、報道のリアリティも変わってくるだろう。ぜひ参考にしてほしい。

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