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一方的な値上げで利用者に牙むく"黒ネコ"

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■不手際を棚上げして、正当化している

「類似の商品を取り扱う業者も出てきて、これから新しい一手が必要だなと考えていた矢先の値上げです。たしかに荷物を運んでくれるドライバーの悲惨な状況を聞けば、のまざるをえないとは思いますが」

労働環境改善のためという理由を持ち出されると反論は難しい。しかし、別の経営者はこう話す。

「ヤマトさんは創業以来、いろいろな規制を突破するため、世論を背景に国を動かしてきた。だから消費者を味方につけるのがうまいし、その手腕には感心していた。しかし、この春以降、メディアへの露出の仕方を見ていると、不手際を棚上げして、正当化しているようにも感じる。要はあざとい。日通、佐川がさじを投げたアマゾンを拾いにいって、パンクしたように見える」

アマゾンの取り扱いについては、B氏も不満がある。

「ある人から『アマゾンに出店したらどうですか』と言われました。ヤマトと直接取引するよりも、アマゾン経由のほうが安くなると。ヤマトとアマゾンが交渉中ですが、われわれよりも安い値段で落ち着く可能性を考えると複雑な気持ちです」

9月28日、日経新聞はヤマトとアマゾンの運賃交渉が大筋合意に至ったと報道。それによれば、「ヤマトのアマゾン向けの運賃は全体平均の半分の280円前後とされる。両社は値上げすることで大筋合意し、400円台以上とする方向で最終調整している」。

今回の値上げに際して、アマゾンの配送を引き受けたことがきっかけになったという見方は根強い。荷物総量の1~2割を占める超大口顧客のアマゾンには甘く、中小企業をいじめているのでは……。そんな批判はまだまだやみそうにない。ヤマトは今、何を考えているのだろうか。

■ヤマトはできる限りのことはしてきたが……

「ヤマトとアマゾンの事例はインパクトこそ大きいものの、氷山の一角。日本の物流そのものが大きな転換期を迎えていると認識するべきです」

そう指摘するのは物流情報専門誌『カーゴニュース』を発行するカーゴ・ジャパンの西村旦社長だ。

「ヤマトへの非難は理解できます。ただ、今回の値上げはアマゾン取り扱いによる負担増だけが理由ではなく、ECの爆発的な伸び、労働コストの上昇が想定を超えたため、というのが公式見解。私もヤマトはできる限りのことはしてきたと感じています。根はより深いところにあるのです」

西村氏によれば、バブル崩壊以降、30年近く手をつけることができなかった問題が、いよいよ臨界を迎えたことこそが本質だという。

そもそものきっかけは1990年に始まったトラック運送業の規制緩和だ。当時、4万だった事業者数は、今では6万超と1.5倍になっている。一方で、国内貨物輸送量は右肩下がり。トンベースではピークだった91年と比較して3分の2まで落ち込んだ。

事業者数の増加は過当競争を呼ぶ。認可制だった運賃が自由化されたことで、運賃を下げてでも仕事が欲しい事業者によりダンピング合戦が勃発。必然、ドライバーの給料も安くなり、業界が敬遠され、人手不足に陥る。

「普段はそれでも何とか回っているから気づきにくい。しかし、12月末や3月末の繁忙期はこれまでもギリギリの状態だったし、消費増税前の駆け込み需要も、物流関係者は冷や汗ものだった。次、荷物がグンと増えたら、いよいよダメかもしれないと感じている関係者は多いんです」(西村氏)

この4月、ヤマトはアマゾンの当日配送からの撤退を発表したが、実は昨年末の時点で、ヤマトはパンク寸前の事態を経験しているという。

「前の日に届け切れなかった荷物が残ることを残荷といいますが、残荷は非常にまずい。営業所で残荷が積み上がっていくと、オペレーションは煩雑さを増し、混乱をきたします」(同)

セールスドライバーが荷物をあらかた配り終えた夕方になって、当日配達の荷物がドカンと運び込まれる。そこからもう一度配達に出なければならないし、不在で持ち帰る荷物もある。これが営業所の残荷を増加させることにつながり、ただでさえ忙しい年末にとうとう爆発したということだ。

■物流の価値を毀損する「送料無料」という呪い

EC普及による小口荷物と再配達の増加により、儲けが薄いにもかかわらず負荷は高まるばかり。そして労働者不足。もうこれ以上、従来の運賃ではもたない。それがヤマトに限らず、物流業界全体の本音だ。

「経済や生活を下支えしている物流は、もう少し正当な評価を受けてもいいのでは。そんな問題意識は関係者に共通するところです。だからヤマトの値上げをきっかけに、物流の適正な対価を見直す流れが生まれてほしい。日本では昔からそば屋の出前もタダ。水と物流はタダだという刷り込みがあるんです。象徴的なのは『送料無料』という言葉ですね」(同)

企業からは不満の声も上がっているヤマトのアナウンスにしても、物流業界全体が抱える問題を今一度世に問うという効果はたしかにあったといえるだろう。一般の消費者にとっては言わずもがな、企業の物流担当者であっても、物流の仕組みや、そこにかかるコストを意識させられる機会はそうそうない。

宅急便の生みの親である小倉昌男氏の「需要者の立場になってものを考える」という理念が、安くて便利なサービスを創出した一方で、値上げを踏みとどまり、自らの首を締めてきたという側面もある。

物流の正当な価値を世間に認めさせる。30年来、手付かずのままになっていたこの課題を解決できるか否かに、ヤマトだけでなく、日本の物流業界全体の命運がかかっている。

(ジャーナリスト 唐仁原 俊博)

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