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キヨシロー「Love me tender」のアンサーソングとしての斉藤和義「ずっとウソだった」の無力感

斉藤和義が自らのヒット曲「ずっと好きだった」の替え歌として反原発ソング「ずっとウソだった」を弾き語りする動画がアップされ、レコード会社も本人であることを認めている(中日スポーツ:斉藤和義「反原発ソング動画」ネットで物議 所属ビクター困惑:芸能・社会(CHUNICHI Web))。

我々くらいの年代であれば、反原発ソングとして真っ先に思い出すのは1988年忌野清志郎がアルバム「カバーズ」で発表した「Love me tender」のはずだ。「カバーズ」は発売直前に発売中止が決定したことでも話題を呼んだ。そして、斉藤和義の歌はキヨシローの歌を非常に意識している。たとえば、「ほうれん草食いてぇな」は当然「牛乳を飲みてぇ」に呼応している。

「ずっとウソだった」は「Love me tender(キヨシロー)」のアンサーソングといえる。キヨシローの「静かな怒り」は、斉藤和義の「怒りの末の無力感」に受け継がれた。

斉藤和義の「ずっとウソだった」



斉藤和義の動画は4月7日にアップされたが、その後投稿者が削除。保存されていたコピー動画が相次いでアップされ、レコード会社によれば「本人や弊社の許諾がなく動画投稿サイトに公開された」ということで削除依頼が出ているが、実際のところいたちごっことなっている。

「ずっとウソだった(daichiazuma)」の歌詞を文字おこしした (Creatiblog:310326)
斉藤和義 ずっとウソだった youtube - Google 検索

次々と削除されているのは、特に「歌詞中で電力会社名が明言されてしまっている」という大人の事情があるのではないかとわたしは推測している。

私自身は「原発そろそろ無理じゃね?」とは思っているが、一方で放射性物質を過敏に怖がる人たちにも乗っかれず、福島産の産物を積極的に購入したりしている(震災後、「今わたしにできること」なので、「今わたしがやっていること」「これからやりたいこと」[絵文録ことのは]2011/04/04など参照)。だから、この斉藤和義の歌にそっくりそのまま乗っかれるわけではないが(「黒い雨」などは不安を煽りすぎている部分もあると思う)、それでも今の日本社会全体を覆う閉塞感(パニックになって国外脱出というわけでもないが何となく不安が降ってくる感じ)を代弁しているように思う。

キヨシローのLove me tender



今から23年前、1988年にキヨシローは「Love me tender」を含む社会風刺アルバム「カバーズ」を発売しようとしたが、それは発売中止となってしまう。発売中止の新聞広告には、「素晴らしすぎて発売できません」との皮肉な文面が掲げられて逆に話題を呼んだ。これは後に別会社から発売されている。発売中止の理由は、親会社の東芝が原子炉サプライヤーであったことなどが噂された。

復刻版になるが、わたしもこのCDは持っている。いずれもメッセージ性の強い名曲揃いである。

キヨシローへのアンサーソング



さて、斉藤和義は1988年の発売騒動当時22歳。当然キヨシローをリアルタイムに知っているはずである。その影響は今回の歌詞にも見られる。

キヨシローの「放射能はいらねえ、牛乳を飲みてぇ」を受けて、斉藤は「風に舞う放射能はもう止められない」「ほうれん草食いてえな」と歌った。違うのは、放射能(放射性物質)はすでに放出されていることだ。

そもそも、タイトルやサビ自体がキヨシローへのアンサーである。斉藤の「俺たちを騙して、言い訳は「想定外」」「ずっとウソだったんだぜ やっぱ、ばれてしまったな」という歌詞が、キヨシローの「たくみな言葉で一般庶民をだまそうとしても ほんの少しバレてる、その黒い腹」という歌詞を受けているのは明白だ。23年前はほんの少しバレてる程度だったが、今や安全神話は崩壊した。

「キヨシローさん、あんたの歌ったとおりだったよ」というのがこの曲のメッセージとして伝わってくる。

補記:サマータイムブルース



キヨシローの反原発ソングと言えば「サマータイムブルース」の方だという指摘があった。確かに直接的な原発曲としてはそちらの方が直接的ではあるが、「ラヴ・ミー・テンダー」も歌詞の「牛乳飲みてぇ」がチェルノブイリを指しているように当然反原発を明確にうたっているので、「ラヴ・ミー・テンダー」が反原発ソングではないとはもちろん言えない。

なお、「サマータイムブルース」の歌詞との対比を追記しておくと、「37個も建っている原発がまた増える」は斉藤の「原発が54基」、「それでもTVは言っている「原発は安全です」」は斉藤の「教科書もCMも言ってたよ、安全です」に受け継がれている。

311後の「あきらめ感」



もちろん、311後という決定的大事故を受けて、キヨシローとの違いも目につく。キヨシローの歌詞自体は「何言ってんだー、ふざけんじゃねー」とかなり激しい怒りをぶつけているのだが、文字で見るのと違って曲調が非常に落ち着いているため、決してアジテーションの叫びのようには聞こえない。むしろ「静かな怒り」を淡々と伝えるように思われる。

斉藤の「ずっとウソだった」は、原曲自体がもう少しアップテンポである。弾き語りもリズム感がある。だが、それでも過剰なアジテーションとは感じられない。それは歌詞の中で怒りよりも無力感や脱力感が前面に出ているからではないだろうか。

「ずっとウソだったんだぜ」と厳しく断罪するものの、斉藤は「だからといって何もできない」という気分を伝える。「この街を離れて、うまい水見つけたかい? 教えてよ! やっぱいいや...... もうどこも逃げ場はない」と斉藤は歌う。どこも逃げ場がない、「懐かしいあの空、くすぐったい黒い雨」と回想に入り、「風に舞う放射能はもう止められない」と嘆く。

「何かがしたいこの気持ち」はあるが、具体的に何をどうすればいいのか、そこに閉塞感が伝わってくる。

キヨシローは「長生きしてぇな」と歌った。311後、それは「もうどこも逃げ場はない」というあきらめ感に変わったのだ。「キヨシローさん、あんたの歌ったとおりだったよ。でも、俺たちにはもう逃げ場もないんだ。どうしたらいいのかね」......斉藤の気持ちは今、立場を超えて共有されている気分ではないかと思う。

この歌の中で、電力会社は「もう夢ばかり見てないけど」「それでも続ける気だ」と歌われている。実際、東京都知事選でも多くの候補が原発を段階的に減らすと明言しているにもかかわらず、明言を避けて「今回の事故をもって、原子力全てを否定することだけでは解決しない」と主張する有力候補もいる(webDICE - 骰子の眼 - 東京都知事選候補者に聞きました。「原発」「青少年健全育成条例」「医療用大麻」「家賃の更新料」「築地移転」)。「それでも続ける気」の人たちに対して「何かがしたいこの気持ち」を、まずは選挙に行くことで表明したいとも思う。

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