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QWERTY理論からみたカタルーニャ分離独立問題:システム変更への「期待」とその功罪

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システム変更への「期待」

 しかし、「不満」があるだけでは、不合理なシステムをリニューアルしようとする試みに繋がるとは限りません。

 QWERTY理論を世に送り出したデーヴィッドに言わせると、あるシステムが他のものを置き換えるかは、そのシステム転換にともなう利益への「期待」が重要な役割を果たします。つまり、「現状に対する不満」があるとしても、「それに代わる代替案によって得られるであろう将来の利益」が説得力をもって人々に語られることにより、システム変更のエネルギーは増幅すると考えられます。これは分離独立運動に限らず、英国のEU離脱などに関しても同様といえます。

 カタルーニャの場合、先述のようにもともとバルセロナを中心とする経済が好調であることから、「スペインから分離独立した方が、自分たちの富をマドリードに吸い上げられず、自分たちはより豊かになれる」という「期待」を抱きやすい環境にあります。

 逆に、その「期待」が広く共有されない場合、いかに現状への不満があろうとも、変革のエネルギーが膨れ上がることはないとみられます。例えば、中国の55の少数民族のうちで分離独立運動が確認されるのは、一定の人口規模を持ち、「独立してもやっていける」と考えやすいウイグルやチベットにほぼ限られ、それ以外は「中国の一部であることによる利益」を優先させる傾向があることは、これを象徴します。

システム変更のリスク

 ただし、いかに不合理なもので、その改善に「期待」がもたれたとしても、既存のシステムの変更にはリスクがともないます。

 第一に、コストがかかることです。仮にQWERTYより完全な配列があったとしても、それを採用しようとすれば、QWERTYが既に定着している以上、PCメーカーがキーボードの配列を全て変更し、ユーザーがそれに慣れるには金銭、労力、時間といったコストがかかります。

 既存の国境というシステムに関しても、それによって利益を得ている人々、特に中央政府にとって、変更は受け入れがたいもので、対立は避けられません。実際、カタルーニャでも独立支持者が警官隊と衝突し、州政府の発表によると893名の負傷者が出ました。イラクのクルド人やカメルーンの英語圏住民の場合、内戦の危険性すらあります。さらに、分離独立の動きが各国に飛び火すれば、既存の国境によって成り立つ国際関係そのものが大きな変動を余儀なくされます。

 これに加えて、第二に、「期待」もやはり不確実なものであることです。Windowsの歴代OSに「期待倒れ」に終わったものが珍しくないように、「現状の国境線を変更することで自分たちの生活がよくなる」というも「期待」にも、何の保障もありません。スーダンでは、南部のアフリカ系キリスト教徒が北部のアラブ系ムスリムによる支配を嫌い、30年以上にわたる内戦を経て2011年に独立しましたが、わずか2年後の2013年に今度は民族間の内戦が発生しました。

 カタルーニャに関しても、分離独立による利益への「期待」を強調する人々は、スペインの一部で無くなることによるリスク(EU市場へのアクセスの問題など)について多くを語りません。これは人に「理解したいように理解する」傾向があることの一例といえるでしょう。

「不満」と「期待」のスパイラル

 こうしてみたとき、カタルーニャの独立宣言のゆくえだけでなく、それが仮に独立した場合もゆくえもまた不確実といえます。

 現状の国境線を拒絶するカタルーニャなどでの分離独立問題に限らず、不確実性が増す現代では、自由貿易を制限しようとするトランプ政権の方針など、既存のシステムの変更を求める動きが広がりつつあります。代替となるシステムへの「期待」は、必ずしも完全でない既存のシステムへの「不満」の裏返しといえます。

 ただし、不確実な「期待」に基づくシステム変更が、「既存のシステムの受益者」にとってだけでなく、「システムから不利益を受ける者」にとっても、「現状よりましな結果」をもたらすとは限りません。その場合、システム変更への「期待」が大きいほど、その結果がもたらす現実とのギャップに基づく「不満」はさらに増幅すると見込まれます'''。

 カタルーニャの分離独立問題は、不確実性に満ちたなかで「不満」と「期待」のスパイラルが深まりやすい国際環境を象徴するといえるでしょう。

※Yahoo!ニュースからの転載

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