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なぜ人は路上ギターに投げ銭するのか?|ノーベル経済学受賞者はこう考えた。

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なぜ人は、路上ギターに投げ銭するのか?

By: shrinkin’violetCC BY 2.0

収録後半では、なぜ人は路上パフォーマーに投げ銭するのか、そしてなぜ人は選挙で投票をするのかについて議論しています。自己中心的な経済合理主義者であるイーコン的には、路上パフォーマンスで投げ銭するなんてありえない。なぜって、公の場で演奏している路上パフォーマンスは、たまたま通りすがった時に「耳にした」だけであって、そのパフォーマンスにお金を払って見に来ているわけではない。支払いも求められていない。よってイーコンは投げ銭をしない。

選挙投票も同じで、投票したからといってそれが自分に(少なくとも直接的に経済的に)何か影響を与えることが目に見えていない。これは多くの人が実際に感じていることだし、グレッグが実際に街中で街頭インタビューをしている時もそう答える人はいた。それにお金をもらえるわけではないしね。

しかし、全ての人がそう考えるわけではない。中には、

「アメリカ人として投票は義務だ」

「なぜ投票したかって?投票は重要だからだ。市民としての責任であるし、コミュニティはよいい学校や教師を必要としている」

と街頭インタビューで答える人もいました。

Mancur Olsonという経済学者は1965年に出版した本「集団行動のロジック」の中で、イーコンのモデルを政治学に適用しました。彼は、集団による政治的な活動も路上パフォーマンスもどちらも「公益」であると主張します。なぜなら、政治的な活動に参加しない人も排除することができないように、路上パフーォマンスも通りすがりの聞いている人を排除することはできないから、であると。

集団行動のロジック : The Logic of Collective Action

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Mancur Olson Harvard University Press
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それ故に生じるのが「ただ乗りする人(フリーライダー)」。ただ乗り好きなイーコンだったら、ドン・キホーテのレジの1円玉拝借箱(英語ではgive-a-penny, take-a-penny traysという)の中身を全部持ってくだろうよと、セイラー教授。笑

しかし現実世界では、そんなことをする人はほとんどいないし路上パフォーマンスに投げ銭する人もいれば、寄付をする人だって、ボランティアする人だって、ヒッチハイクで人を乗せてくれる人もいる。まさに僕の友人がヨーロッパの旅中に路上ギターでこれだけ稼いだように。

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日本人ギタリストがスウェーデンで路上ライブ毎日やったら1ヶ月でこんだけ稼げたよ

世界は「合理的な愚か者」で溢れている。

世の中は、自己中心的な人ばかりではないのです。

では、なぜ経済学はこのような視点を失ってしまったのか?

セイラー教授:イーコンのような超合理主義者が常に経済学で想定されていたわけではない。アダムスミスもそうだが、第二次世界大戦までの経済学者は「人」をイーコンのように扱うのではなく、本物の人としてみなしていた。

世の中に役に立つように貢献しようとする人もいるように、現実の世界は様々な人で入り混じっている。ただ乗りする人もいれば、こうやって手を貸してくれる人もいるということだ。

経済学者のアマルティア・センは、そういう人を『合理的な愚か者」と称した。彼らは合理的な方法を知っているけども、愚か者である。何故なら、もしすべての人がそのような行動をとったら、世界は今ほど良い場所にはなっていないことを自覚していないから愚か者なのだ、と

数年前に流行ったアイスバケツ・チャレンジなんてまさに「愚か者」の真骨頂ですよね、イーコンからすると。しかし、そういう「愚かな行為」を人はする。

一歩踏み出すためのもう一つの条件が揃うと、人は行動に出るという。セイラー教授はこれを「条件付き協働者(conditional cooperators)」という用語で裏付ける。

セイラー教授:路上パフォーマーに投げ銭をする時ってちょっと、勇気が必要ですよね?なぜって投げ銭する時「たった1人の人」にみんななりたくないから。だから頭のいい路上パフォーマーは、あらかじめ帽子の中にお金を入れておいて、あたかも他の人が投げ銭してくれているようにみせている。

確かに、日本で路上パフォーマーに投げ銭するのってちょっとハードル高いけど、神社のお賽銭はしますもんね。それは社会的な規範があるからでしょうけど、それでも「自分だけ」という感じはありませんし。

この辺り、上述した友人のギタリストも同じことを言っていました。

合理主義者が、投票をするとき

グレッグはこのセイラー教授の「条件付き協働者」の考え方は、路上パフォーマーに投げ銭する行為、大義を持ったボランティア活動をする理由を説明するのに十分な理論だといいます。

そして、これが投票するという行為に合理的な根拠を与えると、ブライアン・カプラン教授(ジョージメイソン大学)は指摘します。

(行動経済学視点を盛り込んだ新しいイーコンとしての)「ホモエコノミクス 2.0」は、まっとうな候補者が揃った時には投票するだろう。そのためには、候補者同士が完全に異なる必要がある。ホモエコノミクスらは、どちらの候補者が良いか真剣に検討するし、その検討にその他大勢の人は大きく影響を受ける。そして接戦になる。そうなったらイーコンは投票するだろう。

カプラン教授の著書

選挙の経済学
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ブライアン・カプラン
日経BP社
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***

人は、合理的な判断をしないで「誤った」行動をする。若かりし頃、セイラー教授が大学で教え始めた時に気づいたことの一つが、人は必ずしも合理的な判断をしない生き物であるということ。

そういう「合理的ではない」人間のおかしな行動を、リストにして書き出しまくって、なぜ人はそのような行動をするのか研究をしていたら、40年後に行動経済学ができあがったというのです。それだけ経済学が、本物の人を現実でみないで理論に傾倒して「人間性」を失った時があったからこそ、そのカウンターとして、行動経済学が主張されてきたのでしょう。

最後にセイラー教授は、こう締めくくる。

今から50年後、行動経済学が消滅して、経済学がかつてのように「行動」的になってくれたらいいな

ポッドキャスト全文文字起こし
Should We Really Behave Like Economists Say We Do? Full Transcript

向き合うべきは投票率ではない。

いかがだったでしょうか。

ぼくは経済学をやっていたわけではありませんが、そんな初心者にも分かりやすい内容のポッドキャストでした。イーコンの実験も面白かったですし、行動経済学的な考え方というものがよくわかっただけでなく、行動経済学がどういう背景で生まれてきて何を主張してきたのかもよくわかりました。セイラー教授、偉大なりです。

折しも、日本では選挙を来週に控えており、駅前では候補者が最後の主張を訴えています。あれも路上パフォーマーと同じような「公共に資する路上パフォーマンス」なのかと思うと、確かに投票所に足を運ぼうかと思うわけですが、だからと言って今の政治の状況で「自分が参加したことによって、社会が変えられる」と思えるかどうかはまた別の話です。

選挙が残酷なのは、選挙戦略で勝つためには浮動票が多い地域を優先して応援演説をしたりと、とてもイーコン的な側面があることです。選挙が終われば投票率が出て、思った以上に投票率が伸びていなくて「何であんなに盛り上がっていたのに…」「この人たちが投票すればあの政党が勝っていたのに」と落胆する人もいるでしょう。

しかし、僕らが本当に向き合うべきはこの数字に出てこなかった、生の人間なのかなと昨年は、ブレクジット、ドナルド・トランプ誕生と欧米の政治が激動した年でしたが、どちらの選挙でも投票率はスウェーデンほど高くはなく、むしろ様々な局面において経済・社会的な分断がますます加速してきています。日本も大局的には同様の文脈の中にあるでしょう。

スウェーデンの若者の選挙の投票率が高い理由がわかる10記事

大事なのは、選挙以外の場面で社会に参画できるようにしていくことですし、選挙投票しない層と向き合うことです。若者政策やユースワークは、そういう意味で偏差値の高い私立高校で限定的に展開されている「主権者教育」よりも射程は広いし、意義深いものであります。

そして選挙に際しては、一人一人の個人を「1票」としてみなすのではなく、(選挙投票するかしないか関係なく)人として向き合うこと、それがセイラー教授からの教えなのかなと思いました。

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