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5年間ロヒンギャ問題を追って感じること

ミャンマー西部ラカイン州を中心に暮らすイスラム教徒、ロヒンギャの名が最近、やっと世間に知られるようになってきた。数年前までは、広い世界でもロヒンギャを知る人の数は極めて少なかったのだが、不幸なことに今夏、ロヒンギャに対する迫害がいっそう激しくなり、世界の耳目が集まったためだ。

ロヒンギャは英領時代に隣国バングラデシュからミャンマーに移住してきた人たちで、現在、ラカイン州に住むロヒンギャの数は約100万人とされる。ミャンマー、バングラデシュ両国が独立後、ともに自国民と認めなかったことで無国籍の民となった。「世界で最も迫害を受けている人たち」とも言われる。

8月末、ロヒンギャの過激派と見られる武装集団が同州マウンドーの警察拠点を襲撃、これに対しミャンマー治安部隊がロヒンギャ掃討作戦を開始して多数の犠牲者が出た。作戦開始後、治安部隊の攻撃を恐れた約50万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れ、難民化している。

ロヒンギャに対する大規模迫害は、1978年、1991年、2001年、2012年と約10年の周期でしばしば起きている。今回のロヒンギャ迫害がこれまでより大きな国際ニュースになったのは、ミャンマー治安部隊の掃討作戦が過酷で、犠牲者と避難民の数が過去にないほど大きかったことだ。だが、それにも増して大きな理由は、民主化の推進者であったはずのアウン・サン・スー・チー国家顧問が沈黙を続けてきたことがある。スー・チー氏を非難する国際世論が高まり、ノーベル平和賞の取り消しを求める請願運動がネット上で大きなうねりを起こした。同賞受賞者のマララ・ユスフザイさんが非難声明をだすなど、ロヒンギャ問題は別の観点から国際社会の関心を惹いたともいえる。

私はミャンマーの地域専門家ではないので、ミャンマー事情に特に精通している訳ではない。だが、ことロヒンギャ問題については人より多少詳しく論評できると自負している。私がロヒンギャに関心を持つきっかけとなったのは、2012年6月、ラカイン州南部ラムリで起きたロヒンギャ男性による3人の仏教徒女性強姦殺人事件だった。この時も仏教徒とロヒンギャの対立が激化、一時は50万人のロヒンギャがバングラデシュに逃れている。

この事件の発生まで、私もロヒンギャについて乏しい知識しか持ち合わせていなかった。その頃、アジアの最新情報を得るためアジア各国の新聞を定期的に読んでいたのだが、ある日、たまたま手にしたバングラデシュの代表的英字紙「The Daily Star」の紙面上にあった一枚の写真が私の目を釘付けにした。それはバングラデシュとミャンマーの国境を流れるナフ川に浮かぶ小さな漁船の中で身を寄せ合うロヒンギャ母子の写真で、バングラデシュ国境警備隊員の顔を哀願するように覗き込むやせ細った母親の目が、私に訴えているようにも見えたのだ。

記事を読むと、母子はミャンマー仏教徒らの迫害を逃れ、漁船で国境を越え、バングラデシュ領の川中島まで辿りついた。だが、島に停泊中に強盗に襲われ、男たちは逃走、女性と子どもが船中に取り残され、雨の中で飢えと寒さに震えていたという。機関室には生まれたばかりの衰弱した赤ちゃんが泣いていたともあった。

ガンジス川のデルタ地帯でこんな悲惨な事象が起きていることを知り、私は愕然とした。さっそくロヒンギャ問題を補足取材、開発援助の専門誌「国際開発ジャーナル」2012年9月号に寄稿したところ、当時JICAバングラデシュ事務所長だった戸田隆夫氏(現・上級審議役)から「ロヒンギャ問題は極めて深刻で、日本のメディアにも早く取り上げて欲しいと思っていたが、やっと書いてもらえた」というメールを頂いた。戸田所長は長い間、日本のロヒンギャ報道を注視していたようだから、私の記事は、最初ではないとしても日本では、かなり早い時期の詳報だったようだ。

以後も「The Daily Star」紙だけでなく、バングラデシュで活動する日本のNGOの方、ラカイン州の中心地、シットウエーにあるロヒンギャ・キャンプなどで現地調査を続ける日本人研究者らの話を聞いて、ロヒンギャ問題の深層を追ってきた。

ロヒンギャ問題は、知れば知るほど重層的な問題を抱える難題であることに気付く。長期間、鎖国に近い状態にあったミャンマーは、最大都市ヤンゴンでも外部の人間には、立ち入り難い部分があるが、地方都市にはさらに濃い霧がかかる。霧の発生源は、仏教勢力、軍部のようだが、それも定かではない。パソコンや携帯などを使ってロヒンギャのキャンプから発信される情報も、一部に主観的なものもあって100%信じて良いのか、一抹の不安もある。

はっきりしている事実は、ロヒンギャが今、厳しい迫害を受け非人道的な生活を強いられていることだ。だからといってミャンマー政府、スー・チー氏を悪役に仕立てても、根本的な解決策にはならない。英領時代に植えられた根深い悲劇を根治するためには、地域大国のインド、中国にASEAN諸国、さらにイスラム社会という実務的な枠組みの中で、国際秩序に従って早急に解決策を探ることが最善策だ。国連は9月28日に安全保障理事会公開会合を開くなどロヒンギャ問題の解決に前向きだが、急を要する問題だけにバランス重視の国連任せにはしたくない。

日本は9月に河野外相が400万ドルの緊急人道支援を表明している。国際的枠組みの中で、長い日緬両国の交流から得た経験を生かし、独自の効果的支援を行いたい。ミャンマーの宿痾(しゅくあ)の解決に積極的に貢献することは、日緬関係のさらなる発展に繋がるだろう。

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