記事

失われた「遺跡」も復活:オリジナルを超越する「クローン文化財」 - フォーサイト編集部

2/2

甦った「法隆寺金堂」

 このクローン技術を用いた初めての作品は、1949年に焼損した『法隆寺金堂壁画12面』で、それ以前の状態にまで復元した。2014年4月に公開されると、その完成度の高さからたちまち反響を呼んだ。今展覧会では、再現された法隆寺の本尊『釈迦三尊像』も併せて出品されるため、在りし日の法隆寺金堂の空間そのものが文字通り甦る。

画像を見る

復元された『法隆寺釈迦三尊像』。古色仕上げもほどこされ、厳かな雰囲気が漂う

 「中尊は3Dスキャナーでデータを作成したのですが、欠損していた背面や衣の裾など、データが取れなかった部分は、デジタルモニタリングシステムで解析・3D復元をしました。樹脂で鋳型原型を作り、今回は鋳物技術を400年以上にわたり継承している伝統工芸高岡銅器振興協同組合(富山県高岡市)にお願いし、鋳造してもらいました。

そして藝大の鍛金の研究員の人たちに200本近いヤスリを特注し、3Dプリンターによる積層痕を削ってもらい、最後に経年の古色を再現して仕上げました。飛鳥時代の制作当初の姿に迫ろうと、欠落した螺髪(らほつ)や白毫(びゃくごう)も復元。台座の制作は、600年を超える彫刻技術を持つ井波彫刻共同組合(富山県南砺市)にお願いしました」

 「また法隆寺に配されている脇侍は、左右とも衣の裾が中尊に近い方が長く、反対側が短くなっているため、過去の修理の際に左右が逆に置かれてしまったのではと言われています。そこで、再現した三尊像では、脇侍の配置転換をしました。光背周縁から欠損した火焔や飛天、天蓋の鳳凰なども復元しました」

人材育成のための「特許」

 こうしたクローン文化財への取り組みは海外でも高く評価されている。2016年に開催されたG7伊勢志摩サミットでは、『天翔る太陽神』と『法隆寺金堂壁画』を展示し、宮廻教授は各国首脳の前で講演を行った。

画像を見る

G7伊勢志摩サミットにて、各国首脳へクローン文化財について解説する宮廻教授

 「文化財を『現状保存』することも大切ですが、これからはテロや災害で壊れてしまったものでも、データさえあれば復元でき、別の形で継承していくこともできます。講演ではバーミヤン壁画がギリシャ文明、ゾロアスター教、仏教が融合した東西文化の交流の象徴であったことを伝え、宗教紛争が激しさを増す世界の平和を訴えました。アメリカのオバマ前大統領、フランスのオランド前大統領、ドイツのメルケル首相など、熱心に話を聞いてくださいました。クローン文化財は何度でも復元できるので触ってもかまわないのですが、それにも驚いていました」

 このことがきっかけで、同年12月、アラブ首長国連邦のアブダビで行われた「紛争地域における文化遺産保護のための国際会議」に参加し、クローン文化財の利点を世界にアピールすることもできた。

「今回の展覧会のコンセプトも、『混在』。それは、融合して混じり合っているものではなく、同じ場所で個々の尊厳を認めながら存在することを意味します。今回は日本から始まり、シルクロードを辿って北朝鮮、中国、タジキスタン、ミャンマー、アフガニスタンの文化財を展示しますが、それぞれの民族独自の芸術形象の傑作を並置することで、それぞれの『素心』を知り、互いに心を伝え合って平和を育みたいという願いも込めています。それが展覧会タイトルの『素心伝心』」

 宮廻教授はさらに先を見据えている。

「クローン制作の技術で特許を取りましたが、それは技術を守り、各国各地域に技術を正確に伝えて人材育成をしたいからです。自国の文化を顧み、継承できるようになってほしいのです」

シルクロード特別企画展 「素心伝心―クローン文化財 失われた刻の再生」

会場:東京藝術大学大学美術館 3F
開催日時:9月23日(土)~10月26日(木)
開催時間:10:00~17:00(金曜は20:00まで)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
観覧料:一般1000(800)円  高校・大学生800(600)円 中学生以下は無料

※( )内は20名以上の団体料金
※ 団体観覧者20名につき1名の引率者は無料
※障害者手帳をお持ちの方(介護者1名を含む)は無料

あわせて読みたい

「遺跡」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。