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『PS』休刊の理由は『CanCam』の生存戦略

 小学館の女性ファッション誌『PS』がなくなったことを、世界で一番悲しんでいる乙女男子ことParsleyです。ごきげんよう。

 しかし、『PS』の休刊が決定したのは7月だったのだけど、その直前にサイトと携帯HPのリニューアルを実施している。このことからも、編集部の意向は関係なく、経営側の一存によって決定された事項だということが透けて見える。
 日本雑誌協会のデータによると約20万部。実際はさら数万単位で減っていて、実売はどんなに多く見積もっても12万部前後だっただろうが、例えば『LEON』の姉妹誌だった『NIKITA』が4万部前後で最後まで踏ん張っていたことを考えれば、諦めるのは早すぎたように思えなくもない。
 各ニュースでは「広告収入の低下」を理由に挙げていた。確かに昨年度と比較してナショナルクライアント、クルマやケータイ、それにゲームといったタイアップ企画が減っていたのは目に付いた。しかし、表3(背表紙の裏)には最後までバンタンが広告を入れ続けていたし、各ブランドの純広告・タイアップ記事とも堅調に入っており、見た目でガクンと下がったようには感じられなかった。
 
 となると、『PS』休刊の理由は、小学館全体の雑誌戦略と関わってくるもののように思える。
 もっと言うと、「不沈艦」である『CanCam』を守るために、『PS』が犠牲になった、と捉えるべきなのではないだろうか。
  
 小学館の女性ファッション誌の中では、『PS』が一番低い年齢、18歳から22歳という女子大生・短大生を狙った雑誌だった。もともとが『プチセブン』で、中学生がターゲットだった出自を考えればそれでも上がっているのだが、モデルに10代(当時)の綺羅マリー(2004年頃が懐かしい!書いていることが恥ずかしい!)や河北麻友子、入夏などを積極的に出しており、ストリートスナップにも女子高生が頻繁に登場するなど、「16歳が背伸びして読んでも全然OK」な雑誌だった。NICE CLAUPに代表されるような、お小遣いやちょっとバイトすれば手が届く価格帯のブランド・ラインを紹介し続けた、というのも大きい。
 それが、年々、年齢層が上にもリーチするようになっていく。表紙に吉川ひなのを起用したり、今宿麻美のような「お姉さん」系のモデルも登場してきて、「コンサバでない」OL層や兼業主婦層まで視野に入れた雑誌になっていった。

 実は、同じ傾向は『CanCam』にもいえる。もともと22~25歳のOLがターゲット層で、通勤服やデートの際のコーデなどを提示し続けていた同誌は、山田優、蛯原友里、押切もえ、西山茉希らが次々と登場した2005~2007年に「モテ系」として一世を風靡し、一時は70万部が完売という勢いを誇った。
 だが、25歳より上の「姉」層を狙い、姉妹誌の『AneCam』を刊行してまもなくしてから、雲行きが怪しくなる。読者は『AneCam』にうまく流れずに変わらず『CanCam』を読み続け、『Oggi』『Domani』といった30代向けの雑誌へとエスカレーターで読者が流れて行かなくなってしまったのだ。

 これには、デフレ不況により、読者層の収入と紹介されているブランドとのミスマッチが起きたことも起因している。ファストファッションを着ても恥ずかしくない風潮の前に、ヴィトンのバッグを持っていないと恥ずかしい時代は完全に過去へと押し流された。
 それでも、商品単価の高い化粧品や、高級ブランドの広告は入るから、30代向けの雑誌は若年層ターゲットの雑誌に比べては生き延びやすい。読者数はずっと減少しているが、しばらくは持ちこたえるのではないか。

 さて。問題は『CanCam』だ。2011年12月号のキャッチコピーは「23歳・25歳・27歳 何使ってる?何が便利」。5年もの年齢層をカバーしているわけだ。多くのブランドや化粧品は25歳を基準にラインを変えるから、そのどちらも取り込もう、としていることになる。

 さらに、同誌が主導して、13歳から17歳をターゲットとしたオーディション「MISS TEEN JAPAN」を開催している。つまりティーンにも読んで貰おうとしているのだ。
 その上で。2012年1月号では、原宿系で2011年にブレイクしたきゃりーぱみゅぱみゅや女子サッカー日本代表の永里亜紗乃選手、そしてももいろクローバーZを「Cam流にする」という企画を掲載し、それまでのコンサバな『モテ系』の外縁にいた層を取り込もうと試みている。
 つまり、『CanCam』は10代から30歳までまんべんなく取り込めるような全方位戦略を採用したわけだ。

 となると、同じ出版社で、年齢も近い層をターゲットにしている『PS』は一番邪魔な存在になる。

 それで、未だに膨大な広告収入が入る『CanCam』を生き残らせるための戦略を、小学館は選んだ故に、『PS』は休刊の運命を辿ったのだと、Parsleyは推察する次第。

 しかし、この『CanCam』生存戦略が果たして上手くいくのだろうか?
 日本雑誌協会発表の数字では約32万の発行部数だが、ブログ『誰も通らない裏道』様のエントリーによれば、2010年上半期の『CanCam』の実売数は21万2000部、下半期で19万3000部、そして2011年上半期では14万8000部という驚くべき数字が出ている。
 さすがにこの数字では、広告出稿に影響せざるを得ないだろう。

 「モテ系」というテーゼの劣化、ターゲッティングの不在、ライフスタイル多様化に全て応えようとして結果的に中途半端な雑誌になってしまっている、というのが、現在の『CanCam』の姿のように思える。誰が読む雑誌なのか、まったく分からなくなっているのだ。

 一方で。ファストファッションも広告クライアントに取り入れてデフレカルチャーの波に上手に乗り、付録戦略とアラサーにターゲットを絞った宝島社『Sweet』は100万部越えを果たした。その上の年代、30代女性を狙った『InRed』も好調に推移しているように見える。
 だが、この付録&表紙タレントで「買わせる」というシンプルな戦略も、だんだん読者に飽きられてはじめている、というのがParsleyの感触になる。コンビニに入っている部数が明らかに減っているし。

 それでは、現在のファッションシーンの牽引しているのはどのメディアなのか。…という話は、次回のエントリーにて考えてみたいと思う。

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